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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

逆からの問いかけに壁を感じる子どもたち

第777号 2021年8月6日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 毎日暑さが続く中、子どもたちは元気に夏季講習会に通ってきています。ステップ別学習を終え、総合問題の演習に力を割かなければならない時期ですが、今までできなかった問題ができるようになった子が多く、自信をつけて前向きに学習に取り組んでいるように思います。毎年、この夏に1月から3月生まれの子どもたちの学力の伸びを感じています。これまでのステップ別学習は、それぞれの単元の重要事項を、具体物を使い、試行錯誤して問題を解き、最後にペーパー教材ですそ野を広げていくという方法をとってきました。総合問題といったのは、入試問題は単純に一つの単元の課題ではなく、いくつかの単元の要素が組み合わさって問題が作られているという特徴があるためです。こうした問題を解くためにまず大事なことは、基礎をしっかり理解しているかどうかであり、基礎的な事項の組み合わせで問題が難問化していくところをしっかり押さえておかなくてはなりません。例えば以下のような組み合わせです。
  1. 「数の増減」+「一対多対応」
  2. 「鏡映像」+「四方からの観察」
  3. 「四方からの観察」+「つみ木の数あて」
  4. 「一音一文字」+「言葉づくり」
  5. 「シーソー」+「つりあいの混合問題」
  6. 「飛び石移動」+「数の多少」
  7. 「重ね図形」+「点図形」
  8. 「回転推理」+「図形系列」
ですから、それぞれの単元の基礎ができていないところで訓練しても、それはすぐに忘れてしまいます。こうした意味においても、基礎がいかに大事かがわかるはずです。夏だから難しい問題に挑戦・・・でいいのですが、どこで間違えてしまうかを見てみると、必ず基礎の理解のあいまいさに突き当たります。これを克服するために作成した夏季家庭用教材の「基本学習ボード」を何回か繰り返して行うことをお勧めしています。難しい過去問に挑戦することと、基礎がしっかり身についているかどうかを確認する・・・この2つを徹底しなければなりません。

秋に受験を控えた年長クラスの子どもたちを指導していると、今この時期になっても子どもたちが苦労している問題がいくつかあります。その中で最近の出題傾向に合わせて考えてみると、「逆からの問いかけに答えられるかどうか」という問題があります。この課題が大きな壁になって、子どもたちを悩ましています。今年の夏季講習会で見た子どもたちの様子からもそのことがうかがえます。学校の先生方が問題作りにおいて一番気を使うのは難易度です。同じ学校でありながら、難易度の違う問題が混在するのはなぜでしょうか。作問の手法にもよりますが、試験委員の先生方が話し合って全体で難易度を調整している学校もあれば、何人かの先生がそれぞれ問題を作り、それを持ち寄って検討することもあると聞いています。その際、算数の先生は「数」や「論理」に関する問題を作り、国語の先生は言語領域の問題を作る・・・といった具合に、専門とする教科学習を踏まえて問題作りをしているはずです。ですから極端に難しい問題が時々出され、結果としてほとんどの子どもができなかった・・・ということもあるようです。子どもの理解の現状に即していない問題が出てくるのは、そうした問題作りの方法に原因がありますが、それでも多くの場合、平均点が7割前後になるように作られていると思います。中には満点主義で易しい問題をたくさん出す学校もありますが、8枚程の中に2~3枚難しい問題が入るのは一般的だと思います。

では、この夏休みの講座を通して見えてきた「逆からの問いかけ」の難しさを具体的に見てみましょう。

1. 魔法の箱
上のお部屋を見てください。の箱を通ると数が1個増えます。の箱を通ると2個減ります。の箱を通ると2個増えます。
  • このお約束で、下のように左のものが箱を通るといくつになって出てきますか。その数だけ空いているお部屋にをかいてください。右下の問題は空いているお部屋に通る箱の形をかいてください。

魔法の箱と呼んでいる課題の多くは、変化の法則性を自分で発見したり、与えられた約束に基づいて数の変化を考え、最後にいくつになって箱から出てくるかという問題です。この問題の視点を変えて出題すると、「出てくる数ではなく入れた数を求めたり、どんな魔法の箱を通って出てきたかを問いかける」問題となります。そこに逆思考が必要となり、難しい問題になるのです。

