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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児期の基礎教育を教科学習にどうつなげるか

第324号 2012/1/20(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 入試を終え、今年4月から小学校1年生になる子どもたちの「就学準備クラス」が先週より始まりました。3月半ばまで、全10回の講座として行われるクラスです。幼児期の基礎教育の一環として行ってきた「受験対策の学習」も、将来の教科学習の基礎をつくり上げるという観点でとても意味のある学習だったと思います。教科前基礎教育として行ってきた学習を、「算数」「国語」といった教科学習にスムーズにつなげてあげることが当面の課題です。受験といえども、幼児期の基礎教育として行ってきたこれまでの学習を「算数科」及び「国語科」に繋げていくために、教科の系統性と子どもの理解度をしっかり把握し、「教科学習」への橋渡しをしなくてはなりません。この橋渡しがうまくいけば、幼小一貫教育の道筋ができ上がるはずです。

私たちが幼児期の基礎教育として行ってきたこれまでの学習は、「教科前基礎教育」という理念を掲げての教育活動でした。小学校1年生から始まる教科学習の内容を、そのまま薄めて易しくしてプログラム化するのではなく、その教科学習を支える基礎体験を事物に働きかけることを通して行おうとするものでした。この考え方の根底には、遠山啓氏の「原数学」「原国語」「原音楽」・・・総じて「原教科」という考え方があります。つまり、幼児期の基礎教育は小学校の教科学習をそのまま早めて行うのではなく、生活や遊びの中にテーマを見つけ、将来の教科学習の基礎となる経験や学習をすべきであるという考え方です。

現在広く行われている幼児期の学習は、そのほとんどが「読み書き計算」に象徴される、文字の読み書き・数の計算がほとんどです。それは形式を見ても、小学校低学年の内容を薄めて、易しくしてプログラム化しているだけです。私たちはいずれその課題に取り組むとしても、もっと基礎となる経験を「年少~年長」の子どもたちに行うべきだと考えています。従来の意図的な幼児教育は、そのほとんどが形式を与え、それを覚えさせて応用するだけのものでした。ですから、算数につながる内容も、子どもたちの生活からかけ離れた、抽象化された数字や記号を使ってトレーニングするのが主流でした。私たちは一番大事な「考える力」を養うために、常に生活や遊びの中で起こるさまざまな事象の中に数的体験を発見し、それをテーマとした授業を組んできました。抽象化される前の具体的経験をベースに、「考える力」を育てようとするものです。「未測量」「位置表象」「数」「図形」「言語」の5領域を中心に、学習内容を系統化させてきました。つまり、例えば最初から「3+2」や「3×2」といった計算をトレーニングするのではなく、事物を使って「3+2」や「3×2」の数的体験をさせ、その計算の意味をしっかり伝えていくような授業を心がけてきました。

教育方法論として良く言われる「具体から抽象へ」の中で、ともすると抽象を重んじ、注入教育に走る幼児期の早期教育を排除し、具体的経験をイメージさせながら、事物に働きかけることを通して答えを導き出すプロセスを大事にした「試行錯誤」に時間をかけてきました。「考える力」が求められる小学校入試の対策も、このやり方が一番良い方法だと確信しています。その小学校入試を終えた今、その経験を次のステップ、つまり教科学習へ繋げてあげるのが、私たちの大事な仕事です。例えば、算数につながる経験と言えば、すでに小学校3年生までに学習すべき四則演算は、これまですべてその基礎は学習してきました。数字や記号を使った数式は学習の対象にしてきませんでしたが、それにつながる経験を十分積んできたわけですから、これからの学習では、たし算・ひき算だけでなく、かけ算もわり算もすぐに指導が可能だということです。「4×3」の計算は教えてきませんでしたが、「4×3」の経験は「一対多対応」の中でいっぱいさせてきました。その数的経験をかけ算に繋げてあげれば、子どもたちは簡単にかけ算九九の世界に入っていけるのです。現在の学校教育では2年生になると、「4×3」の計算を教えた後「4×3」の考え方を文章題で問いかけています。そうではなく、まず「4×3」の数的体験を教室でさせ、それをかけ算の数式に置き換えていくことが大事です。つまり、「抽象からはいって具体に戻る」のではなく「具体から抽象へ」の道筋を踏んだ指導が大切なのです。

こうした考え方に立って行う今回の「就学準備クラス」では、算数と国語と英語の3つを独立した形で行うわけですが、例えば算数では、次のような学習内容を考えています。

<就学準備クラス「算数」カリキュラム(全10回)>
第1回「たし算・ひき算って何?」 数の構成とたし算・ひき算
一対多対応・数の構成・数の増減復習/3つの部屋の数の構成/足だし式の練習/話を聞いて式を立てる
第2回「たし算・ひき算の計算法」 音読と聞き取り
数の増減・足だし式・3つの部屋の数の構成復習/暗算練習/プラス・マイナスの記号の理解とその計算法
第3回「隠れた数を探せ」 ブラックボックス・逆思考
逆思考の問題復習/10の構成/3×3方眼による数の構成(数字で行う)/魔法の箱を数字で行う/□を使った式(空欄を埋める)
第4回「かけ算って何?」 一対多対応とかけ算
一対多対応の復習/絵を使ってまとまりを作る練習/かけ算の式の立て方(一あたり量×いくつ分)/立式練習
第5回「わり算って何?」 等分や包含除によるわり算
等分除・包含除の復習/わり算の式の立て方/立式練習
第6回「かけ算って答えをどう出すの?」 かけ算の計算法
×式の意味/かけ算九九表/一対多対応暗算とかけ算/簡単なかけ算 5の段・2の段
第7回「わり算って答えをどう出すの?」 わり算の計算法
÷式の意味/等分除・包含除の意味/暗算練習とわり算の答え方
第8回「話を聞いて式を立て、解いてみよう」 文章題の基礎
短文を聞いて式を立てる/長文を聞いて式を立てる/立てた式を解いて答える
第9回「文を読んで式を立て、解いてみよう」 文章題の基礎
短文を読んで、式を立てる/長文を読んで、いくつかの質問に答える/文章題解決のコツ
第10回「10週授業の総まとめ」

この10回の内容は、小学校3年生までの計算をカバーしています。これが短期に可能なのは、先ほど述べたとおり、これまでの学習で四則演算の考え方の基礎を具体的に学んできたからです。あとは記号化された約束を伝えるだけですから、短時間で可能です。それぞれの考え方が理解できたかどうかは、「作問」を通して点検することが大事です。例えば、次のような問題を投げかけてやればよいのです。

次のような式になるお話をつくってください
  • 6+3
  • 6-3
  • 6×3
  • 6÷3

作問は意外と難しく、現在の小学生でもできない子は大勢います。特に「かけ算」の話をつくることが苦手です。「一当たり量×いくつ分」という考え方がしっかり身についていない場合が多いからです。計算ができてもこれができなければ、かけ算が本当にわかった事にはなりません。計算だけが独り歩きしていく現在の「計算至上主義の算数」では、論理を育てることは到底できないでしょう。それは、「計算はできるけれど、文章題になると急にできなくなる」という、多くの保護者の皆さんの感想が裏付けています。

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