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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

行動観察では、何が評価されるのか

第392号 2013/6/14(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 6月13日の第9回 合格カレンダー連続講座は、「入試における行動観察の位置づけと願書面接対策」というテーマで行いました。行動観察や願書面接対策について、間違った受け止め方をしているご家庭が多く見受けられます。そこで今回は、入試の実際とこれまでの経験を踏まえて、どのように受け止め、どのように準備したらよいのかをお伝えしました。

入試における行動観察の位置づけと願書面接対策
1. 行動観察が重視される背景
学力と行動は連動している
小1プロブレム・いじめの問題
子どもの行動を通して家庭の教育方針を知る
2. 2013年度入試 主要校における行動観察の内容
行動観察の新しい流れ
評価はどのように行われるのか
子どもたちは今、どんな問題を抱えているか
年長の夏は飛躍の夏・・・自立心をどう身につけるか
3. 最近の面接内容の特徴
子どもに対する新しい質問形式
父親に対する典型的な質問例
母親に対する質問内容の変化
4. 願書準備に関する大切なこと
間違った指導による願書の書き方だけはしないように
雙葉小学校の参考票に見られる、願書の典型
書いてはいけない事

現在行われている入試は、大きく3つの観点で問題が構成されています。学力試験・行動観察・面接の3つですが、中でも以前と比べ「行動観察」が重視されていると言われています。しかし、学力試験が軽視されているわけではなく、学力試験と連動し、別な観点から、本当に身についた問題解決能力なのか、また、入学後はたして学力が伸びるのか、その「学力」が伸びる素地があるのかどうかを見ようとしているのです。決して、行動観察を通して問題行動を起こす子を探し出しているだけではありません。ましてや、お行儀のチェックをしているわけではありません。

学校側が行動観察を重視する背景を考えると、今の学校教育の中で問題になっていることと無関係ではありません。以前よく話題になった、「小1プロブレム」の問題や「いじめ」の問題、無気力な「指示待ち」傾向の問題、コミュニケーション能力の欠如、集団活動での足並みの悪さ・・・こうした現在学校が抱えている問題をどう解決するか、という流れの中で行動観察試験が行われているのです。ですから、私が関わった40年間の入試の中でも行動観察の位置づけは変化し、その時代を反映した課題が多く出されてきました。

現在行われている行動観察の内容例を、主な学校について一覧表にまとめれば次のようになりますが、学力問題と違って、出題される内容がつかめたからと言って有効な対策がすぐにとれるわけではありません。

学校名2013年度入試 行動観察出題内容
学習院初等科(1) 指示運動(ジャンプ・かかし・ぬいぐるみ送り競争)
(2) 集団制作(お店屋さんの品物づくり)
(3) 行動観察(ごっこあそび・ビデオ・絵本鑑賞)
慶應義塾幼稚舎(1) 模倣体操(手指、腕、足の屈伸・首の回転・片足、飛行機バランス・片足移動・リズム運動)
(2) 指示行動(走る・やきいもごろごろ・くまあるき・ジグザグ走行・ケンパ)
(3) 絵画・製作(話を聞いた後、課題画・想像画)
(4) 行動観察(指示活動)
※月齢により違う場合・男女で同じ場合有
光塩女子学院初等科行動観察(ジャンケンすごろく・友だちづくり・新聞紙ちぎり・ごっこ遊び)
白百合学園小学校(1) 行動観察(自由遊び・しつけ・表現)
(2) 指示運動(的あて)
成蹊小学校(1) 指示運動(腕立て回転・ケンケン)
(2) 行動観察(踊りの相談・自由制作(踊りの衣装など)・踊りの発表)
聖心女子学院初等科行動観察(バッグ作り・動物の役決め)
田園調布雙葉小学校(1) 集団制作(お弁当作り)
(2) 集団遊び(ピクニックごっこ)
※月齢により違う場合有
東京女学館小学校AO型入試
(1) 指示運動(準備体操・ケンパ・鉄棒・ボール投げ・かけっこ・行進・スキップ)
(2) 行動観察(ドンジャンケン・グループ作り・なべなべ底抜け)
一般入試
(1) 母子活動(ダンスと寸劇)
(2) 指示運動(準備体操・スキップ・鉄棒・玉運び)
(3) 自由遊び
東洋英和女学院小学部(1) 絵画・製作(運筆・自由画・発表)
(2) 運動(前転・行進・鉢巻・スキップ・ボール投げ・片付け)
(3) 行動観察(ゲーム遊び)
(4) 自由遊び
日本女子大学附属豊明小学校(1) 集団制作
(2) 集団遊び
雙葉小学校(1) 行動観察(猛獣狩り)
(2) 集団制作(ダンボールで家製作)
(3) 集団遊び(ごっこ遊び)
立教女学院小学校(1) 運動(ボール投げ・キャッチ・ケンケン)
(2) 指示行動(リズム遊び・ロンドン橋)
横浜雙葉小学校行動観察(集団ゲーム・自由遊び)
早稲田実業学校初等部行動観察(集団ゲーム)
暁星小学校(1) 集団ゲーム(つみ木構成の伝達)
(2) 指示運動
(3) 模倣体操
(4) 自由遊び
慶應義塾横浜初等部(1) 模倣体操(リズム運動・片足、飛行機バランス・片足移動など)
(2) 指示行動(走る・平均台・跳び箱・ケンパ・ボール投げ)
(3) 行動観察(自由遊び)

