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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「休校期間中に経験したことを、これからの指導にどう生かすか」

第726号 2020年6月26日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 6月1日から再開した授業も予定通り進み、年長児のばらクラスの授業は、夏休み前までにステップ6の学習が終了することになっています。3月末から5月いっぱいまでの大事な授業内容も、オンライン学習や家庭用教材の大量追加によって何とかこなすことができました。本当に身についているかということを再開後の授業で確かめながら、新しい課題に挑戦しています。ただ一つ気になることがあります。ペーパー問題は予想以上にできていますが、再開後、答えの根拠を説明してもらう機会をつくると、説明できる子とできない子の違いがはっきりしていることです。全体として言語化能力が以前よりも落ちていることを実感しています。それは、次のようないくつかの原因が重なってのことだと思います。
  1. オンライン学習では、答えの根拠を説明する機会が十分持てなかった
  2. 友だちの発言を聞いて自分も考えてみる「学びあい」のチャンスがなかった
  3. 学習することの楽しさが教室授業と比べると半減してしまい、学習の動機付けの持続化が難しい
オンライン学習の効果を認めつつも、普段の対面授業でないと身につかない能力もはっきりしてきました。こうした経験をこれからの授業にどう生かすかを考えなくてはなりません。休校期間中に行ったオンライン授業についての評価をしっかり行っておくために、保護者へのアンケートの実施と、その分析を踏まえたこれからの学習のありかたを明確にしておかなければないと考えています。

不十分ながらも実施したオンライン授業は、保護者の皆さまに指導の仕方を具体的にお伝えできたこと、繰り返しの学習が可能になったこと、従来の家庭用教材の配布だけではどう学習してよいか分からなかったが、今回は教師からの直接指導が可能になったためその心配はなくなり、教室指導と家庭学習がうまくかみ合ったトレーニングができるようになったことなどは、大きな成果だったと思います。ただ、従来の授業は1回1時間半の授業です。これと同じ時間をかけて学習を組むことはできません。ですから、一方的な授業の進行ではなく、具体物を使って子どもの反応を見ながら進めていくとしたら、1回の授業を20分~30分間で完結させ、テーマ別・単元別の講座につくりかえることによってオンラインでの学習が効果的にできるようになるのではないかと考えています。コロナ対策が終わっても、教室での集団対面学習、オンラインでの個別家庭学習を組み合わせれば、より効果的な指導が可能になるはずです。オンラインとオフラインをどう組み合わせるかは、年齢や内容によって検討する必要がありますが、少なくともオフラインでの指導にオンラインでの繰り返しの学習が行われれば、効果は相当上がるはずです。

コロナ後の生活や志向の変化によって、教育のあり方も変わるはずです。その中で、手放しでオンライン授業を評価するのは危険です。少なくとも、「事物教育」や「対話教育」の実践を指導の原則にしてきたこぐま会にとって、オンラインだけの授業で済ませることはできないし、上級学校で可能な方法をそのまま使うこともできません。ICTを活用した授業方法が無前提で評価されるのは間違っています。教育は、対面を基本としながらそこで学んだことをオンライン学習で補っていくという発想が必要です。

これからの時代の教育の中で、ICTを使った指導こそが時代の先端をいく・・・といった発想になってしまうと、結果的に教え込みの教育になってしまう危険があります。どんなに便利なツールであるとしても、教育の原則は変わりません。その意味で、世の中全体がICT教育に流れていくのに相当の抵抗感があるのは私だけでしょうか。

便利さの裏で削ぎ落とされていく大事なもの・・・それは、教育においては本当にたくさんあります。古びた昔のやり方のほうが、逆に先進的だと思われるものはたくさんあります。特に幼児の場合は基礎教育ですから、すべてオンラインで・・・というわけにはいきません。休校期間中に試みたさまざまな経験をこれからの指導に生かしていくとすれば、コロナ対策は私たちに多くのことを学ばせてくれました。対面授業を基本とし、事物教育・対話教育を実践するという強い信念を持ち続けることが重要です。新しい教育方法は、そのこと自体が目的化され、「何のために・・・」が欠落してしまう場合が少なくありません。その落とし穴にはまらないよう、子どものために何ができるかを常に考えながら前に進んでいく覚悟が必要です。教室と家庭が一体となった新しい指導体系が構築できれば、休校期間の試行錯誤は、指導者にとって次への飛躍の第一歩だったといえるかもしれません。

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