ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

小学校入試における面接試験の意味

第758号 2021年2月26日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校入試が他の入試と違っていることの一つに、面接試験があります。学校によってその方法はいろいろですが、合否判断に相当関連しているのではないかとみている人は多いはずです。その証拠に、学力試験で高得点を取っても合格につながらない現実があることが、塾内部の模擬試験の結果と本試験の合否の結果を突き合わせてみるとよくわかります。こうした現実があるため、面接試験の重要性が認識される一方で、面接試験の結果に関係者有利となるような得点を反映させているのではないかと疑う人たちも少なからずおります。特に昨年秋の入試では、コロナ禍の初めての入試ということで問題が易しくなり、その分面接試験の結果が今まで以上に合否に影響したのではないかと思われているようです。しかし、私が入手した情報を総合して判断する限り、一部の学校を除き、ほとんどの学校で関係者の有無を面接試験の結果に反映させ、合否判断をしているところはなかったと確信しています。

では面接試験で学校側は何を見ようとしているのでしょうか。それは、一つひとつの質問を見ていけばわかることですが、学校側が一番求めているのは、「家庭らしさ」だと思います。質問に対する答えに優劣をつけるのではなく、子ども・母親・父親の三者に違った質問をしつつも、そこで明らかにしたいのは、それぞれのご家庭の「家庭らしさ」「面接の時間に醸し出される家庭の雰囲気」だと思います。どんな育ちをしてきたのか、家庭の考え方と学校の方針が一致しているのかどうか、6年間続く学校生活を通して、家庭と学校が同じ考えで子どもの成長を見守っていくことができるのかどうか。将来にわたって問題行動を起こすような要素がないのかどうかも見られているはずです。両親相互の信頼関係、親子の絆などを判断する質問が並んでいるはずです。ですから、一番いけないことは回答を事前に用意し、それを丸暗記して面接に臨むことです。こういう質問が来たらこう答えよう、と答えの引き出しをたくさん持ち、それを丸暗記して面接に臨むと、途中で話せなくなってしまうことが多いようです。会話形式で進んでいく面接試験では、学校側の質問の意図をしっかり理解して答えなければならないし、また、答えた内容に畳み掛けるように再質問されるような面接では、用意した答えを機械的に答えるだけでは不十分です。学校側が求めているのは、質問に対する答えの内容ではなく、日々実践している子育ての在り方だからです。その方向性が学校の方針と合っているのかどうかが見られているのです。

では、実際の面接試験はどのように行われるのでしょうか。2021年度の入試の中から、典型的な面接試験の実際をご紹介しますので、学校側が何を求めているのか読み取ってください。

【 面接 】

(両親と子どもの面接が行われる / 面接官は2人で時間は約10分)
子どもに向けて
  1. お名前を教えてください。
  2. 好きな遊びは何ですか。→発展
  3. 家族で一緒に何をして遊びますか。→発展
  4. お父様の名前を教えてください。→どんなお父様ですか。
  5. お父様と何をして遊びますか。→発展 ・好きな天気は何ですか。→発展
  6. 小学生になったら何をしたいですか。
  7. お手伝いは何をしていますか。→発展
父親に向けて
  1. 本校の教育方針の3つの中から1つを選んで、どのようなお考えかをお聞かせください。
  2. 本校のどこを気に入って志望されたか、手短にお話しください。
  3. 本校を選んだ決め手は何ですか。
  4. ご家庭の独自の教育方針をお話しください。→それをどのようにしてお子様に伝えていますか。→発展
  5. グローバルマインドについて、どのようにお考えですか。
母親に向けて
  1. 本校では主体性を大切にしていますが、ご家庭で主体性を大切にしていることはありますか。
  2. ご家庭で主体性を持たせるためにしていることを具体的にお話しください。
  3. 今後ますますIT化・情報化した社会になる中、どのような教育をされますか。
  4. 小学校で情報教育をどのように取り入れていくと良いとお考えですか。
  5. お子様の自己肯定感を高めるためにどのようなことをしていますか。
  6. お子様が今夢中になっているものは何ですか。それを親としてどのように関わっていますか。
  7. (仕事をしている場合)お仕事で忙しくお疲れだと思いますが、お子様とどのような時間を過ごされていますか。
親子3人で相談
  1. 生き物を飼うとしたら何を飼いたいですか。3人で話し合って発表してください。→子どもが発表する→発展
  2. (種を見せられて)この種を育ててどうしたいかを3人で話し合って発表してください。→子どもが発表する→発展
  3. どこにでも行ける乗り物があるとしたら、どこに行って何をしたいですか。3人で話し合って発表してください。→子どもが発表する→発展
  4. (箱を見せられて)この中にあなたにとってうれしいものが入っています。何が入っていると思いますか。どうしてうれしいかも教えてください。3人で話し合って発表してください。→子どもが発表する→発展
※複数組のご家庭から聞き取らせていただいた質問をまとめたものです。1回分の面接内容ではありません。実際に質問されるのは、この中のいくつかであるとお考えください。


さて、この面接内容を読み取って、何をお感じになりましたでしょうか。他校の面接内容も、多かれ少なかれ、類似した質問がみられます。子どもには、普段の生活の中で経験する遊びやお手伝いについて問いかけ、答えた内容について別の質問をするといった形で行われています。特にここで注意すべきは、質問に答えたらそれで終わりではなく、その答えた内容について、新たな質問が行われるという点です。ですから、答えを丸暗記するような練習ではあまり意味がないということがおわかりいただけたと思います。「遊び」にしても「お手伝い」にしても、どんな質問をされても答えていけるような、普段からの話し合いが必要です。次に父親に対する質問です。当然のことですが志望理由を聞かれていますが、その前提として、学校の教育方針の一つについて考えを述べさせたり、ご家庭独自の教育方針を子どもにどのように伝えていくかといった、極めて具体的な子育ての在り方が問われています。また、母親に向けた「主体性をどう育てるか」や「自己肯定感を高めるためにどのようにしているか」といった、やや抽象的な質問でありながら、しかし具体的な解決策を求めているところは特筆すべきです。それは、裏返せば入学後の子どもたちの様子を見て、主体性に欠ける子や自己肯定感が持てない子が多くみられるという学校側の苦悩を表しています。最後に行われる親子3人による相談とその発表は、この学校独特の方法だと思いますが、ここで問われているのは、子どもが発表した内容ではなく、話し合いを通してみられるそれぞれのご家庭が醸し出す雰囲気を見て、子育ての背景を具体的に見ようとしているのだと思います。ご両親の信頼関係、親の子どもに対するかかわり方、子の親に対する姿勢、それこそが家庭教育の実態なのです。その結果と行動観察で見られる子どもの自立性や主体性が関連づけられてみられているのでしょう。

面接試験だから「問われた質問に正確に答えていけばいい」というものではありません。この学校の三者への質問内容を関連付けてみると、これまでの子育てをどのようにしてこられたのか、まさにご家庭で実践されてきたその家庭独自の教育方針が何であるのかをできるだけ具体的にお伝えするということが何よりも大事であるということがわかります。模範解答があるわけではありません。立派な答えを求めているわけでもありません。それぞれのご家庭の、その家庭らしさを学校側にどう伝えるか。それが面接試験のポイントです。お父さまが質問を受けているときにお母さまの表情が観察されているのは、そこに借り物ではない確固たる信念と信頼関係があるかどうかが見られているからです。

PAGE TOP