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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「対面授業・学びあいの素晴らしさ」

第728号 2020年7月10日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 6月1日から再開した教室での授業もはや1カ月が経ちました。以前のような対面授業はできませんが、感染症対策を徹底しながら教師と子ども・子ども同士の対話を重視した授業を進めています。マスクをしたままの授業ですから、子どもの表情が十分読み取れず、子どもの反応を見ながら進めてきた授業には制限がかかってしまいますが、それでも目の動きや、子どもが反応する声・しぐさから子どもたちの気持ちを汲み取りながら授業を進めています。

オンラインでの授業は、最初のうちは珍しさも手伝って相当集中していたようですが、子ども自身にとっても分かりづらいところもあったようです。子どもたちに聞いてみると、やはり先生がいて、お友だちがいて、具体物を使って一緒に勉強するほうが楽しいと答える子がほとんどです。これからの教育においてはオンライン授業が行われるケースが増えていくと思われますが、教育の基本は対面での指導であることを忘れてはなりません。便利さや効率だけが前面に出て、「対面授業」の価値が薄れていってしまってはいけません。

子どもたちが認識能力を高めるのは、物事に働きかけ、試行錯誤して答えにたどり着くそのプロセスにあります。しかしそれだけではありません。五感を通して外の世界を認識していく乳児と同じように、成長の過程で五感、特に触索を通して物事を感じ、イメージする経験は大事です。五感の中でも、味覚や臭覚などは教育の対象にしづらいものですが、視覚・聴覚・触覚は、教育の対象にできる大事な感覚です。その中でも触索は、事物教育を推進するにはとても大事な方法です。

対面での事物教育は、モノの果たす役割だけでなく、人が果たす役割にも注目しておかなければなりません。教室空間を12名ほどの子どもたちと共有し、教師の声かけによって授業は進行していくわけですが、そこにおける集団の意味は、単なる12名の寄せ集めではなく、一人一人の子どもにとってはかけがえのない学びあいの集団です。ですから、欠席した子がいれば「どうしてお休みしたんだろう」と気にかけますし、問題の答えの根拠を説明するお友だちの話には、集中して一緒に考え始めます。また、展覧会をやればお友だちの描いた絵に興味を示し、その上で何か気になるところがあれば「~はどうして~ですか」と質問したりするのです。共に学びあう一体感が出来上がると、教師の一挙手一投足に注目し、時に笑いを共有し、それが学びあいの楽しさにつながっていくのです。

先日こんなことがありました。「社会常識」の単元で身の回りにある標識の意味を学習していた時の出来事です。「非常口」の標識の意味を話題にしていた時、ある子が教室の非常口にある標識を見つけ、「先生、そこにあります」と教えてくれました。その時わたしは即座に「火事だ、逃げろ!」と言いながら非常階段に飛び出してみました。すると教室の子どもたちは爆笑したようで、15秒くらい経って非常口から戻ると、みな笑顔で迎えてくれたのです。こんな些細な教師の演技じみた行為が笑いを共有し、一体感を感じさせ、それ以降の授業がスムーズに進むということはこれまでにもたくさん経験してきました。「みんなの家の周りにどんなマークがあるか調べてみてね」と言って授業を終えると、さっそく帰り道でいろいろな標識を発見してお母さまといろいろ話し合ったというお子さまもいたようです。教室での授業がこのように発展していくことを私たちは願っているのです。集団で学びあう楽しさや喜びは、オンライン授業では決して経験できませんし、五感を通して身につく創造力をはぐくむ経験にはならないでしょう。

こんなこともありました。幼稚園や保育園が再開したとはいえ、まだまだ家にいる時間が長いため、お手伝いを好む子どもたちのために「お料理レシピを作ってみよう」という趣旨で、絵本風の素材「わたしがつくる おりょうりれしぴ」を提供してみました。「お手伝いで料理を作る時、どんな材料を使い、どんな順序で料理するかを、絵本風に書いてみてください」という課題を出したところ、翌週にはさっそく「レシピ」を作って持ってきた子がいました。それを見せてもらうと、私もびっくりするほど上手な仕上がりでした。それをみんなに紹介すると、翌週には何人かの子どもがわたしのところに持ってきました。字が書けないところはお母さまに手伝ってもらい、みんな素晴らしい「自分だけのレシピ本」を作ってきました。1人の子の活動が他の子どもたちに波及し、「自分もやってみよう」という意欲につながっていくのです。ここに集団授業の大きな意味があるのです。

一方的な知識の詰め込みではなく、ものに触れ、人と関わりあう活動の中で幼児期の基礎教育は行われるべきです。教育が個別化・オンライン化に進んでいく状況の中で、「集団」で学びあうきわめて古臭い方法が、実は一番大切な方法であるということを忘れてはなりません。

最後に保護者さまの許可をいただき、お子さまが作成したレシピ本をここにご紹介いたします。



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