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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

再び問う「教育業界に偽装はないのか」

第412号 2013/11/8(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 「またか」という感想をだれもが持たれたことでしょう。今、ホテルのメニューの偽装問題に始まる食に関する誤表示が、各地で報告されています。人々の信頼関係を裏切る悪質な行為は、誤表示と言おうと、何と言おうと、許されることではありません。テレビでの会見そのものが偽装工作であることが、当事者にはどうしてわからないのでしょう。責任逃れのために、全てを部下の責任にしようとする、その行為そのものが偽装です。絶えることなく続く「偽装」。だまされる我々がいけないのかと思うほど、「偽装」がはびこっています。思い出せば8年前、耐震偽装問題で世間が驚きました。また中国産の食材を国産と偽って販売していた事例も記憶に新しいものです。誤表示と言ってしまえば、何か許される風潮があるのでしょうか。何と表現しようと、それを購入する消費者にしてみれば、安いものを高く売りつけられたという事実は、信頼関係にもとづく消費行動を裏切る、偽装工作そのものにほかなりません。

私は、耐震偽装問題が起こった8年前のコラムで、「教育業界に偽装はないのか」という文章を書きました。今それを読み返してみても、まったく今感じていることと同じです。少し長くなりますが、ここに引用してみます。

 連日テレビや新聞で、耐震強度偽装問題が報道されています。生きていくうえで一番基本となる「住居の安全」が確保されず、命の保障すらない当事者の皆さんのことを思うと、ひとごとでは済まされない、怒りがこみ上げてきます。思えば、こうした偽装工作はこれまでも食べ物を中心に、たびたび起こっていました。野菜や魚の産地の偽装や牛肉の偽装問題も記憶に新しいものです。今回の耐震偽装問題が報道されたとき「またか」という思いを強くしましたが、これまでと違って、「命の安全」がストレートに問題になっている分、深刻です。利潤だけを追求する企業体質が生み出す最悪の事件だといってしまえばそれまでですが、信頼関係を基にした経済活動が、モラルの崩壊によって成立しないとすれば、私たちはどのように考え、行動すればいいのでしょうか。

目に見え販売されている商品がそういう状態であるとしたら、目に見えにくい医療サービスや教育サービスでは、もっと手の込んだ偽装工作がなされているのではないかと思わざるを得ません。実際私たちが従事している幼児教育業界においても、私はたくさんの偽装工作を見てきました。たとえばこんなことがあります。
  • 合格者の数を偽装して発表する
  • 他人の教材をコピーして、「これはうちが開発したものです」と生徒に売りつける
  • 他人が開発した教材を、自分たちが開発したかのようにホームページに公開する
  • 実際に出題されたこともない難しい問題を偽装して公開模擬テストで出し、「これができないと合格できませんよ」と脅して、自分のところの講習会に参加させる
こうした偽装工作は、日常的に行われていることです。命に別状はありませんが、根っこのところは、今起こっていることとなんら変わりありません。利潤追求を第一の目的とし、教育を商売の道具と考え、最低限のモラルすら持ち合わせない人たちがこの業界に大勢関わっていることを忘れてはなりません。有名な塾の経営者が、こぐま会の教材を無断でコピーして独自教材だと偽って使用したり、販売したりしているという連絡が、その塾に通う保護者の方から実際にありました。また、こぐま会が開発した教材を無断でホームページに掲載し、さも自分たちが開発した教材であるがごとく宣伝した塾もありました。合格者数の水増し発表などは、日常的に行われています。私はこうした不正行為を、これまでもことあるたびに警告してきましたが、まだまだ改善されていません。こうした状況の中で、何が本物で何が偽物かの判断は、保護者の責任において行うしかありません。美辞麗句を並べた宣伝文や勧誘に惑わされない、確かな眼を持っていただきたいと思います。そして、しっかりした教育理念を持ち、信頼できる教師が指導にあたっている教育機関であるということを、親の責任において実際に確かめる必要があります。 (2005年「室長のコラム 第38号」より)

この業界に40年も身を置いていると、さまざまな矛盾が見えてきます。教育者として、絶対にしてはいけないことを平気で行う「商業主義」の偽装工作を告発していかないと、情報が開示されていない「小学校受験」が商売道具になってしまい、保護者を裏切り、子どもたちの伸びゆく芽を摘み取ってしまう結果になりかねません。これから多くの塾で、合格者数の発表があるでしょう。私が一番許せないのは、その合格者数が偽装されていることです。一定期間の指導を受けた子どもたちの合格者数のカウントであるべきなのに、1回だけ模試を受けたり、直前講習に参加しただけの子どもたちを、会員とみなして合格者数にカウントする「偽装」を許してはなりません。それが、生徒集めの道具に使われているとしたら、今問題になっている「メニュー」の偽装と同罪です。正直に発表している、個人塾の姿勢までも疑わせる結果につながってしまい、この業界が偽装合戦で泥まみれになることは、目に見えています。首都圏に500以上もあると言われる幼児教室の、まじめな主宰者までも巻き込んでしまうこうした偽装をなくしていかなければ、保護者の皆さまから見放されてしまうでしょう。子どもたちに「嘘をついてはいけない」と言っている教育関係者が、嘘をついてしまっている構図を、なんと表現したら良いのでしょうか。笑えない深刻な問題が、ここにあるのです。


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