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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

行動観察が重視される背景

第649号 2018年11月16日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年の首都圏の私立小学校の入試も、多くの学校で合格発表がありました。今年の入試も多くの変化が見られましたが、その詳しい報告は、12月2日に行う予定の「入試結果報告会」の席でお伝えしたいと思います。

7月からはじめた年中児向けの「合格のための室長特別セミナー」の最終回は、11月11日(日)に「行動観察が重視される背景と願書・面接対策」と題して行いました。来年秋に受験される新ばらクラス生の保護者さまの他、一般の方々にも公開して行いました。70名を超える皆さまにご参加いただき、行動観察に対する関心の高さをあらためて感じました。 セミナーでは、以下のような内容でお話しさせていただきました。行動観察の部分を私が、願書・面接対策の部分を、願書対策及び摸擬面談を担当している教務部長の廣瀬氏のほうからお話しさせていただきました。廣瀬氏は今年延べ2,000通にも及ぶ願書を添削してきました。5月から始めて何回も書き直しを指示し納得の行くまで指導した結果、すべてが終了したのは10月の願書提出直前だったようです。

  1. なぜ行動観察が重視されているのか
    1. 非認知能力の重要性
    2. なぜ、自由遊びが重視されているのか
  2. 行動観察はどのように行われているのか
    1. 女子校で過去5年間に出題された課題
  3. 行動観察で何を評価しようとしているのか
    1. 2018年度入試 聖心女子学院初等科の行動観察を分析して
    2. 2018年度入試 雙葉小学校の行動観察を分析して
  4. 願書・面接対策で心得ておくこと
    1. 願書について
    2. 間違った書き方をしてしまう例
    3. 望ましい願書とは

今年の入試でも、この行動観察や面接試験でいろいろな出来事があったようです。学校側が何を求めているのかということは、こうした具体的事実に基づけば多くのことを学ぶことができます。そしてこれから受験する皆さまに、それを事実としてお伝えしていくことが私たちの役割だと思っています。私たちがこれまで主張してきたことが、間違いでなかったことを確信する試験だったように思います。

  1. 行動観察では、何かができたかできなかったかを見ているのではない
  2. ただし、指示をしっかり聞き、理解して約束事を守らないと大きく減点される
  3. 答え方や答えそのものを頭に刷り込んでいくと、その場の状況を判断できず、求めている質問に答えられないことが起こる。例えば、「3人で電車に乗ったとき、席がひとつ空いていました。誰に座ってもらいますか?」という問題が出たようですが、常識問題として答えを頭に刷り込んでいくと「お年寄り」とか「体の不自由な人」と答えてしまうことになります。すると先生が、即座に「今そこにはお年寄りも体の不自由な人もいないんですよ」と再考を促します。状況を判断し、自分で答えを考えなければなりません。「お母さん」と答えれば「なぜ?」と聞かれます。こうしたやり取りから、自主的に考えているかどうかが問われるのです。この自主的な判断こそ、学校側が求めているものであり、知識で解決する問題ではないのです
  4. つまり、型を教え込まれた結果、その状況を自分で判断できず、覚えてきた答えを知識として答えてしまう・・・これこそ学校側が一番嫌うことです。面接対策として行われているトレーニングは、こうした学校側の考え方と間逆なことをやっているのです
  5. 行動観察の場においても、相談の仕方などを「型」として教え込まれてくると、その言動があまりにも子ども離れしていて奇異に映ります。教え込まれた態度なのか、子どもの成長に見合った自然な態度なのか・・・学校の先生の眼はごまかせません。社会的常識のない人間が教え込みに走ると、こうした形式の教え込みになるのです。学校の先生方は、教育の現場にいて子どもの成長を熟知している専門家です。自立した判断を子どもに求めるのは教育者として当然です。子どもに大人の態度を取らせたらどうなるか・・・疑問を持つのは当たり前です
  6. 願書も同じことです。美辞麗句を並べて体裁を整えても、気持ちのこもらない願書はすぐにばれます。志望理由を聞かれているのに、それに関係のないことを長々と書くといった事例が多くみられます。聞かれたことに正直に答えていくといった当たり前のことができていない背景には、「~のように書くと有利」といった指導がどこかであるからにほかなりません。指導が本当の意味での指導になっていない現実は深刻です

これまで私のコラムで何度も紹介してきた、慶應義塾横浜初等部の開校初年度のメッセージをもう一度読み返してください。教育産業、つまり幼児教室の行っている型を教え込む教育を厳しく批判していることを、塾の教師も保護者も真剣に受け止めなければなりません。
学校が求めているものと全く逆な教え込みをしていないか、振り返ってみる必要がありそうです。自立した判断は、子どもだけでなく大人も求められています。その意味で、行動観察、願書・面接は親自身の子育てのあり方が問われているのです。

慶應義塾横浜初等部 2013年度学校説明会 配布資料
『横浜初等部の入学試験に当たって』より
「〔前略〕
 私立小学校を受験する子供たちの多くが、そのための準備に多くの時間を費やしていることも事実です。特に、横浜初等部の場合には、開校初年度故に、入学試験の過去の事例がありませんし、試験日程等の概要の告知も神奈川県の設置認可が得られてからの8月になりました。それだけに、これからの短期間に、初等部を志願する家庭と子供たちがいわゆる受験産業の様々な指導や根拠の無い噂によって一層振り回され、日常のありのままの姿にこそ見られる筈のその子供の良さが失われることにならないよう願っています。
〔中略〕
 また、人間には様々な性格と個性があります。そして、それぞれに応じた行動様式があります。どうか子供のそれを大切にして欲しいと思います。例えば、一見、活発で、真っ先に行動する子供はその積極性は望ましいのですが、時に、じっくり考えたり、根気強く取り組む習性に乏しい場合があります。一方で、一見、積極性に欠けて反応が遅いと思われる子供の中にも、一人で一つのことに時間をかけて黙々と取り組む力を持った子供がいます。学校は、様々な性格と個性、そして行動様式の生徒が混在してこそ、魅力的な教育環境が作られると考えています。全てが同じような行動様式の生徒である学校ほど気味の悪いものはありません。子供一人一人が、その性格や個性が大切に育まれ、それに基づく行動が良い方向に発揮されるようになることが大切なのです。その意味からも、入学試験で望ましいとされる表現型を指導されているうちに、その子らしさを摘みとってしまい、不自然な接ぎ木のようにならないよう、心に留めて頂きたいと思います。」


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