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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「型にはめ込む受験対策を学校側は歓迎していない」

第727号 2020年7月3日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 東京都における新型コロナウイルス新規感染者数は減少するどころか増加している現在、教育現場ではさまざまな不安が広がっています。子ども間における感染拡大はほとんど見られませんが、関係者は学校における集団感染を一番恐れ、細心の注意を払いながら教育を止めない努力をしています。授業を再開したとはいえ、分散登校のために十分な授業時間が確保できていない状況ですから、これから秋口に第2波が来たら年間の指導計画をどうするのでしょう。また、受験を控える年長児の保護者の皆さまの中にも実際の入試がどのように行われるのか、不安な想いで家庭学習に取り組んでいる方が大勢います。これまでの学校取材で判明した関係者の話を総合すると、入試は従来どおりに行う予定であるが、状況を鑑み入試の方法や入試内容を若干変更すると考えている学校が多いようです。特に行動観察の方法をどうするかは、学校側も頭を悩ませているようです。その代わりに面接の時間をこれまでより長く取り、面接を通して家庭での子どもの育ちや子育ての考え方を知り、学校の教育方針と合うか合わないかを見ていこうと考えている学校もあるようです。その意味で、面接試験の重要性がこれまで以上に増す入試になるだろうということは予想できます。ご両親の果たす役割がこれまで以上に増しています。特に、緊急事態宣言に伴う休校期間中にどんな経験をされたのかが必ず問われるはずです。休校期間中に経験したご家庭での経験を印象深く定着させておくことは大事です。特にお手伝い、植物や動物の世話などの経験は大事です。またご両親と一緒に遊んだ経験を絵日記などに描いておくことも重要でしょう。そうしたありふれた些細な経験の中に家庭らしさが見られ、それを学校側は評価しようとしているはずです。美辞麗句を並べた願書より、そうした「家庭らしさ」での取り組みを紹介する中で、家庭での子育ての考え方を伝えるチャンスがあるはずです。

さて、6月1日から再開した授業もあっという間に1カ月が経ちました。先生や友だちと会える喜びや、何よりも具体物を使った授業に対する興味関心が高く、毎週楽しそうに通ってきてくれています。入試まであと4カ月。入試情報も例年に比べて極めて少ない状況で、保護者の皆さまは不安にならざるを得ません。これから4カ月何をどうすべきか・・・多くの皆さまから質問を受けます。その質問に答えるべく、私たちも学校側に取材や講演を依頼し、現在の状況を踏まえて今年の入試がどうなるかを伺ってきました。現在、学校説明会はオンラインで行われていますが、9月以降可能ならば実際に学校に足を運んでいただいて、従来のような説明会を開催したいと考えている学校が多いのも事実です。予定していた説明会・学校見学会・子ども向けの体験会(お遊び会)を延期したり、断念したりするケースも目立ちます。感染状況を見て、これからも予定していたものが中止されたりすることはありえます。そんな状況の中で実現したインタビューによる取材や、人数を制限した講演会におけるお話は、私自身にとってもいい勉強の機会になりました。そして、学校側が考えている望ましい子ども像や幼児期の教育の方法などについて、こぐま会がこれまで実践し、主張してきたことに間違いはなかったことを確認しています。特に明確になったことは、何のために入学試験をするか・・・ということです。定員があり、それ以上の希望者があれば何らかの方法で選択しなければなりません。そのための入試ですが、では合否の基準はなんでしょう。上級校と同じように、点数の上から順番に取ります・・・という学校はほとんどありません。学力試験の結果が順位で表されても、それがイコール合否判断にそのまま直結することはありません。行動観察や面接が行われる理由はそこにあり、学力試験の結果は選択基準のひとつに過ぎません。では、行動観察や面接で何を見ようとしているのでしょうか。これが小学校入試の合否のポイントです。それは、一言で言えば「将来伸びる子をとりたい」ということです。決して現在の身につけた学力だけで合否を判断しないということです。できたからよい、できないからだめという世界ではありません。目に見えて形になった学力や行動だけで合否を判断していないということは重要です。「教え込まれて身についた学力や、形式だけ身につけた振る舞いは、学校側は信用していない」とはっきり述べています。当たり前のことですが、これを明確に述べていることを知ったことは、私たちの受験対策が間違っていなかったことを確認する意味でありがたいお話です。

受験に向けて、多くの幼児教室がペーパー中心の訓練を行っています。1,000以上もあるといわれる首都圏の幼児教室で行われている教育方法を学校側が把握しているわけはありませんが、少なくとも教え込みのペーパー主義の教育や、型を教え込むやり方を歓迎する学校は何処にもありません。親の言うなりになって、ペーパ-だけをつめ込んできた子どもはすぐに分かるようです。表情がない、子どもらしい振る舞いがない、親の視線をいつも気にしている、自分で考え行動することができない・・・そうした子どもの動きの背景に親の教育に対する考えが凝縮していることは、すぐに見抜けるようです。

間違った受験対策は、子どもの伸びようとする芽を摘み取ってしまいます。学校側が一番見たい「その子らしさ」を失った状態で試験を受けても、どんなに学力があったところで合格にはつながりません。学校が講演会で、コロナによる休校期間中に何をなしたかを語ることでその学校らしさを表現するように、今年の入試のポイントは、コロナによる自粛生活の中で、家庭はどんな工夫をして親子の絆を深め、どのように親と子が向き合ったか・・・それがさまざまなところで問われるでしょう。「お休み期間中に、お父さんお母さんと何か楽しいことをしましたか」という質問にどう応えられるか・・・作り話ではなく、心をこめて語ることができる経験が子どもに定着しているかどうか、そこが合否の分かれ目になるでしょう。「お勉強を毎日たくさんしていました」・・・では、結果は明らかです。

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