運動・制作・絵画・指示行動・集団遊び・自由遊びなどのそれぞれの課題は、過去の問題を見れば大体見当が付けられます。だからと言って、高得点を取れる対策がすぐにできるわけではありません。それは、行動観察の評価方法に独特なものがあるからです。課題が与えられ、それができたかできなかったかで評価をしているわけではありません。行動観察の課題を、学力問題と同じようなレベルで「できたか - できなったか」でとらえると、間違った方向の指導になってしまいます。行動観察の評価は、「できた - できない」という観点ではなく、どのように取り組み、どのように考え、どのように解決したかという、問題解決のプロセスそのものが評価の対象になっているということを、しっかり把握しておくことが大事です。

以前ある学校の校長先生が、「例えば、でんぐり返しが課題になった場合、できたから○、できなかったから×にはしません。最後までどのように取り組んだかを評価しています。」と話されていました。また、「なぜ行動観察を行うのか」の私の質問に「年長11月の学力なんて知れている。たとえペーパーテストで100点取っても、入学後学力が伸びていく保証はどこにもない。教え込まれたパターン思考では、時に学力の伸長を阻害する。それに比べ、遊べない子は将来学力が伸びないんだよ。」だから、自由遊びをさせて、その子の育ってきた背景と、これから伸びる素地があるかどうかを判断するというのです。

この校長先生の発言に見られるように、学校側は、決して学力試験と同じ視点で子どもを評価しようとはしていません。それにも拘わらず、準備教育のほとんどが「できた - できない」の発想で子どもを訓練しているのです。そんなものを学校側が求めているはずはありません。普段の生活の中で身につけた本当の力を求めている学校側は、教え込まれて形式だけを身につけても、すぐにそのメッキを見抜きます。もう何回も取り上げてくどいようですが、慶應義塾横浜初等部の準備室長が昨年の学校説明会の際に配ったメッセージを改めて読み直してみてください。そして、型にはめることが「合格のための」準備教育ではないということだけは、しっかりと把握しておいてください。

何が起こるかわからない初めての集団で、自分で考え、友だちに働きかけ、自分たちで解決しなければならない状況は、「型」を教え込んで解決できるほど単純ではありません。いろいろなことが起こりうるし、予想もしない局面で、とっさに判断し行動に移すことができるようにするためには、普段の生活の中で考えさせるチャンスをたくさん作ってあげることが大切です。ある程度突き放し、自分で考え、行動するチャンスを作っていかないと、子どもは自立しません。何もかも準備し、最後まで見届けなければ安心できない母親のもとでは、自立した子どもは育ちません。愛情を持って、手厚く保護することは子育ての基本ですが、子どもの母子分離以上に子離れができない母親が、子どもが自立するチャンスを奪ってしまっていることに早く気づいてほしいと思います。

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