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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

北京での幼稚園見学

第650号 2018年11月23日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 11月15日から上海・北京を訪問しました。上海では2つ目の教室の開校に合わせた職員研修会を行いました。各領域の授業を模して、先生役の教師が生徒役の教師に実際の言葉かけを行います。その後、20分ほど行った模擬授業の講評を通して指導のポイントを伝えました。
やはりまだ指導の順序性が十分わかっておらず、子どもの反応にどう答えたらいいのか、また、ひとつの授業が次の授業にどうつながっていくのかが十分理解できていないため、その点を詳しく解説し、KUNOメソッドの3段階教授法をしっかり身につけるように指導しました。朝9時から始まった研修会は夕方5時まで続き、若い教師の真面目な取り組みに、上海におけるKUNOメソッドの普及に期待が持てる確信を得ました。18日からは北京に移動し、北京での活動の拠点となる「北京こぐま会」の設立に向けて関係者と打ち合わせをしました。清華大学との共同研究による幼児教育のイノベーションに「KUNOメソッド」を提供し、今後の中国における幼児教育の普及に役立てようというものです。ワークブックの使用が国の方針として禁止されている中国で、「事物教育」を中心とした「KUNOメソッド」は必ず歓迎されるはずです。

11月19日には清華大学継続教育学院の院長を表敬訪問し、関係者と顔合わせをし、今後の進め方について協議しました。継続教育学院は日本の生涯教育の考えに似ていて、学び続ける社会人を応援しようというもののようですが、幼児教育と老人教育には大変興味を持っているということで、こぐま会の提案に前向きな姿勢を示していただきました。今進めている認知症対策に、こぐま会の教材を活用するというプロジェクトにも興味を持たれたようです。翌日、3つの私立幼稚園と1つの幼児教室を見学しました。2つの幼稚園では実際の授業も見学できました。北京の中でもかなり意図的に思考力を伸ばす教育に取り組んでいる幼稚園のようですが、5歳児を対象とした授業は、KUNOメソッドでも扱っている「観点を変えた分類」と「図形構成」の課題でした。外国から輸入されている教具や、中国で支持されている会社の教材を使っての授業で、自分たちで開発したものではないようでしたが、10~15人の少人数での授業に子どもたちの考える力を高めたいとの強い意志を感じました。

「観点を変えた分類」では、外国製の教具を使って共通性を発見する課題をゲーム化して行うものでした。チェスのような駒に、形、大きさ、色、穴のあるなしのようないくつかの要素を盛り込み、それを交互に盤の上に置きながら、共通点があるものが4つ並んだらその人が勝ちというゲームです。交互に置いていきますからブロックされてしまうと違う並べ方を考えなければならず、かなり思考力を鍛えるゲームです。学習の要素を盛り込んで、それをゲーム化するのは幼児教育の方法としてとてもいいやり方で、私たちがカードを使って行う「観点を変えた分類」をつみ木のようなものに置き換え、それをゲームとして使っている点が素晴らしいと思いました。

別の幼稚園で見た授業は、「図形構成」の授業でした。正方形を二等分や四等分したカードを黒板にはり、二等分した三角の1つは四等分した三角いくつ分かを問いかけたりして、実際にカードを置かせたりしていました。また、正方形を四分割(不等分)した形を使って、長四角や平行四辺形を作る課題にも取り組んでいました。私たちの授業でも行う「図形構成」の課題です。ただ終了後、先生たちの話し合いの場で、私が質問した「この授業の前に何をやり、この次の課題として何を行うのか」に関しては、明確な答えが得られませんでした。私が懸念したのは、学びの系統性ができていないのではないかということです。図形構成は図形分割とつなげてこそ意味があるのですが、その点がわかっていないようです。つまり、自分たちが考えた系統性のあるカリキュラムの中で、この教材が意味があるから・・・と使っているのではなく、そこにいいパズル教材があるからそれを使って授業してみようというスタンスで、学びの順序性・系統性は明確になっていないようでした。

朝8時半から夕方5時まで、園によっては3食出される幼稚園もあるようですが、朝から夕方まで生活がスケジュール化され、お昼寝の時間もあるようですから、日本の保育園の要素を取り入れた幼稚園ということになります。音楽の時間・体育の時間・英語の時間・思考力を鍛える時間・自由遊びの時間・戸外活動の時間と、1日の生活がスケジュール化され、必ず意図的な教育の時間が毎日1回設けられているようです。日本の幼稚園との違いを見せつけられた感じです。日本の幼児教育関係者が嫌う「幼稚園の学校化」は、正常に機能し、何の矛盾もなく小学校につながっているようです。日本の幼児教育関係者もそろそろ目を覚まして、これからの時代を担う子どもたちの思考力をどう育てるか、考えるべきです。大人の夢を追っている場合ではありません。旧態依然とした遊び保育の方が楽だと考える関係者があまりにも多いのでしょう。日本の幼児教育を動かすトップの考え方が変わらない限り、この国の幼児教育が変革されるのは無理だと思います。幼児教育の無償化はいいことです。また、経済産業省が音頭をとって進めているAIを使った教育方法の改革も大事です。しかし、教育の中身が変わらない限り、いつまでたってもこの国の子どもたちの「考える力」は育たないでしょう。付加価値を生み出せる人間、付加価値をつけられる企業がこれからの時代には必要です。知識偏重の暗記教育では、残念ながらこれからの時代に求められる人材を育てることはできません。

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