週刊こぐま通信
「室長のコラム」サピックスキッズ講演会でお伝えしたかったこと
第620号 2018年4月13日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

4月8日の午前中に、代ゼミタワーにおいて、サピックスキッズ 主催の「小学校受験を検討されている方のための説明会」で、小学校受験の現状と課題についてお話しさせていただきました。サピックスキッズは、小学校受験を目的としない幼児教室として4年前に開校しました。教科前の基礎教育をしっかり行い、将来の中学校受験に備えるというコンセプトの教室です。そこで行う教育内容として、こぐま会で開発した「KUNOメソッド」を提供してきました。幼児教育の重要性が叫ばれる昨今、幼児期の基礎教育に対する関心が高まり、受験は目的にしないけれども、幼児教育をしっかりやっておきたいと考えるご家庭が増えています。ですから、サピックスキッズでは学校別対策のための講座は開講していません。ただ、当初は受験を考えないで入会された方の中にも、学習が進むにつれ、私立小学校や国立附属小学校を検討されるご家庭も出てきますので、そうしたご家庭に正確な入試情報をお伝えしなければならないという趣旨で、今回のセミナーは開催されました。通塾されている方だけでなく、外部の方にも公開し、大勢の方が参加されました。
今回のセミナーの内容は以下の通りです。
- 小学校受験の現状と課題
- 間違った受験対策にならないように - - 変化しつつある小学校受験
- 入試はどのように行われているのか
- 今何が問題になっているか
(1) 志願者の減少(2) 試験内容の変化(3) 辞退者対策(補欠合格の扱い方に、学校の苦悩が見える)(4) 働く母親に寄り添った学校改革
- 2018年度入試 主要校応募状況・倍率
- どんな能力が求められているか
- 入試問題の変遷
- 学力の基礎として考える力が求められている(入試問題の分析を通して)
- 行動観察では何を評価されるのか
- 面接試験重視の背景
- 間違った受験対策にならないように
- 子育ての総決算としての入試
- 幼児期の基礎教育としての準備教育
- 実力主義だが学力主義ではない
- サピックスキッズにおける受験対策
- ペーパーのみの学習では、考える芽を摘み取ってしまう
- 変化しつつある小学校受験
明確な受験の意思を持たれていない保護者の皆さまがほとんどでしたから、小学校受験の時期や試験の方法など、受験に関する基本情報をお伝えしました。その上で、受験する側と子どもたちを受け入れる学校側と、現在の小学校受験が抱える双方の問題点を明らかにし、変わりつつある小学校受験について、さまざまな角度から分析しました。特に今回は、「小学校受験は特別な訓練が必要で、毎日50枚もペーパーをやらないと合格できない」という間違った情報を否定し、普段行っている基礎教育がすべての前提であり、受験はその延長で考えるべきで、基礎教育とは異なる特別な訓練を必要とするものではないということをお伝えしました。特に、典型的な入試問題を紹介し、それを実際に保護者の皆さまに解いていただくことを通して、受験で求められる能力が機械的な教え込みで身につくものではなく、ものごとに働きかけることを通して身についていく「考える力」であるということを実感していただきました。
受験の情報が学校側から開示されることもなく、何をどう学習すればいいのかを知るための教科書もない小学校受験。何を手がかりに準備したらよいのか分からないまま、塾側の言うなりになって、実態に合わない間違った受験対策を行っているケースが増えています。子どもたちの考える力の芽を摘み取ってしまい、学習意欲も削ぎ落とし、幼児期のうちから間違った競争意識を植え付けていくようなことがあってはなりません。参加者の皆さまのアンケートを拝読させていただき、一番強く感じたのは、「小学校入試の現状が正しく伝わっていない」ということでした。そうした意見を聞けば聞くほど、入試問題を正確に分析し、学校側が何を求めているのかを伝えていくことも、私たちの大切な仕事であるということを感じます。入試情報が正確に伝わっていないことを逆利用して、子どもたちを厳しい特訓の場に追い込んでいくような、非教育的なことが受験対策の名の下に行われているのが実態だからです。今回、具体的な問題を紹介し、参加された保護者の皆さまに解いていただいたのは、入試問題で何が求められているのかをしっかり受け止め、ペーパー主義の詰め込み教育を学校側が決して求めていないということを実感していただきたかったからです。出題意図が分かれば、子どもの発達に見合った指導が可能です。入試1年前から過去問だけを取り上げ、解き方を教え込むような教育では、子どもたちの考える力は育ちません。今回のセミナーで一番お伝えしたかったことは、「家庭での子育てをしっかり行い、系統的な基礎教育をしっかりやっていれば、現在の入試には十分対応できる」ということでした。皆さまより頂いたアンケートのご感想からも、その点は十分お伝えできたと感じています。