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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「交換」における置き換えをどう理解させるか

第531号 2016/5/27(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 数領域における「交換」の問題は、最近の入試でも良く取り上げられ、新傾向の問題の一つになっています。このコラムでも何回か取り上げ、その難しさと学習の方法をお伝えしてきました。その後入試問題もいろいろ変化しています。これまで学校別の講習会でのみ取り上げてきたこの「交換」の学習を、今年度からばらクラスでも行うようにしました。

典型的な問題はいくつかありますが、難しいのは置き換えを伴う次のような問いかけです。

  • リンゴ1個はミカン2個と換えてもらえる
  • ミカン1個はイチゴ3個と換えてもらえる   という条件を踏まえ
(1) リンゴ1個は、イチゴ何個と取り換えてもらえるか
(2) イチゴ12個は、リンゴ何個と取り換えてもらえるか

(1)を正解に導く場合、いったんリンゴをミカンに置き換えて、その上でリンゴとイチゴの関係を考えなければなりません。この置き換えの作業をどう理解させるか。授業では、「銀行屋さんごっこ」を通して実体験させ、置き換えを伴う交換を印象づけました。

赤色のコインを扱う銀行・青色のコインを扱う銀行・黄色のコインを扱う銀行を用意し、それぞれに子どもを座らせ、
交換の約束
  • 赤色のコイン1枚は、青色のコイン2枚に換えてもらえる
  • 青色のコイン1枚は、黄色のコイン3枚に換えてもらえる

1人ずつコインを持って、好きなコインに交換することを自由にさせた後、教師が赤色のコイン1枚を持って黄銀行に行き「すみません、これを黄色のコインに換えて欲しいんですけど」と問いかけます。すると、黄銀行に座った子どもは、「できません」と答えます。そこですかさず、見ている子どもたちに、「赤色のコインは黄色に換えてもらえないと言われたんだけど、どうすればいい?」と尋ねると、「まず、青銀行に行って、青色のコインに換えてもらってから黄銀行に行けばいいよ」とみんなが言い始めます。そこで、教師はいったん青銀行に行き、赤色のコイン1枚を青色のコイン2枚に換えてもらってから、黄銀行に行って、黄色のコイン6枚と換えてもらいます。こうして、赤色のコイン1枚が黄色のコイン6枚に換えてもらえることを理解させます。といっても、見ただけでは本当に理解できませんから、一人一人に赤色のコインを渡し(枚数はいろいろ変える)、直接黄銀行に行かないで、いったん青色に換えてから黄色に換えてもらう、という行為を体にしみこませます。その結果、今度は黄色のコイン12枚を赤色に換える場合も、いったん青色に換えてから赤色に換えればよいことが理解できました。

ペーパー上で行えば短時間でできる「置き換え作業」を、体を通して経験させることによって、イメージ化する土台を築きあげます。子ども自身が本当に理解するということは、こうした事物を使った経験を通して身につけていくものです。ペーパー上で説明し、置き換えることを伝えても、すぐに理解できる子ばかりではありません。ペーパー上での説明がすぐに理解できるかできないかの違いは、それを理解する「経験」(レディネス)があるかないかによって決まってくるはずです。そうした理解の基礎をつくるには、活動を通して体にしみこませていくことが必要です。

交換に関する入試問題もいろいろ発展し、「=」でつなぐ内容が、同じ重さであったり、交換してもらえるという約束であったり、同じ値段であったりと、中身がいろいろ違っています。子どもにとって一番わかりやすいのは、同じ重さというイコールでの結び付きで、同じ値段となった瞬間、子どもにとってはとても難しい内容に変わります。同じ学校でも、年によって違った問題に変化します。ですから、以前にも紹介した次のような問題が、「交換」問題の中でも難しい問題ということになります。

左側の絵を見てください。絵本1冊と、鉛筆2本、消しゴム4個は、同じ値段です。花子さんは絵本を2冊買いました。
【問題】
(1) 絵本2冊と同じ値段で買えるものが入っているカバンを下から探して青いをつけてください。

この問題の難しさは、置き換えだけでなく、もう一つ難しさがあります。それは、鉛筆2本が消しゴム4個と同じ値段だという約束です。この約束を、鉛筆1本が消しゴム2個と同じ値段と置き換えできるかどうか、これも一つのポイントになります。

以前紹介したハンバーガーの問題の難しさは、ハンバーガー1個がメロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえるというように、1種類のものが2種類のものと交換できるという約束が、難問化する原因です。

動物村のパン屋さんは次のようにパンを取り替えてくれます。
  • メロンパン1個はドーナツ2個と換えてもらえます。
  • 食パン1斤はメロンパン2個と換えてもらえます。
  • ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえます。
【問題】
(1) ドーナツ4個は、メロンパン何個と換えてもらえますか。
(2) 食パン2斤は、ドーナツ何個と換えてもらえますか。
(3) ハンバーガー4個は、食パン何斤と換えてもらえますか。

このように交換の問題には、単なるかけ算・わり算の考え方だけでなく、さまざまな要素がからんで問題を難しくしています。

入試を5カ月後に控えた今、交換の理解度についてはまだまだ個人差が見られますが、どの段階まで理解しているかをしっかり把握したうえで、もう一度次の5つの点をしっかり踏まえた指導が必要です。

1. まず、そもそも「交換」ということを理解できるかどうか
2. 「=」でつなぐ意味を、重さ・交換・値段とした場合では、値段が一番難しくなる
買い物の経験が少ないことがその理由として考えられる
3. 今回の場合であれば、赤色のコインを黄色に、黄色のコインを赤色に換える際、一度青色に置き換えるということを、体を使った経験としてしみこませておくこと。そのためには、わざわざ青銀行に行くという行為をさせること。それが内面化されていけば、いったんあるものに置き換えるというイメージができ上がる
4. しかしペーパーになった途端、交換はするが、それが何に換わったかに対し無頓着な子が多い。だから、何に換わったかを常に意識させる声かけが必要
5. 値段の場合、例えばせんべい2枚があめ玉4個と同じ値段であるという約束を、せんべい1枚があめ玉2個と同じ値段と置き換えることができるかどうか

最近の数領域の問題の中で、一対多対応の応用である「交換」の問題が多く出される理由は、やはりこうした問題を通して「考える力」を求めているからにほかなりません。機械的な訓練でできる問題ではありませんから、遠回りのようでも何か具体的な生活場面を想定した学習経験が必要です。頭でイメージできるようになるための経験をいかに多く持たせるか・・・それが、幼児期の基礎教育の原則です。

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