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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

物事への働きかけの大切さ

第778号 2021年8月20日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

― 幼児期の原体験を大切に

 夏季講習会中の休み時間、外階段に止まっていた一匹のセミを捕まえて子どもたちに見せると、興奮して触りたいと近寄ってくる子どもたちと、「怖い」と言って教室中を逃げ回る子どもたちがいて、教室内は騒然となりました。初めて見る子の多くは、こわごわ羽を触ったりして何とか持てるようになりたいと何回も触りに来ます。既に経験のある子は、セミが逃げないように両方の羽を外側からしっかり押さえて上手に持って友だちに見せます。怖いと言って逃げ回っていた子どもたちの中には、恐る恐る近寄ってきて友だちが持つのを見ています。触りたい気持ちと、どこかで「怖い」と思う気持ちがあって葛藤しているのかもしれません。怖いと思う子どもの多くが、ひょっとしたら子ども自身よりも、お母さまがセミを見た時に尻込みする様子を見て、その大人の対応で怖がっているのかもしれません。

また別の日、観覧車の学習をする際に「観覧車に乗ったことがある人、手を挙げて?」と聞いた時、手を挙げない子が数人いました。理由を聞くと、自分は乗りたいのにお母さまが高い所は嫌いだからダメ・・・と乗せてもらえない理由を言っています。以前、海に住む生き物の学習をする際に「海に行ったことがある人?」と聞くと、手を挙げない子が数人いました。年長の夏までに、一度も海に行ったことがない子が多いのに驚いたことを記憶しています。「なぜ?」と聞くと「だってお母さんが海は塩でべとべとして気持ちよくないから」と、連れて行ってもらえない理由を言っている子がいました。

都会に住む子どもたちは、日常的に自然に触れる機会が少ないため、保護者の方は意図的に外に出ていろいろな経験をさせようと工夫しているように思います。夏休みがその最大のチャンスなのに、1年前からのコロナ感染症対策で思うように外に出られない現状は、子どもの発達にとってもゆゆしきことです。
またコロナとは関係なく、セミの話も観覧車の話も海の話も、子どもたちの自然へのかかわり方や、幼児期に経験してほしい活動や周りに対するかかわり方を、大人の事情によって遮断していることがないかどうかを、一度考えるきっかけにしてみる必要はあるかもしれません。幼児期の体験がその後の人生に与える影響は計り知れないことを思うと、自然から学ぶ、経験から学ぶ機会を、大人の事情で奪ってしまってはならないことを痛感します。

逆に私の想像を超えて、さまざまな経験をさせようと工夫しているご家庭も多くあります。だいぶ以前のことになりますが、航空会社のサービスを利用して一人で大阪に住むおばあさまのところに行ったり、しまなみ海道をご両親と自転車で走破した年長児もいました。また、富士山頂までご両親と頑張って登山した子もいます。子どもに目標を与え、つらい場面もあるかもしれませんが、少し頑張らせようという試みは、今注目されている「非認知能力」を育てる意味では、貴重な体験のように思います。どのご家庭でもできることではありませんが、机に向かう学習だけが受験にとって大事なのではなく、体力も・気力も・最後まで頑張り抜く力を育てることも、幼児期の大切な教育だと思います。そのためには、目標を一緒に立て、その実現に向けてみんなが協力する体制が必要です。5歳の夏は飛躍の夏です。可能な範囲でぜひいろいろ経験させてあげてください。

― 試行錯誤する経験は財産

 7月に行われたサピックスキッズ の講演会で、私の後に登壇されたサピックスキッズの算数を担当するK先生は、最新の入試問題を分析したうえで試行錯誤することの大切さを強調し、「効率の良い解法を教わろうとする姿勢は自ら発想することを放棄することだ」と述べ、自ら解答を導き出すことの大切さを訴えられていました。私が日々の授業で大切にしている「試行錯誤する」時間の確保が、小学校受験だけでなく、中学校受験でも大事であるというお話は貴重です。難しい問題の解法を教師から教わるのではなく、自ら解こうとする姿勢が大切であるということであり、試行錯誤する時間の重要性を改めて実感しました。

夏季講習会に行った新傾向の難問講座で、折り紙を使った線対称の学習をした際の出来事です。入試では次のような問題がペーパーでよく出されます。

おり紙を使った線対称
  • 左のお部屋のように、おり紙を真四角に4つに折って線のところを切ると、どんな形ができますか。右から選んでをつけてください。

こうした問題はみんなよくできるので、本当に理解しているのかどうかを確かめる意味で次のようなお手本を示し、この中のいくつかについて実際に折り紙を切ってもらいました。


ペーパー問題は完璧にできる子でも、実際に切ってもらうと半分以上間違える子がよくみられます。例えば、一番基本である4つ折りの折り紙から、(1)の丸を切り抜く課題でも、切った結果が(2)になったり、(3)(4)になってしまったりします。今回ご紹介したペーパーの最後の問題ができても、実際の折り紙で(8)や(11)が切れないのです。ではなぜペーパーはできてしまうのでしょうか。
例えば最後の問題を解く際に、消去法で探したり、出来上がったお手本に縦横の線を入れて、4つ出来た形の中から同じ切り方を探したりすればできてしまう場合が少なくありません。ペーパー問題の一つのやり方として分割する方法は有効ですが、対称図形の意味をしっかり身につけるには、実際に切ってみることができて初めて分かったということになるはずです。この問題は典型的な事例の一つですが、受験に向けた指導の中でペーパーだけできればいいのではなく、今回の問題であれば、試行錯誤して自分で切ってみることができるようになってほしいといつも感じています。選択肢から選ぶのではなく、実際に自分でやってみることができる・・・これは他の領域の学習にも共通することだと思います。サピックスキッズの算数担当の先生がお話しされたように、自ら発想することを放棄するような指導にならないように気をつけなくてはなりません。幼児期だからこそ、自分で考える習慣を身につけなくてはなりません。教え込まれた方法は、結局身につかないまま、本試験では応用できないのです。

 3年間一貫教育のこぐま会
「新年中・新年少クラス説明会」オンライン開催
2021年8月28日(土) 10:00~11:00 配信!(無料)
■代表あいさつ
講師:こぐま会 久野泰可
  • こぐま会の学びについて
  • 3年間、KUNOメソッドによる一貫したカリキュラムで指導
■新年中「ゆりクラス」、新年少「すみれクラス」について
講師:齋藤佐知子(クラス担任)
  • ある1日の授業を取り上げて
  • 1年後の変化 - 教師が実感するお子さまの成長
※ご視聴にはお申し込みが必要です
※後日録画配信はありません

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