ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

学びが学びを呼ぶために

第651号 2018年11月30日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 慶應義塾横浜初等部の発表も終わり、首都圏の私立小学校の入試は一段落しました。これからは国立附属小学校の入試に向けての動きが加速します。今年の入試の実態については、現在保護者や子どもたちから聞き取った資料を整理しており、12月2日に予定している入試結果報告会の席で報告したいと思います。新設校の開校もあり、またネットを使った事務手続きが一般化したりする中で入試内容の変化も見られます。そうしたことをしっかり踏まえて、来年以降の入試に臨んでいただきたいと思います。

幼児教室では、今年の受験生を送り出した後、すぐに来年の受験に向けた年中児の受験対策が始まるわけですが、一方で入試を終えた子どもたちのその後の学習にも道を開いておかなければなりません。こぐま会では幼小一貫教育の考え方に基づいて、小学校3年生までのクラスを準備し、入試が終わった後の学習にもKUNOメソッドの考え方を生かした内容と方法で指導しています。1~2年かけて受験に向けた学習を積み上げてきた受験生が、受験が終わった途端学習から離れるのは非常にもったいないと思います。入試が終わって当面の目標がなくなった今、何をどうしたらよいのかをよく質問されますが、私はその際「入試が終わったこれからが本当の意味での学習ですから・・・」と継続した学習をお勧めしています。これまでの学習で身についた「学ぶことの楽しさ」と「学びの習慣づけ」をぜひ生かし、これから始まる教科学習への準備教育に取り掛かっていただきたいと思います。

シンガポールや上海・北京で講演会を行うと、必ず「KUNOメソッドで学習した子としない子では、将来何が違いますか?」と質問されます。特に中国においてはそうした質問が多く見られます。こぐま会では卒業生のその後を追跡していませんし、こぐま会の教育を受けたからこうなった・・・などと軽々しく言えるものではないと思っています。ただ、幼児期の学習がどう生かされているかについては関心もありますので、連絡が取れる体制を作りながら、その後のがんばりを応援しています。この教育を受けた子と受けなかった子の違いがどうなるかといった、アメリカのペリー幼児教育計画(Perry Preschool Study)のような追跡調査は、今の日本では非常に難しいわけですし、またその必要もないと思っています。ただ、ジェームズ・ヘックマン氏が言った「学びが学びを呼ぶ」事実は、何らかの形で明らかにしたいと思います。幼児期の深い学びが、次のステップの深い学びを呼び、その学びが次の学びを呼ぶという、曖昧な表現ですがなんとなく分かる気がしますし、ある時期の教育が将来役立ったとすれば、こうした感覚なのではないかと思います。このことを試験を終えた年長の子どもたちに当てはめるとすれば、これまで続けてきた入試に向けての基礎教育を、ぜひ次のステップである小学校の学びにつなげていただきたいと思うのです。合格したからもういいのではなく、合格したからこそ、これまでの学びをより深い学びにつなげていただきたい・・・そう思います。そんな思いをお伝えしたいと、11月27日に「就学準備セミナー」を開きました。1月から3月まで行う「就学準備クラス」の概要をお伝えするだけでなく、今小学校で何が問題になっているか、また2020年から始まる本格的な教育改革で一体何がどう変わるのか、そして今年長の子どもたちが大学に行く頃、日本の教育はどうなっているのか、・・・そんなことをさまざまな資料を使ってお話しいたしました。

こぐま会代表による就学準備セミナー
「これまでの基礎教育を小学校の学習にどうつなげるか」
- KUNOメソッドによる幼小一貫教育の実践 -
  1. これから小学校教育はどう変わるのか
    1. グローバル化・人工知能(AI)・アクティブラーニング・プログラミング教育
  2. 算数科の学習内容と課題
    1. 考える力をどう育てるか
    2. 計算主義から脱皮・式を立てる際に必要な論理的思考力を育てる
  3. 国語科の学習内容と課題
    1. 聞く力・話す力・読む力・書く力
    2. 国語を通して論理を育てる
  4. ばらクラスの学習を踏まえた就学準備クラス(算・国)の内容
    1. 算数科の内容
      暗算トレーニング・四則演算の考え方・集団討議を通じての問題解決
      式を立てる・式を見てお話をつくる
    2. 国語科の内容
      聞く力・話す力の充実・音読の重視・良い文章の暗唱
      話し合いの試み(聞く・話す)
  5. プライマリーイングリッシュについて
  6. 「はじめての英語」10回の内容について

セミナーでは、はじめに「これから小学校教育はどう変わるのか」と題し、今盛んに行われている改革の現状をお伝えしました。これまでになく教育改革を表現する言葉が飛び交っています。アクティブ・ラーニング、プログラミング教育、STEM教育、EdTech(エドテック)といった言葉を耳にされたことがあるかと思います。こんなにたくさんの言葉が飛び交う教育改革も、これまではありませんでした。教育改革は「何を学ぶか」と「どう学ぶか」の2つの側面がありますが、経済産業省が主導する「未来の教育」は、どうも「どう学ぶか」に焦点を当てた改革のように思えます。しかし、非認知能力の重要さが叫ばれ、教え込みの知識偏重教育では駄目だといわれている時代です。「どう学ぶか」より「何を学ぶか」を議論しなければなりません。AI時代を迎え、便利なツールで学び方を変えることは可能だと思います。しかし、「何を学ぶか」の議論がないまま「どう学ぶか」だけが先行すると、新しい方法で新たな矛盾が露呈するかもしれません。その意味で、学びの目的に見合った方法論が必要です。とすれば、AI時代に逆行した方法が、実は教育にとっては大事だということになる場合もあるかもしれません。教育が効率化していく裏で、失われていくものがないのかどうか・・・そこはしっかり見張っていなければならないと思います。我々が主張する「事物教育」は最も原始的なものであり、ひょっとしたらAI時代の最先端の方法とは逆行するものかもしれません。しかし、事物に働きかけ、試行錯誤する時間の大切さは、どんなに便利なツールがあっても色あせることはありません。

1月から始まる就学準備クラスは、算・国セットになったクラスと英語クラスの2つで始まります。算数はこれまでの学習を踏まえ、四則演算の数式化を目指します。数式の世界に最初から導いてしまうのではなく、生活の中で起こる事象を数式で表現できるように導きます。幸いばらクラスでは、たし算・ひき算だけでなく、かけ算の考え方やわり算の考え方を学びましたので、それに数式を入れて小学校の学習につなげていきます。そして、2年生までに四則演算のすべてが自由に使えるように指導します。また、ばらクラスで重視してきた「数の内面化」いわゆる暗算は、これから相当力を発揮するはずです。国語科については、幼児期の課題である「話す力」「聞く力」をより深め、「読む力」「書く力」にまで高めていく道筋をしっかり学ばせようと思います。その橋渡しに、音読の大切さを参加された皆さまに強く訴えました。また、公立校でも必修化される英語に関しては、英語の担当責任者から「はじめての英語」10回の内容を説明させていただきました。こぐま会ですでに19年の実績がある「Primary English」は、学校英語だけでなくその子どもたちの英語習得に大変役立っています。

ひとつの学びが次の学びに深くつながるためには、学びの系統性が大事です。だからこそカリキュラムが必要なのです。ばらクラスで学んだことをベースに、次のステップである小学校の最初の学びにしっかりとつなげるために、私たちは1月から始まる就学準備クラスの指導に全力で取り組みたいと思います。

PAGE TOP