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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今年の入試から何を読み取るか(1) 出題傾向が変わってきている

第463号 2014/12/12(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 12月7日(日)に、私立小学校の入試結果報告会を行いました。午前・午後合わせて140名ほどの保護者の皆さまにお集まりいただきました。今年の私立小学校の入試を以下のような内容で分析し、来年以降受験する皆さまに正確な情報をお伝えしました。

「2015年度 私立小学校 入試結果報告会」
日時 : 2014年12月7日(日) 10:00~12:00/14:00~16:00
講師 : こぐま会代表 久野泰可 (行動観察・面接について:廣瀬亜利子)
内容 : 1. 日程
2. 学力考査 -今年度の内容から分かる傾向と難易度-
3. 行動観察の内容
4. 面接の内容

今年は11月2日が日曜日であったために、この日に試験を行っていた、東洋英和女学院小学部と立教女学院小学校の試験日が変わりました。その結果、この2校については昨年より受験者が増えたようです。受験者数に関しては、名目上の倍率と実質倍率とは少し異なりますが、全体としては昨年より少し増えたように思います。増えた学校もあれば、減った学校もあると言ったほうが正確かもしれませんが、2007年度から続いている受験者数の減少傾向にやっと歯止めがかかったのではないかと思います。しかし、10年ほど前と比べると多くの学校で倍率が相当落ちています。各学校とも定員割れを起こしたくないと考えるのは当然ですから、合格辞退者をどれだけ出さないかに苦心しているはずです。そのことが、補欠合格者の発表の仕方の変化や、面接試験の重視につながっているのでしょう。補欠合格者の動きが外に漏れてしまったら、そのことが学校の評価につながる・・・と考えているのかもしれません。堂々と補欠合格者の名前や番号を発表していた昔が懐かしく思い出されます。小学校受験を取り巻く環境が厳しくなったのは、受験する側だけでなく、子どもを受け入れる学校側も同じだということでしょう。この先、受験者が増えることを願っていますが、私立小学校の存在意義も含め、これからもいろいろなことが起こるはずです。

さて、学力試験の動向について整理してみましょう。コラム461号(「入試問題は、予想した通り」)で報告させていただいた内容と重複しますが、今年の入試では次のような特徴が見られました。
  1. 平均的に問われるペーパー問題の内容は大体7問くらいで、例年とあまり変化はない
  2. 数領域の問題が減少した
  3. その分、図形や空間認識(位置表象)の問題が増えた
  4. 論理性を求める問題は少なくなったが、問題意図をしっかり聞き取り、作業して答えを導き出す問題が増えた
  5. 常識問題が増え、なおかつ設問がかなり細かくなっている。自分の経験を踏まえた理解が必要で、いわゆる図鑑的な知識では解けない問題が増えた
  6. 位置表象(空間認識)の問題は、ここ数年よく出されていたつみ木の「四方からの観察」が少なくなったとはいえ、やはり出されている。一方で、「位置の移動」の問題が増えた
  7. 少なくなった数領域においては、「一場面を使った総合問題」が多い。「交換」「数のやりとり」といった難しい問題はほとんど見られないため、その分易しくなっている
  8. 図形領域は、「線対称」「重ね図形」「回転図形」といった昔からある難問が増えたが、なかでも回転の要素を入れた問題が多くみられ、難しい。また、「図形構成」もやや復活した感じである
  9. 言語領域は、やはり「話の内容理解」が中心であるが、言葉の理解に関しては、「しりとり」が特に今年は多い
  10. 一見すると易しく見える問題も、1回の指示をしっかり理解し作業を通して答えを導き出す問題になると、かなり難しい問題に変化する
では、具体的な問題を少し見てみましょう。

1. 常識
  • 1番上のお部屋を見てください。この中で飛べないものにをつけてください。
  • 上から2番目のお部屋を見てください。今の季節は秋です。これから咲く順番で考えると、4番目に咲く花にをつけてください。
  • 下から2番目のお部屋を見てください。今の季節は秋です。これから来る楽しい日の中で、3番目に来るものにをつけてください。
  • 1番下のお部屋を見てください。ここに、ある昔話に出てくるものがかいてあります。その中で仲間はずれはどれですか。をつけてください。

