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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

これまでの基礎教育を小学校の学習にどうつなげるか

第601号 2017年11月24日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 毎年私立小学校の入試が一段落したこの時期に、「これまで積み上げてきた幼児期の基礎教育を小学校の教科学習にどうつなげるか」をお伝えするセミナーを行っています。今年も、勤労感謝の日である11月23日に開催し、大勢の皆さまにお集まりいただきました。1月から始まる「就学準備クラス」の開講に先立ち、現在の小学校でいったい何が問題になっているのか、また、2年間の移行期間を設けて、2020年度から始まる小学校教育の全面改訂でいったい何が変わるのか、どう変わるのかといった状況分析を踏まえ、就学準備の学習内容を、算数・国語・英語の3教科それぞれについてお伝えしました。セミナーの内容は、以下のとおりです。

こぐま会代表による就学準備セミナー
「これまでの基礎教育を小学校の学習にどうつなげるか」
- KUNOメソッドによる幼小一貫教育の実践 -
1. これから小学校教育はどう変わるのか
グローバル化・人工知能(AI)・アクティブラーニング・プログラミング教育
2. 算数科の学習内容と課題
a. 考える力をどう育てるか
b. 計算主義から脱皮・式を立てる際に必要な論理的思考力を育てる
3. 国語科の学習内容と課題
a. 聞く力・話す力・読む力・書く力
b. 国語を通して論理を育てる
4. ばらクラスの学習を踏まえた就学準備クラス(算・国)の内容
a. 算数科の内容
暗算トレーニング・四則演算の考え方・集団討議を通じての問題解決
式を立てる・式を見てお話をつくる
b. 国語科の内容
聞く力・話す力の充実・音読の重視・良い文章の暗唱
話し合いの試み(聞く・話す)
5. プライマリーイングリッシュについて
6. 「はじめての英語」 10回の内容について

大学の入試改革に象徴されるように、日本の公教育は大きな転換点を迎えています。2018年度からは幼稚園、2020年度からは小学校、2021年度からは中学校、そして、2022年度からは高等学校で順次改訂されていきます。ゆとり教育の反省から、「脱ゆとり」教育に移行し、さらに授業時間数が増える傾向にあるようです。そして、教育改革を示すキーワードとして、「グローバル化」、「プログラミング教育」、そしてなによりも今一番話題の「アクティブ・ラーニング」・・・こうした言葉が並びます。時代の変化に応じて教育内容が変わるのは仕方がないことですが、今一番の問題は、教育方法が変わろうとしていることです。「主体的・対話的で深い学び」の視点から学習過程を改善すべきだとする通達によって、教育の現場は混乱し、またある意味では活気付いているとも言えます。

これまで人間が行ってきた労働がロボットに取って代わられ、人間の果たす役割が議論される中、教育によってどんな人材を育てるのか・・・そうした議論の中から、これまで教育の中で一般的に行われてきた認知能力の評価だけでは、これからの時代に見合う人材を育てることはできないのではないかということで、知識偏重の入試が見直され始めています。そのことは、別の見方をすれば、これまで入り口だけを問題にしてきた日本の教育が、出口を問題にせざるを得なくなったということでもあります。これまでの教育は、上級学校への準備として、良い高校に入るために、良い大学に入るために・・・そして、良い会社に入るために・・・と常に入り口が目標でした。しかし、多くの仕事がロボットに取って代わられる時代になると、社会に出てどんな生き方をするのか、どんな働き方で社会貢献するのか・・・といった、出た後のあり方が問題になってくるはずです。非認知能力が重視されている背景には、認知能力が高い、これまで優秀とされてきた人間が必ずしも社会に出て成功していかない、という厳然たる事実があるからでしょう。

「何ができるようになるのか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」・・・こうした問いかけに、新しい指導要領は、かなり突っ込んでその内容を公開しています。しかし、ゆとり教育がなぜ悪かったのかの総括も十分なされないまま、「脱ゆとり教育」に移行し、それに加えて、英語教育やプログラミング教育を導入しようとしています。「アクティブ・ラーニング」にしても「プログラミング教育」にしても、打ち出した後の混乱を見て、最近ではアクティブ・ラーニングも言わなくなりましたし、プログラミング教育をプログラミング的思考と言ってみたり、方針を打ち出す文部科学省も曖昧さゆえの反響の大きさに驚いたのか、トーンダウンしているように思えます。

時代に即した教育内容に変わっていくことは仕方ないにしても、それまでの実践を何も総括せず、新しい発想に乗っかってしまう見通しのなさは、現場の先生方を混乱させるだけです。社会に開かれた教育課程の実現のために、各学校における「カリキュラム・マネジメント」の実現も強く押し出していますが、学校の現場にあまりなじまない横文字を並べられて一番困るのは、学校の先生方でしょう。英語教育も同じで、ほとんど素人の先生方が、どうして教えることができるのか・・・・方針だけは立派に出しても、それを実践する先生がいなかったら、掛け声倒れになってしまいます。2年間の移行期間があるとはいえ、英語教育、プログラミング教育、アクティブ・ラーニングは、実施までに相当の混乱が予想されます。

ところで、こぐま会が1月からはじめる就学準備の教育は、これまで年長クラスで行ってきた学習を、どのように小学校の教科学習につなげるかを最大の目標にしています。特に教科で言えば、算数・国語になりますが、小学校で学ぶ内容を易しく広めて行うつもりはありません。特に1月から3月までに行う算数と国語の課題を以下のように考えています。

1. 算数
これまでの学習を踏まえ
A) 暗算能力をより高める
B) 四則演算の基礎はすでに学習しているので、生活場面から数的体験を思い起こし、それを数式化していく。その課程で、それぞれの計算の意味をしっかり理解させ、立式する能力を高めていく
C) 図形的な課題も大事であるが、限られた時間で総花的な授業にならないように、今はAとBに特化した学習を進める
2. 国語
これまでの学習を踏まえ
A) 小学校低学年で学ぶ代表的な作品を6つほど選び、音読の練習・聞き取りの練習・時には劇遊びに発展させるような深い読みをさせる
B) 読み聞かせは、継続して行う
C) 美しい文章を暗唱させる
D) ひとつの課題をめぐって3~4人で議論し、出た結論を発表させる

読み・書き・計算につながる機械的な授業ではなく、幼児期に基礎をきちんと学習してきたからこそできる授業、そしてせっかく大勢が集まっての学びであるならば、集団授業のよさを生かした内容にしていきたいと思います。その意味で、これから「KUNOメソッドによる幼小一貫授業」が始まることになりますので、ぜひご期待ください。

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