2. しりとり
  • しりとりカードを並べました。空いているところに入るものは何ですか。下から当てはまるものを選んで、エンピツで同じ印をかいてください。

しりとり問題の基本は、前の言葉の最後の音で始まる言葉を後ろにつなげていく言葉遊びです。この基本的な約束を踏まえ、最後の言葉から前に戻って言葉を探す「逆しりとり」「あたま取り」の課題が入試でもよく出されます。ルールを逆手に取って考えることができるかどうか・・・ここにも逆思考が求められます。

3. つみ木を使った四方からの観察
左のお部屋をみてください。机の手前と向こう側に女の子が立っています。2人は机の上のつみ木を見ています。
  • 青い服の女の子から見たつみ木はどうなっていますか。同じようにつみ木を積んでください。
  • 向こう側の黄色い服の女の子から見たつみ木はどうなっていますか。女の子からの見え方を考えて、つみ木を積んでください。
右のお部屋を見てください。机の上のものを4人の子どもがまわりから見ています。
  • 手前の青い服の女の子から見るとつみ木はどのように見えるでしょうか。同じになるようにつみ木を積んでください。
  • 右側の赤い服の女の子から見るとどのように見えるでしょうか。その場所からの見え方を考えて、同じになるようにつみ木を積んでください。
  • 緑の服の女の子から見るとどのように見えるでしょうか。見え方を考えて、同じになるようにつみ木を積んでください。
  • 向こう側の黄色い服の女の子から見るとどのように見えるでしょうか。見え方を考えて、同じになるようにつみ木を積んでください。

四方からの観察は、もともと反対からの見え方を問う課題ですから、左右関係の逆思考ということになります。今回はそれに加えて、従来の問いかけとは反対に、それぞれの子どもからの見え方を選択肢から選ぶのではなく、自分で積んでみるという点が特徴です。こうした問題も入試で出始めています。本当に理解できていないと自分で積むことは難しいはずです。

4. 四方からの観察・鏡映像
鏡の前で男の子がポーズをとっています。
  • 鏡の向こう側にいる男の子から見るとどう見えるでしょうか。右から選んで青いをつけてください。
  • 鏡にはどのように映るでしょうか。右から選んで青いをつけてください。

鏡の前でポーズをとっている子どもが鏡にどう映るかという問題と、反対から見たらどう見えるかを考える複合問題です。わかったつもりになっていても、同時に2つの問いかけがあると整理できず、間違えてしまう子が結構見られます。視点を変えた問題が同時に出されると混乱を起こす典型的な問題です。

5. 数の逆思考
次のお話を聞いて答えの数を考えてください。
バナナが何本かありました。そこから6本食べました。その後、お母さんが3本買ってきました。するとバナナは7本になりました。
  • 最初バナナは何本ありましたか。その数だけバナナのお部屋に青いをかいてください。

小学校1年生の後半に学ぶ「逆思考」の問題を、計算式を使わないで幼児に問いかけると以上のような問題になります。時間的経過に沿って数の変化を考えるとすれば、最後に出てくる数を答えるべきなのですか、今回のように最初の数がわからなかったり、途中の数が抜けたりするような問題が、最近の入試でもよく出されています。最後の答えから逆に戻って考えることができるかどうか、場面をイメージし、頭の中で数の操作をしなければならないために、難しい問題のひとつになります。

今回は、夏季講習会で見られた子どもの躓きのなかで、特に多く見られた「逆思考」の課題のいくつかを紹介しました。この、逆からの問いかけはどんな問題にも応用できるはずです。問題作りを工夫する学校の先生方がどの視点から質問をするのかを予想すると、1枚のペーパーを使っていろいろな角度から質問してあげることで、子どもの学習をより深いものにすることができ、今後考えられる新しい形式の問題にも慣れさせることができるはずです。その意味で、ペーパーは量よりも質を工夫して行うことが大事です。そしていつもお願いしていることは、決して解き方を教えないことです。自分で試行錯誤して解けたという自信が、本当に身についた「転移する学力」になるからです。

※次回の更新は8月20日(金)です
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