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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

再び「小学校0年生」を考える

第753号 2021年1月15日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年コロナ禍の休校措置期間中に、9月入学を推進するための方策として「小学0年生」の考え方が文科省より提案されました。9月を新年度にするために、4月に入学する子と、翌年の4月に入学する年中児のうち4月から8月生まれの子をまとめて「小学0年生」として括り、一挙に9月入学を実現しようとする構想です。しかし、さまざまなところから反対意見があって結局実現しなかったばかりでなく、9月入学や小学0年生の議論はどこかに消えてしまったようです。一度話題になってもその後が続かないため、構想そのものがどこかに消えてしまい、何事もなかったかのように過ぎ去ってしまう。これは日本独特の現象でしょうか。コロナの感染症対策も後手後手の対応で政治の在り方が問われていますが、教育改革も話題になっても、すぐに忘れ去られてしまう現状です。9月入学や就学年齢の1年引き下げの議論も、出ては消え、消えては出てという繰り返しで、時間をかけて本格的な議論に発展しないのはなぜなのでしょうか。

私が「小学0年生」の話を聞いてこれはいいなと思ったのは、単に小学1年生の前の「小学0年生」という順序の問題や、小学1年生を1年引き下げることを良しとしたわけではありません。「小学0年生」に込めた私の想いは、以下の理由によるものです。

  1. 日本の幼稚園や保育園での教育・保育の現状を考えると、幼児期の意図的な教育は受験のためとみられてしまい、幼児期の基礎教育の実践として正当に評価されていない面がある。「小学0年生」という表現をすることで、わたしたちの実践が小学校に上がる前の基礎教育として受け止めてもらえるのではないか
  2. 「小学0年生」とすることで、1年前倒しの先取り教育をするという意味ではなく、「0年生」は1年生とは違った内容と方法で、幼小をつなぐ教育(幼小一貫教育)として受け止めてもらえるのではないか
  3. 教育内容を踏まえた議論をするために、私たちが「教科前基礎教育」として30年間実践してきた内容を「小学0年生」の学びとして提案できれば、具体的な議論として発展し、さまざまな意見が出てくるのではないか

つまり「小学校0年生」を強調することで、小学校に上がる前の子どもたちの教育内容がどうあるべきかを考えるきっかけになるのではないかと期待しているのです。

9月入学議論が深まれば、その前の教育の在り方が当然問われてきます。ジェームズ・ヘックマン氏が、「5歳までの教育が人間の一生を左右するかもしれない」という仮説を出して以降、最近日本でも意図的な教育が幼児期から行われなくてはならないと考える教育関係者が増えていることは事実です。しかし、何をどう学ぶのか、これまで重視されてきた「遊び」をどう位置付け、学習内容とどうつないでいくのかの議論は一向に深まっていません。自治体単位で小学校との連携を模索した動きもありますが、研究者主導の改革では限界があります。文献をたくさん集めて方針を打ち出しても、あるいは外国の実践をどう紹介しても、日本の教育現場が変わろうとしなければ教育の改革は進みません。その意味で、実践の現場で悪戦苦闘する現場の教師・保育者がもっと口を開かなければなりません。

今回の9月入学騒動を経験し、いろいろな国の学校制度、特に幼小のつながりをどのように実行しているかを調べてみました。その中で、イギリスの「レセプション」という制度を知りました。それは、小学校が始まる前の4~5歳児が通う学年で、まさしく小学0年生の位置づけです。イギリスの義務教育は5歳からで、レセプションは義務教育ではありませんが、クラスが小学校の中にあり公立小の場合は無償ですから、ほとんどの子どもが通うようです。そこではもちろん読み・書きもあるようですが、遊びもたくさん用意されており、小学校の上がる前の就学前教育と位置付けられています。
イギリスでは3歳から4歳まではNurseryがあり、これが就学前教育として位置づけられ、その後レセプション(4歳~5歳)、初等教育(5歳~11歳)、中等教育(11歳~16歳)と続きます。

それぞれの国には長い教育の歴史があり、日本の教育も海外から高く評価されています。特に東南アジアの国々の人たちは、日本の幼児教育を素晴らしいと評価しています。その多くが、集団活動のすばらしさ、あいさつに始まる礼儀正しさに対するもののようです。ですから、日本の幼児教育の改革についても、外国の制度をそのまま持ち込むということではなく、これからの時代に合った教育システムを構築していくのが良いと思います。その際、イギリスの「レセプション」の考え方は、とても参考になるはずですし、それを「小学0年生」という括り方で見ていくと、小学校へのつながりを考えた幼児教育の在り方が見えてくるはずです。意図的な教育を受験のための教育とみてしまう幼児教育関係者があまりにも多いことにがっかりしますが、同時に発想の貧困さを感じてしまいます。まずここから脱却しなければ、日本の幼児教育を変革することはできないでしょう。

朝日新聞社ウェブメディア『みらのび』にて
インタビュー連載「小学0年生の考える力」がスタートしました
朝日新聞社ウェブメディア「みらのび」 学びインタビュー https://miranobi.asahi.com/ 
(運営 朝日新聞社)
掲載コーナー:みらのび「学びインタビュー」
【第1回】2020年11月24日付
コロナ禍で激変した小学校入試 面接重視や「行動観察」の変更
【第2回】2020年12月13日付
マスクで幼児のコミュニケーション力低下が心配 親としてできること

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