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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「一音一文字」問題における学校側の工夫

第551号 2016年10月21日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 言語領域の学習課題である「一音一文字」は、ひとつの音がひとつの文字を表し、その文字がいくつか組み合わさって、言葉を形成しているという日本語の文字指導の基礎になるものです。この一音一文字に関する問題が入試で出題されるようになったのは、私がこの仕事に携わり始めてから10年以上経ってからのことでした。こぐま会創立時には、いっさい入試に出ることはありませんでした。しかしこぐま会では、日本語の基礎として、最初の段階から言語領域の重要な課題としてカリキュラムの中に組み入れてきました。それが、ある学校で出題されて以降急速に広まり、今では言語領域の問題の中で最も重視されるようになりました。10月18日に行われた今年の神奈川県の入試でもいくつか出題されたようです。

こぐま会の授業では、ステップ1の第5週目にこの課題を学習しています。

「同頭音・同尾音、しりとり」
1. 一音一文字
a. 物の名称がいくつの音でできているかを判断する。
b. どこに何の音がつくかを考える。
c. 最初に「あ」「か」「さ」などのつく言葉をさがす。(同頭音)
d. 最後に「ん」のつく言葉をさがす。(同尾音)
2. しりとり遊び
a. しりとり遊びのルールを確認し、全員でしりとり遊びをする。
b. 黒板に貼られた10枚のカードを見て、しりとりでつながるように全員で考える。
b-1) 最初のカードを指定したとき
b-2) 最初のカードを指定しないとき

「いくつの音でできているか」、「どこに何の音がつくのか」、「同じ音で始まる言葉は他にないか(同頭音)」、「同じ音で終わる言葉は他にないか(同尾音)」など、学習する課題は豊富です。この課題が、ある時期まで入試に出題されなかったことの方が不思議です。それはなぜでしょうか。知能検査の問題が出題の根拠になっていた時代から、小学校で学ぶ学習内容の基礎を問う問題に変わっていった時期に合わせて、この問題が出るようになったことを考えると、入試問題が基礎教育に準じて正常化したということになります。特別な訓練ではなく、それぞれの教科の基礎が身についているかどうかを見ようとしていたからに他なりません。それ以降の問題づくりを見ると、学校の想いが伝わってきます。

そのことは、現在の入試問題を見ても一目瞭然です。そして、これからの小学校入試の問題づくりを考えてみると、学校側が、幼児期に必要だと考えている「考える力」を前面に押し出した問題を出題してくることは、容易に想像できます。その「考える力」をどのように育てていくかが、これからの幼児教育の課題です。過去問を並べて、一日何十枚とトレーニングする方法が今の時代の要求にあっていないということを、心に刻んでおく必要があります。では、具体的にこの「一音一文字」の領域において、どのように工夫された問題が出されているか、いくつか紹介しましょう。

1. 一音一文字の考え方に関する基本問題(いくつの音でできているか。どこに何の音つくか)

左上の(みほん)の絵を見てください。「うみ」の音の数だけ右側にがかいてあります。見本のがかいてあるところには「み」の音が入ります。
  • それでは他の絵も同じように「み」の音が入るところにをかいてください。

  • 「とけい」とはじめの音が同じものを探して、をつけてください。
  • 「だるま」と終わりの音が同じものを探して、をつけてください。
  • 「トランプ」と3番目の音が同じものを探して、×をつけてください。
  • 「カマキリ」とはじめと終わりの音が同じものを探して、◎をつけてください。

2. 応用1 しりとり

  • キツネから始めて、できるだけ長くしりとりで絵をつないでいくと1番最後になるのはどれですか。その絵にをつけてください。 また、しりとりでつながらない絵に×をつけてください。

  • 左の絵から右の絵まで、しりとりでつなぎます。3つのお部屋のどの絵をつなぐと、うまくしりとりでつながりますか。その絵にをつけてください。

3. 応用2 言葉づくり

  • 上にかいてあるものの名前を下の絵の最初の音を使って作ります。使うものにをつけてください。

  • 左側にかいてあるものの、はじめの音を全部使ってできる言葉は何ですか。右に並んでいるお部屋から選んで、上のをかいてください。はじめの音の順番をいろいろ変えて考えてください。

4. 応用3 言葉つなぎ

左のお部屋を見てください。まず練習をしてみましょう。ここにかいてあるものの名前の最後から2番目の音ではじまる言葉を探しましょう。エンピツの最後から2番目は「ぴ」ですね。「ぴ」からはじまる言葉はピアノなので、エンピツとピアノを線結びしてください。次にピアノの最後から2番目は「あ」なので、アヒルと線結び・・・というようにつなげていきます。
  • 右のお部屋にあるものを今練習したお約束で、できるだけ長くつないで、青で線結びしてください。はじまりは分かりません。使わないものもあります。

今後はこんな課題も予想されます。

5. 応用4 クロスワード

上の形を見てください。丸いお部屋がつながっています。このお部屋の中には下にあるものの名前の音が入ります。
例えば黒いは縦の列を指しています。が4つ並んでいるので、名前は4つの音でできているようです。下の絵の中で探すと、「か・ま・き・り」だけが4つの音でできています。なので下の「かまきり」のお部屋に黒いをつけました。
横の列のは「かまきり」の「か」からはじまる3音なので「かえる」が入りますね。下の「かえる」のお部屋にはがついています。
  • 他のものはどこに入るでしょうか。音の場所を考えて、入る場所の印を下のお部屋につけてください。

いくつの音でできていて、どこに何の音がつくか・・・だけの課題ですが、今や相当工夫された問題が出されています。ある領域の課題に、幼児期に必要とされる「考える力」が加わると、問題がこのように変化し応用されていきます。一音一文字の問題は、それを象徴しています。
また、最近はやりの行動観察の中でも、この一音一文字の課題が出されています。

先生の指示の通りの振り付けで、音楽に合わせて踊りながら歌う。
「♪ 猛獣狩りに行こうよ!猛獣狩りに行こうよ!(手をひざにポン)
鉄砲だって持ってるもん!(片手を前に伸ばし、片手は腰に)
槍だって持ってるもん!(投げるまね)
あ!ゴリラだ!」
先生が動物の名前を言ったら、その名前の音の数でお友だちで集まりグループをつくる。
トラ(2音)→2人、ゴリラ(3音)→3人、ライオン・オオカミ(4音)→4人、マントヒヒ(5音)→5人、フタコブラクダ(7音)→7人 など

小学校入試に向けた取り組みを最大限の動機づけにし、将来の学習の基礎をつくるための基礎教育と位置付ければ、これほど有意義な学習はないと思っています。ただ、間違った受験教育は、子どもの将来の学習活動に悪影響をもたらすという事実も、しっかりと認識しておかなければなりません。

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