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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「Withコロナ」時代の初めての入試

第744号 2020年11月6日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 首都圏の入試もすでに発表を終えた学校があり、後半日程の試験がこれからも続きます。今年は休校・休園措置などの影響で学校説明会も従来の形式ではできず、オンラインで行われました。9月以降、少人数を集めて従来の形式で行われた学校もありましたが、ほとんどがオンライン説明会でした。願書配布からはじまり、オンライン説明会の実施、願書受付、合格発表など、学校側も実施の方法を相当工夫して行いました。

10月半ばから始まった神奈川県の学校も含め、これまで終了した首都圏の学校の入試を見ても、さまざまな点でコロナ時代の入試として新しい試みが随所に見られました。現在、会員の皆さまが受験された学校の聞き取り調査を進めていますが、入試全体の様子がわかるにはまだ時間が必要です。コロナ時代の初めての入試ということもあり、これまで以上に詳しい情報を集め、きちんとした資料にまとめ、来年以降受験される皆さまに正確な情報をお伝えしたいと思っています。毎年12月に入ってから行う「入試結果報告会」は、大勢が一堂に集まって行う形ではできませんので、今年は会員の皆さまのみにオンラインセミナーとしてお届けする予定です。昨年までは外部にも公開していたセミナーですので、何らかの形で資料集は作る予定です。コロナ時代の初めての入試ですから、願書配布から始まって合格発表までの流れの変化をしっかりつかんでおく必要があります。今回の入試の中で私たちが注目しているのは、以下の4点です。

  1. 面接にはどんな変化が見られたのか
  2. 学力試験の内容や難易度に変化はあったのか
  3. コロナ禍の中で行動観察はどのように行われたのか
  4. 合否判定はどのように行われたか

これまでに集まった学校別の情報を見る限り、それぞれの項目に変化が見られます。当然といえば当然ですが、それは入試前から私たちが予想していた通りの変化です。

  1. 面接重視の中で、休園期間中の家庭での過ごし方がテーマになることが多かった
  2. 難しい問題はほとんどなく、基本問題が多く出されている
  3. 行動観察は密をつくらない運動的な課題や絵画・製作的な課題が多くなり、予想した通り、これまで行われていたような相談し、協力して何かを作り上げ、それを使って「ごっこ遊び」をするというような行動観察は行われていない。そこで何が問われたのかは十分な分析が必要である
  4. 学校によっては、やや関係者有利の合否判定に傾いた可能性があるが、女子校の多くは実力で合否を判定しているように思われる

今年の入試の変化が、これまでの入試が変わるきっかけになるかもしれません。だからこそそこをしっかり押さえて、来年秋の入試に備えなければなりません。

一番注目していた行動観察の変化の一例を紹介しましょう。

「身体を使ったジャンケン」
  • テレビの映像を見ながら、身体を使ったジャンケンを全員で行う。
    「ジャンケン、ポン!」のかけ声で普通のジャンケン、後出しで勝つジャンケン、後出しで負けるジャンケンの3パターンを2回ずつ行う。それぞれ「次は勝ってください」など指示がある。

「ぬり絵」
  • B4サイズ縦向きの紙にかかれた花瓶と3~4本の花の絵にクーピーペン(赤、青、黄、緑)で色を塗る。「ていねいに塗ってください」と指示がある。
    ※花の種類はチューリップ、スズラン、コスモスなど1本ずつ違う

ある学校の今年の行動観察の第一報ですが、これまで密な状況でみんなで相談し、制作するものを決め、みんなで協力して作り上げ、それを使って楽しむというような課題を出していた学校が、上のような内容に変わりました。運動的な課題が増えるだろう、そしてあまり相談しなくてもできるような課題製作が出されるかも知れないと予想した通りの内容になりました。そこで問われているのは、主体的なかかわり、取り組む意欲でしょう。後出しじゃんけんには関係性の理解が必要です。子ども同士が対話するチャンスはあまりなかったようですが、例えば「ていねいに塗ってください」のように、その学校でこれまで大事にされてきたことがきちんと要求されています。これはほんの一例ですが、こうした変化の中に、学校側が求める「非認知能力」が読み取れます。取り組む意欲を育てる教育は、ペーパーを何十枚とやりこなす訓練では不可能です。今回の入試が、小学校入試の虚像を打ち壊し、教え込みの教育ではなく、主体性を育てる教育に受験界全体が変わるきっかけになってくれたら・・・と願うばかりです。

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