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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

塾側から学校側へのメッセージ

第757号 2021年2月19日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 毎年2月になると前年秋に行われた首都圏の私立小学校の受験結果を分析し、学校側と塾側(4社)が交流するセミナーが、WEBサイト「お受験じょうほう」 を運営する株式会社バレクセル主催で行われます。今年はコロナ禍で一堂に会することができないため、「お受験じょうほう オンラインセミナー」の形で「小学校受験の保護者の志向について、幼児教室から私立小学校への提言」として、塾側が学校側にメッセージを送る形で行われました。私も登壇者の一人として「入試問題から小学校受験を紐解く」と題し、今年の入試を総括して以下のように3つの観点で20分ほどお話をさせていただきました。

「入試問題から小学校受験を紐解く」

  1. 志願者増の背景に、ひとりの子どもが併願する学校が増えたことが考えられる(平均7校)。緊急事態宣言中の私学の取り組みを保護者が見て、公立校との差を再確認し、なんとしても私学に入れたいと併願校を増やしたのではないかと思われる

  2. 各学校ともコロナ禍の入試という初めての経験であったが、問題を見ると試験方法を相当工夫したことが分かる
    1. 入試問題が易しくなった。知能検査をもとにして作られた基本問題が多く出された(点図形・同数発見・同図形発見)
    2. 勉強時間があまりとれないだろうと考えた学校側の配慮で、難しい問題は相当数減少したが、考える力を求める問題もいくつかみられる。そのうちの4問を紹介し、問題の意図を分析した。そのうちの1問は以下の通りである。四方からの観察とつみ木の数当ての複合問題で、視点を変えてものを見る意味で大変良い問題である

      四方からの観察を含んだつみ木の数当て
      上の絵を見てください。テーブルの上のつみ木をまわりから動物が見ています。前から見ているウサギはつみ木の黄色いところ、右から見ているクマからはつみ木の青いところが見えます。木の上から見ているサルからはつみ木の赤いところが見えています。
      • 下の絵を見てください。下の机の上のつみ木をまわりから動物たちが見ると、それぞれ右のように見えました。机の上のつみ木はいくつでできていますか。その数だけ下のお部屋に青いをかいてください。

    3. 行動観察の変化は事前に予想できた。密をつくらないように、集団で行いながらも個人個人のものごとへの取り組みを見る課題が多かった(運動課題・制作課題・手先の巧緻性)
    4. 面接での質問の中にもコロナの影響がみられる。休園期間中や在宅勤務中に考え、感じたことを尋ねる問題が見られた
    5. 父親の子育てに関わる姿勢や考え方を問う問題も増えた。

  3. 保護者の動きを見て塾側からの提案
     入試対策を意味のある幼児期の基礎教育につなげるために
    1. 入試に関する学校側からのメッセージを保護者に送っていただきたい
    2. 可能な限りの情報公開をお願いしたい
    3. 20名~30名も補欠合格者を出す根拠は何か。補欠合格となったご家庭の合格発表後の心情を察すると、回っても来ない番号を与え、期待を持たせることも酷なことである。昔は前年度に動いた数を踏まえ、回って来る可能性のある数だけ補欠合格者を出すということが暗黙の了解になっていたと思うが、今は、水増し合格を出した上に相当数の補欠合格者を出している。これは一体どういうことなのか

私は、1972年に初めて幼児教室の教師として現場に立ち、幼児期の基礎教育の在り方を実践を通して考え続けてきました。来年4月には教師生活50周年を迎えますが、小学校受験の功罪をあらゆる視点で考え続け、私なりの考えを発信してきました。意図的な教育は幼児期には必要でないと考え続けられてきた日本の幼児教育にとって、小学校受験は幼児期の基礎教育の大切さを考え、系統的な学習を促す動機づけにはとても意味のあることだと考えています。一方で情報が公開されないため、何をどう学べばいいのか分からず、教科書のない入試で右往左往する保護者もたくさんいます。詰め込みの間違った教育で子どもの成長の芽を摘み取り、自己肯定感を奪ってしまう受験競争の弊害も指摘してきました。受験を意味あるものにするために、正確な情報を届けることは私たちの役割だと考え、小学校受験の問題分析を30年以上にわたって行ってきています。そのため、こうした会合があるたびに、出題された問題の評価を小学校の先生方にお伝えし、良質な問題作りをお願いしてきました。時代が「情報開示」へと流れる中で、かたくなに情報公開を拒否する学校側の思惑は一体どこにあるのでしょうか。子どもたちを送り出す塾側と、子どもたちを受け入れる学校側が、子どもたちの将来を見据え、ともに良き教育環境をつくらなければなりません。受験のために親子関係が険悪になり、自信が持てず、学ぶことを嫌いになってしまうような子どもを生み出すことになってはいけません。そうならないためにも、学校からのメッセージがどうしても必要ですし、学校側も幼児教室で行われている受験対策の実態を知っておくべきです。入試に向けた学習を意味のある幼児期の基礎教育につなげるために、あと少し子どものいる現場に張り付いて、一実践者としての想いを学校側に訴え続けていきたいと思います。

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