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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

オンライン学習は幼児期の基礎教育にはなじまない

第734号 2020年8月28日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会は8月22日にすべての夏季講習会を無事終了し、24日から日常授業(集中授業)に戻りました。感染症対策をとりながらの講習会でしたので相当神経を使いながらの授業運営でしたが、例年と同じような流れで計画通りの学習が実施できたことに職員一同安堵しています。ビニールカーテンで教師側と子ども側の空間を仕切って全員マスクをつけた授業は、教師だけでなく子どもにとってもつらい学習でした。声が通りにくく聞き取りにくい点を改善しながら授業を進めたり、行動観察につながる非認知能力の育成については、3密を避けながら実行しました。オンライン学習がはやりの状況ですが、やはり教師が語りかけ、子ども同士のやり取りの中で学習が進む楽しさは、何物にも代えがたい教育の基本です。コロナ以前から存在していた「タブレット学習」や「オンライン学習」がこれまであまり評価されずにきたのは、対面授業に変わるものではないと、誰もが理解していたからだろうと思います。それが、コロナの休校措置で対面授業ができなくなったために一躍クローズアップされただけの話で、対面授業にとって変わる有力な教育方法ではありません。コロナ後の世界においてはオンライン学習が主流になっていくといったような風潮がありますが、幼児期の基礎教育にとっては、それはあまり好ましいものではありません。なぜなら、知識の伝達はできても、考える力の基礎を身につける教育方法としては不適切だからです。

昨日8月25日のテレビ報道によると、いま大学で退学や休学を検討している学生が4人に1人はいるということです。4月入学からほとんどの授業がオンライン授業で、先生とも会えない、学生同士も会えない・・・にもかかわらず授業料は通常どおり払わなければならない・・・となると、何のための大学生だろうと考えてしまうようです。また、授業の質が良くないということも不満の一つにあるようです。コロナ対策の重要なカギである3密の中でも、密集・密接は教育にとっては不可欠な要素です。大学生であれば、単に知識の習得だけでなく、教授との交流や学生同士の交流・仲間づくり、サークル活動など、社会人になっていくための不可欠な活動がたくさんあります。そのすべてが削られ、自宅が大学の教室になってしまったような現状では、行き詰ってしまうのも当然です。もともとアメリカの大学から始まったオンライン学習(反転授業)は、基礎的な事項をオンラインで学び、基礎知識を持った学生が教室に集まり、ディスカッションを通して理解を深めたり、新しい価値を創造していくという点に意味があったのです。目的がはっきりしていて、その準備のためにオンライン学習は有効だったのですが、今や人と人とが対面できにくい状況の中で、オンラインの学習だけがクローズアップされてしまっている感じがします。オンラインの学習はあくまで補助的な手段であって、それが目的になっているような今の流れは、教育そのものを破壊してしまう大変危険な流れです。人が集まり、集団で学びあいをすることを基本とし、その上でオンライン学習を有効に組み合わせていくことが、これからの時代の教育に求められる方法だと思います。

幼児期の基礎教育は知識の伝達ではありません。ものに触れ、人と関わり、問題解決のために試行錯誤し、集団で学びあうことが大事です。そうした事物教育や対話教育こそが教育方法の中心になければなりません。その意味で、最初からオンライン学習で済ますような方法は、幼児期の基礎教育にはなじみません。そこをまずしっかりと押さえておかなければなりません。しかし私は、決してオンライン学習を否定するわけではありません。どういう仕組みの中でオンライン学習を活用できるのかを検討する必要があります。対面授業を基本としながら、予習や復習に有効に使う手だてがあるはずです。学習の動機付けから始めなくてはならない幼児の場合は、最初からオンライン学習を始めるのではなく、対面で学習したことの繰り返しのトレーニングをオンラインで行うことができれば、効果は相当望めるはずです。事物を使って身につけた力をより定着させるために行う繰り返しのトレーニングは、オンライン学習で十分できるはずです。小学校高学年からは、調べ学習も含め、予習としてオンラインで学ぶことにも意味があるように思います。中学生以降は、何を学ぶかの目的意識をもって関わることができるので、アメリカで最初に行った「反転授業」が可能になるかもしれません。このように、オンライン学習にも評価すべき点はいくつかあります。オンライン学習が一種のブームで終わらないように、対面授業を中心にすえ、それを補完する有力な方法として、これからいろいろな試行錯誤をしていく必要があります。オンライン学習が目的になっているような今の流れは危険ですが、新しい教育方法として検討する意味はあるように思います。教育効果をしっかり見極め、いろいろな活動との組み合わせで実際の授業に組み込んでいく道を探す必要があります。日本の教育のIT化が遅れているとして、生徒全員にタブレットを配布する動きがありますが、そうした環境整備だけでなく、教育の中身・教育の質をどうするかを真剣に検討しなければなりません。効率化だけを求めるような動きは危険です。板書がなくなったり、音読する機会が少なくなったり・・・昔からあった教育法が削られていく流れはどこかで阻止しなければなりません。ひょっとしたら、非効率の中にこそ教育にとって大事な経験があるのかもしれません。集団学習よりも個別学習のほうが効率がいい部分も確かにあるでしょう。しかしその非効率な部分にこそ教育にとって本質的なものがあるのも事実です。集団で学びあう経験は、年齢が下であれば下がるほど大切にされなくてはなりません。

オンライン学習をせざるを得なかった今回の休校措置での経験を活かし、コロナ後の学習法としてオンライン学習を有効活用するために、最低1年間をかけて内容を検討したいと思います。どんな内容で行うのが幼児期の子どもたちにとって有効かを、実践を通して明らかにしていくつもりです。9月から開始するセブンステップスカリキュラムの開始にあわせ、教室での対面学習と家庭でのオンライン学習を連動させる試みを9月から開始する予定で、準備を進めています。教室での学びを定着させるために、どんな内容のオンライン学習が有効か・・・・実践を通して明らかにし、そこでエビデンスをとった上で商品化していくつもりです。現在多くの皆さまに使っていただいている「ひとりでとっくん」シリーズも、100冊完成させるのに20年間かかりました。今回のオンライン学習の内容も同じような手法で、現場で実践し、効果を確認しながら内容を積み上げていくつもりです。ブームに乗って、オンライン学習をすぐに商品化するようなやり方は「方法は最新なものでありながら、中身は読み・書き・計算に象徴される古臭いもの」に終わってしまうでしょう。新しい教育方法の確立には、中身が伴うものですから相当の時間が必要です。これから1年間かけて「こぐま会Webレッスン」の内容を実践を通して完成させていきますので、ご期待ください。

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