単純な季節を問う問題というより、かなり細かい理解が必要です。それは、経験のないところで知識だけを教えても対応できないということです。同じ季節の中にも順序性があるという問題で、これからの常識問題の在り方を示しています。逆にいえば、こうしたことを生活の中で身につけるような経験を、学校側は求めているのでしょう。

2. 変化の法則性を考える魔法の箱
  • 左の形がハートやほし、ひしがたを通ると右のように変わります。どんなお約束で変わっているのかを考えて、1番下はどうなるか、右にかいてください。3つとも全部やってください。

魔法の箱は、数の変化に関する問題が多いのですが、この問題は、数以外の変化の法則性を導き出せるかどうかの問題です。どんな約束かを導き出すところに、観察力や考える力が求められています。

3. 上下左右に移動して答えを見つける問題
これから動物たちが、お部屋の中を進んで食べ物のところに行きます。お部屋にはいろいろな形がかいてありますが、それぞれの進みかたは、上にかいてあるように決まっています。動物が、はじめにどのお部屋に行くかはわかりません。けれど、うまく進むと食べ物のところに行くことができます。
  • いろいろな動物が、お部屋の中を上のお約束の通りに進んで、食べ物のところに行きます。どの動物がどの食べ物の場所に着いたか、下のそれぞれのお部屋の中から選んでをつけてください。

指示された約束に基づいて動き、どの動物が何を食べられるかを探す問題です。約束をしっかり聞き取り理解し、自分で作業して答えを見つけ出す典型的な問題ですが、相当集中して取り組まないと出来ない問題の一つです。

4. 旅人算につながる移動問題
バッタとカタツムリがマスの中を矢印の方に進みます。
バッタは3つとばしで4つずつ進みます。カタツムリは1つずつ進みます。
  • 2匹が一緒に進んだとき、同じところに着いた場所に青でをかいてください。
また元の場所に戻ります。今度はお約束が変わります。バッタは1つずつ進みます。カタツムリは1つ進んだら、1回休みます。
  • このお約束で2匹が一緒に進んだとき、同じところに着いた場所にエンピツでをかいてください。

旅人算につながるこうした問題は、これまでも良く出されていました。これもまた、約束に基づいて自分で作業して答えを求めなくてはなりませんが、こうした問題が今の子どもたちは苦手です。特に今回は、2問目の指示である、「バッタは1つずつ進みます。カタツムリは1つ進んだら1回休みます」というルールが理解できたかどうか。子どもたちにとっては、作業しにくい問題であったことはまちがいありません。

こうした新しい問題には一つの傾向が見られます。これまでの入試では、数や図形や言語といったように、出題領域が明確で問題がパターン化されていた部分もありました。しかし、今年の問題を見ると、どの単元に入れるか戸惑う問題も多くあります。推理と言ってしまえばそれまでですが、各領域を貫く基本的なものの考え方が、いろいろな形になって問われています。そうした力が、小学校以降の学習にとても必要だと考えているからでしょう。~ができる、~がわかるだけでなく、そのためにどんな思考法が身につけばよいか・・・そうした観点で学習しないと対応しきれません。それを「考える力」と言ってしまうと漠然としてしまいますが、少なくとも知能検査的な問題を解くように、機械的な特訓で身に付く能力を求めているのではないということだけははっきりしています。こうしたことを考えれば、ペーパートレーニングだけの学習に限界があることは明らかです。私が、ひとりでとっくんシリーズの中に入れた「ゲームブック」的な問題が増えているのも、そうした傾向を反映しています。指示をしっかり聞き、ルールを即座に理解し、それをあてはめて作業する・・・そうした問題が増えているのは、私の予想が当たったということでしょう。学校側の問題づくりの傾向を知れば知るほど、パターン学習が意味のないことは明白になります。

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