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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

すべての教師が幼児教育を経験したら・・・

第543号 2016/8/26(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 幼児教育を含むすべての学校教育の在り方に関し、最近話題になる言葉がいくつかあります。非認知能力、ICT教育、入試改革、アクティブ・ラーニング・・・こうしたキーワードは、これからの時代に見合った教育の在り方に関し、改革すべき観点を端的に言い表わしている言葉でもあります。また、これらは別々な課題ではなく、相互に関係し、次代を担う子どもたちの学力や生きる力をどのように育てたらよいのかという課題でもあるのです。幼児期の子どもたちを対象とした教育現場を担っていると、この子たちが社会に出ていく頃にはどんな社会になっているのか、そこで生き抜いていくためにはどんな力が必要かをいつも考えながら指導に当たっています。そんな中、最近にわかに議論の対象になっているのが「アクティブ・ラーニング」だと思います。文部科学省が、これからの学校教育の在り方として、このアクティブ・ラーニングの遂行に相当力を入れているからにほかなりません。では、アクティブ・ラーニングとは一体どのように定義されているのでしょうか。インターネットで検索してみると、例えば次のような解説が見られます。

「アクティブ・ラーニング」
教員からの一方向的な講義で知識を覚えるのではなく、生徒たちが主体的に参加、仲間と深く考えながら課題を解決する力を養うのが目的。そうした力を養う授業手法として、議論やグループワークなどが挙げられることが多い。 (2015-12-17 朝日新聞 夕刊 2社会)
出典:コトバンク『アクティブ・ラーニングとは』(https://kotobank.jp/ 最終閲覧日:2016年8月26日)


簡単に言ってしまえば、教師から生徒への一方的な知識の伝達では、これからの社会で求められる人材は育成できない・・・ということだと思います。だからこそ、知識量を問うこれまでの大学入試を変革しなければならないという動きになっているのでしょう。

アクティブ・ラーニングで総称される授業方法は、今に始まったわけではなく、昔からいろいろな形で実践されてきました。問題解決学習・発見学習、体験学習、調査学習等がそれにあたり、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベートなども含まれます。
それが今になってまた声を大にして言われるようになったのは、ジェームズ・ヘックマンが主張した「非認知能力の大切さ」が影響しているのではないかと思います。
しかし私たちから見れば、なぜ今頃「アクティブラーニング」が脚光を浴びているのか理解できません。こぐま会では、幼児期の教育方法として、ペーパー主義の教育では子どもの考える力は育たないという考えのもと、30年以上前の設立当初から「事物教育」「対話教育」を実践し、幼児期の基礎教育の授業方法の中心に据えてきているのです。認識心理学者のピアジェが教育方法に言及した、「人間の認識の能力は、物事に働きかけ、試行錯誤することによって身につく」ことを実践すれば、事物教育をおいて、ほかにどんな方法があるというのでしょうか。幼児だからではなく、大事な教育方法として、知識の一方的な教え込み=教育という発想を変えなければなりません。以前、韓国から見えた教育視察団の先生方から、「KUNOメソッドの素晴らしさはよく理解できるが、それを我々が実践できるかどうか心配です。なぜなら、知識の注入が教育だと教えられてきたので、それに代わる方法での教育は自信を持ってやることはできないと思うからです。」と言われたことがあります。いま、教育現場で起こっている混乱と不安は、まさしくこのことではないかと思います。教員養成の現場で何を身につけてきたか、もっといえば自分自身はどんな教育を受けてきたか・・・おそらく知識偏重の教育であったはずです。その意味で、これからの教育改革は、教師自身が変わらなければどんなに優れたカリキュラムがあっても、どんなに優れたICT教育の環境があっても、教育の質は向上しないでしょう。そのことを一番よく知っているのは文科省自身だと思います。上級校の教師の皆さまも、知識の教え込み・言葉だけの指導が通じない幼児教育の現場を経験すれば、きっと発想の転換ができるかも知れません。私はそのことを強くお勧めしたいと思います。

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