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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

9月病をどう乗り切るか

第307号 2011/9/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 夏休みを終え、また日常のクラスに戻ってきた子どもたちは、どこか大きく成長したように感じます。毎年のことですが、夏休みを経た9月の教室では、子どもたちの自信にあふれた行動に成長した姿を垣間見るのです。合宿等を含めた夏休みの活動や新たな経験が、子どもに自信を与えているのでしょう。人の話を聞く態度・友だちとのかかわり・相談の仕方・受け答えの仕方・落ち着いて物事に取り組む態度などに大きな変化が見られるのです。その一方で、毎年この時期になると、夏のいきすぎた学習の反動なのか、学習面で意欲をなくしていく子も出てきます。トイレが近くなったり、チック症状がみられたりするのもこの時期の特徴です。私はそれを「9月病」と称し、保護者の皆さまに「心の健康」管理をしっかりするようお願いしています。こうした子どものマイナス変化は次のような理由が複合されて現れるケースがほとんどです。

  1. 夏休み期間中、受験向けの勉強中心の生活だったため、気持ちの上で「もう勉強はしたくない」という雰囲気になりやすい。
  2. 難しい課題になればなるほど母子関係が険悪になり、学ぶことへの意欲がなくなってしまう。
  3. 勉強そのものよりも、学習に絡む人間関係(親・教師・友だち)がうまくいかず、その結果として、勉強そのものから逃げたい気持ちになっていく。
  4. 模擬テスト等の結果が本人に伝わり、「出来 - 不出来」に敏感になりやすく、「間違えたらお母さんに叱られる」・・・といったプレッシャーが、学習を避ける気持ちにつながっていく。
  5. 9月は、願書の準備等で保護者の方が一番忙しい時期であり、子どもと一緒に勉強したり、本を読んだりして真向かう時間が少なくなり、子どもに不満がたまりやすい。
  6. 繰り返しの学習で新鮮さがなく、「もうやったからいい。解っているからいい」という気分になりやすく、集中力を欠くケースが多く見られる。
  7. 保護者の方が、最後の追い込みだと頑張れば頑張るほど、子どもの気持ちと噛み合わず、発散と集中のバランスを欠くことになり、勉強漬けのメリハリのない生活が子どもの意欲を減退させてしまうことになる。
今教室では、最後の総まとめの授業を予想問題演習として、本番の試験を意識した方法で進めています。テープの発問で問題に取り組む子どもの姿を傍らで見ていると、明らかに気持ちがそこにない、集中していない子どもはすぐにわかります。その多くの子が、以前はとても学ぶことに興味を示し、率先して物事に取り組んでいた子どもです。学習面での理解力は十分ありながら、ペーパーに取り組む態度に明らかに変化が見られるのです。こうした態度の背景を探っていくと、勉強のしすぎ・怖いお母さん・塾の掛けもちでの疲れ・強制された関係での徹底した教え込み・・・といった問題を抱えている子がほとんどです。せっかく理解する力を持っていながら、気持ちが集中できなければ、結果として問題は解けません。これが9月病の典型です。保護者が気持を入れて頑張れば頑張るほどこうした事態に陥りやすいのです。親が良いと思って行っていることが、逆効果になっているということを知っておく必要があります。子どもの立場に立って1日の生活を考えれば、大いに発散して遊ぶ時間、集中して学習に取り組む時間、これをメリハリをつけて行わなければ、子どもはつぶされていくだけです。親の受験ではありません。生まれて5~6年しかたっていない子どもに要求することには限度があります。その要求が子どもの能力を超えた時、無言の抵抗が始まるのです。

この問題の多い9月をどう乗り切るか。また、一番良い状態で本番の試験をどう迎えるか、それぞれの子どもの性格等を考慮し、考えてください。心の問題のほとんどが人間関係、特に「母子関係」に起因していることも知っておいてください。では、一番問題の起こりやすいペーパートレーニングの進め方について、ポイントをお伝えします。

(ア)ペーパーは量より質を考える
(イ)1回の量は、6~8枚セットで、テスト形式で行う<20~30分で可能>
(ウ)質問は1回しかしないことを徹底する
(エ)必ず時間制限をする
(オ)その中に必ず、難しい問題を2問入れる
(カ)解き方を形式で教え込まず、必ず答えの根拠を説明させる
(キ)同じペーパーは実際の試験では出ない。そのため1枚1枚のペーパーで何を身につけるかを前もって把握し、そのことをしっかり伝える
(ク)朝、幼稚園や保育園に出かける前に、1セット行う。答え合わせは、時間がなければ帰ってからでも構わない
(ケ)間違いには必ず原因があるということを念頭に、子どもの立場に立って「なぜ間違えたのか」を一緒に、丁寧に考えてあげる。決してできなかったからと云って叱りとばさない

これから残された1カ月半は、体の健康・心の健康に留意し、子どもらしく、笑顔で試験場に向かえるようにしなくてはなりません。この「子どもらしさ」を欠く受験生が多く見られますが、学校側はそんな子を求めてはいません。ペーパーで100点を取っても合格できないのが小学校入試なのです。バランスを欠いた成長は、学校側は好みません。年長の11月の試験で仮に満点を取っても、そのことが入学後の学力を保障することはないと学校側は考えているからこそ、行動観察が重視されているのです。

これまでの学習を信じ、これからは、難しく・新しいことを更につけ加えていくのではなく、これまで身につけたことをしっかりと発揮できるような自信と、物事に積極的にかかわっていく意欲を高めていくことが大切です。心の健康を忘れた学習面での暴走は、結果として合格につながらないということは、これまでたくさん見てきました。

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