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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

応用段階の学習

第391号 2013/6/7(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 秋の入試に向けた学校説明会が始まりました。これから夏休みにかけて多くの学校で説明会が開かれますので、ぜひ足を運んでください。残すところ5カ月足らずとなった今年の入試も、第3コーナーに差しかかってきた感があります。子どもたちの学習も応用段階に進み、今一番子どもたちが集中して取り組んでいる時期ではないかと思います。苦手意識を持っていた課題が解決できるようになり、自信を持ってさまざまな課題に挑戦している時期ではないでしょうか。我々指導現場の人間も、子どもの反応の確かさに手ごたえを感じ始めています。

一方で、模擬テストの結果を見て、不安に思って勉強時間を増やしたり、おけいこの数を増やしたり、転塾したり・・・親の不安が子どもの学習環境や生活リズムを変えてしまう結果、子ども自身にプレッシャーがかかり、笑顔が消えていく子どもが増えています。確たる方針を持たない受験勉強ほど、数値化された結果に振り回され、悪循環の中に落ち込んでいくのです。子どもの成績不振の原因を探ろうともせず、先へ先へと進んでいくやり方では、子どもが戸惑うのも当然です。

そうした意味で、これからの学習は、周りの大人のかじ取りが大変重要です。秋の入試まで明確な方針が持てない(持たない)入試対策では、結局周りに振り回されて合格に至らないケースがほとんどです。子どもは、ほめてもらいたい一心でお母さんの言うとおりに頑張ります。その大事なかじ取りが方向性を間違ったのでは、子どもの基礎学力はばらばらに寸断されてしまい、頑張っている割に成績が伸びない現象が続きます。それを解決する方法は、たくさんのおけいこに連れ出す前に、まず家庭学習の時間をしっかり確保し、ひとつひとつの課題を徹底して学習することです。しかし、ここに大きな問題が存在します。それは、応用段階の難しい課題であればある程、壁にぶつかっている子どもにどのように教えたらよいのか、保護者がその指導法をつかめていない点です。

6月4日に行った第5回お母さまゼミでは、これから1カ月間に行う難易度の高い授業の内容に即して、入試問題にどのように取り組むかを、具体的な教材を提供しながら説明しました。

「各領域の内容と入試問題 - 何が重要で何が難しいか -」
1. 観覧車
2つの質問に対する答え方
2. 魔法の箱
自分で法則性を見つけるために大事なこと
3. つりあい
一対多対応の考え方で解けるつりあい
置き換えを伴うつりあい
4. 地図上の移動
地図上の移動の3つのタイプ
5. 数の増減
おはじきを使って答えを出す
話を聞いて暗算で答えを出す

今回の内容は、6月にばらクラス(年長児)で学習するステップ5と6の課題の中で、特に入試によく出される課題を取り上げ、どんな形で問われても対応できるように、学習ポイントを伝えました。その要旨は、以下の通りです。

1.の「回転推理」の代表である観覧車には、2つの問いかけの仕方があります。
「AがBのところまで行くと、Bはどこに行きますか」
「AがBのところにいくと、Aのところにはだれがやってきますか」
まずこの質問の意図をしっかり理解し、後者の解き方がなぜ逆回りで解けるのか、その理由をしっかりとつかませることが大事です。理由も説明できないまま、操作として逆回りをしている子どもがあまりにも多く、それでは本当に理解したことにはなりません。

2.の「魔法の箱」に関しては、法則性を導き出すためのトレーニング法を伝えました。
「2を入れると4になり、3を入れると5になる。では5を入れるといくつ?」という問題と、「2を入れると4になり、3を入れると6になる。では5を入れるといくつ?」という2つの問題をしっかり区別できるかどうかが問われます。前者は2増え、後者は入れた数だけ増える(倍になる)わけですが、子どもは最初の「2を入れると4になる」のところだけを見て判断しがちです。そこで見当をつけるのは良いのですが、2つ目の例示を見て判断するという方法を身につけないといけません。また、「魔法の箱の逆思考」として、出てきた数を見て、入れた数を判断する問題にも発展する可能性がありますので、その練習もしておかなければいけません。

3.のつりあいの課題では、「一対多対応」の考え方で解ける問題だけでなく、置き換えを伴う思考法をどのように身につけるかが大事です。すなわち、A=2B B=3Cという条件があった場合、AとB、BとCの関係だけでなく、AとCの関係をBを仲立ちとして考える思考法を身につけなくてはなりません。また、AからCを聞いて解っても、CからAを聞くと解らなくなってしまう子が多く見られます。逆から問いかけることのむずかしさがここでも表れてきます。それをどう乗り越えるか、工夫が必要です。

4.の「地図上の移動」に関する課題は、3つの質問形式があることを踏まえ、目で追いかける練習を徹底して行うことが大事です。3つの質問形式とは、
 (1) 地図を見ながら話を聞くが、話が終わるまで作業できない場合
 (2) 地図を見ながら話を聞き、話の進展に沿って即座に動く場合
 (3) 地図は伏せた状態で話を聞き、話が終わった後、地図を広げて移動する場合
どの質問形式が難しいかは一概に言えませんし、それぞれに難しさがあります。
一番易しいと思われがちな(2)の方法が、実は一番間違えやすいという現象が見られます。即座に左右を判断しないと、話はどんどん進んでいき、迷ってしまうのでしょう。逆に、一番難しいとされる(3)の場合、意外とできるのです。それは、曲がる地点にお店などが配置され、それが話に出てくるので、そこをしっかりつかめば大体の見当はつけられるようになっているからです。出題方法と質問の内容がどう組み合わさっているかによって難易度が決まりますので、こうした現象が起きるのです。

5.の数に関する課題では、将来の「たし算」「ひき算」につながる「数の増減」を、暗算で解く方法を身につけるために、どんな練習法が有効かを具体的に伝えました。指は絶対に使わせないこと。指を使うくらいなら、おはじきを使って考えさせ、数の変化をイメージさせることによって、数の内面化(暗算)を促進することが大事です。これは、単に受験対策としてのみならず、入学後の計算スピードを上げるためには、今のうちから暗算の訓練をしておく必要があるからです。また、最近「話の内容理解」の中で、数の変化を捉えさせる問題が多く出されています。その対策は、暗算能力を高めておくことにつきます。指に頼っていたのでは、いつまでたっても指から離れられず、小学校入学後の計算でも指を使ってしまい、その結果解くスピードが極端に落ちるのです。入試対策といえども将来の学習につながる有効な方法を身につけさせるべきであり、指を使った数の指導は、絶対にしてはなりません。

1日30~40枚のペーパーを機械的にこなすことが「受験対策」なのではありません。ひとつひとつの問題を徹底して学習することを通して、「考える力」を身につけていくことが大事です。難しい入試問題を解くために必要な「思考方法」は、それほどたくさんあるわけではありません。何千枚というペーパー問題に変化していく課題の基本をつきとめ、その基本となる思考法を徹底して身につけることが大事です。それは、決して量をたくさんこなして身につくものではありません。最近の「考える力」が求められる入試において合格を勝ち取るためには、機械的なペーパートレーニングでは対応できないことは、実際の入試問題を分析してみれば誰の目にも明らかです。その意味で、これから難問に挑戦する時期の学習法こそ、工夫が必要です。

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