週刊こぐま通信
「室長のコラム」シンガポールでの講演会
第624号 2018年5月11日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

1年半に及ぶ準備を経て、シンガポールにおいてKUNOメソッドによる幼児教室が始まりました。ひとつは、学習塾「KOMABAキッズ」と提携した日本人向けの幼児教室。もうひとつは、現地人向けの幼児教室「KUNO Method Singapore」です。こちらは、現地の方と提携し、シンガポール人の2歳~6歳までに提供する、いわばこぐま会で行っている授業の英語版ということになります。そのためカリキュラムや教材を英訳しなければならず、この作業に相当の時間がかかりました。
今回の訪問は、講演会と発達診断テスト「こぐまチャレンジテスト」と先生方の研修会を行うのが目的でした。5月5日は、シンガポール人対象の「そらクラス(3歳児)」と「ゆりクラス(4歳児)」の授業を見学し、私の方から担当教師へアドバイスをするという形の研修会です。本当にこぐま会の授業の英語版になっていて、見ていて私が授業を受けたい気持ちになりました。東京で研修を積んだシンガポールの教師の方々が工夫して教材を作り、私の授業のビデオを何回も見て、指導法を確認してから授業の現場に出ているようで、皆さん大変努力していることが伺えました。KUNOメソッドを英語で行う授業を初めて見学し、英語圏への展開に展望を持つことができました。

今、世界中で幼児教育が一種のブームとなっており、どこに行っても「考える力」を育てることが大事だといわれています。しかし、あらためて「幼児の考える力とは何か」と問われても、具体的に答えられる人は多くありません。何をやっても「考える力」といっておけば問題ないといった雰囲気があります。しかし、教育は具体的でなければなりません。「KUNOメソッド」は、幼児期の子どもたちの考える力を育てるメソッドですから、きちんと説明できなければなりません。それをこれまでは、「大切な幼児期に何をどう学習すべきか」という観点でお伝えしてきましたが、それをより具体的に分かりやすくするために「10の思考法」としてまとめ、領域を超えて育てるべき、将来の学習にとって大切な思考法をお伝えしました。演題としては初めての試みでしたが、映像を交えて行った1時間半の講演会を初めて聴いた方からは、大変分かりやすく参考になったというご感想をいただきました。
講演会終了後、何人かの方から小学校受験のことについて相談を受けました。やはり土地柄、帰国して小学校受験を希望される方が少なからずいらっしゃるようです。首都圏だけでなく、関西圏の方もいらっしゃいましたが、情報が少なく、何をどう学習したらよいのかが分からず、とりあえず「ひとりでとっくん365日」を使ってご家庭で学習している方が多いようです。これまでも、こうした帰国子女の方の小学校受験の学習相談を受けてきましたが、最近小学校受験を控えたお子さまをお持ちの若い方が海外に赴任するケースが多いようで、学校選択は深刻な問題のようです。特に、特別な教育が必要だと思われがちな小学校受験ですから、何をどうやったらよいのか不安になるのは当然です。私は、「基礎教育」をしっかりやれば大丈夫だということを伝え、KOMABAキッズで行うこぐま会の基礎教育を受けていただくようお願いしました。その上で、夏以降帰国した際、学校別の対策を行うようアドバイスしました。

一方、シンガポール人を対象とした「KUNO Method Singapore」には、別の意味での期待があります。小学校を卒業するときに行われる試験で、将来の学習コースがほとんど決まるために、現地の方はそのテストに向けて相当勉強するようです。しかし、その多くが詰め込み式の教育とのことで、こうした知識偏重の教育法に対し、反対する人たちも少なからずいるようです。詰め込み式の学習方法では「考える力」は育たないと、事物教育と対話教育を中心としたKUNOメソッドをシンガポール人に広めていきたいと考えているようです。KUNOメソッドが現地の方にどれだけ受け入れてもらえるかの挑戦がこれから始まりますが、東南アジアで注目されるシンガポールの教育現場で一定の評価を得ることができれば、KUNOメソッドの海外展開に弾みがつくはずです。今年は、ジャカルタでも始まる予定で準備が進んでいます。他の国からもいくつか要請があり、実現に向けて調査が始まりましたが、日本発の教育メソッドが海外で認められていけば、輸入ばかりしてきたこれまでの流れを逆流させることができるかもしれません。私の期待は、「海を越えるKUNOメソッド」の確立です。