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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

韓国幼児教育事情

第306号 2011/8/26(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 8月13日から17日までソウルに赴き、KUNOメソッドを導入している幼児教室や、幼児・児童の英語を指導している学院の幼児部門の授業を見学してきました。日本とは違う教育事情があるとはいえ、小学校受験があるわけでもない韓国の幼児教育に対する保護者の関心の高さを実感してきました。

幼児教室の主宰者の話を総合すると、いま韓国の幼児教育において保護者が求めているのは、「英語教育に対する期待」と「思考力を育成するメソッドへの期待」の2つのようです。私が見学したある学院の英語教育は徹底していました。日本でいえば、年少から年長までの3学年の子どもたちを12台のスクールバスで近隣から500名ほど集め、朝9時から午後2時まで、日本の小学校のように45分単位の時間割で、1日4~5コマ授業を編成し、韓国語は一切使わず、すべての授業を英語で行う徹底ぶりでした。私が見学したのは、2カ月に一度保護者に見せる英語劇の練習をしているクラス、男の子がテコンドーの授業をしている間、女の子がバレーの授業を英語で行っているクラス、テキストを使って英語の筆記練習をしているクラスでした。英語劇を練習しているクラスでは、子どもたちの発音の素晴らしさに驚きました。日本の大学でもすべての授業を英語で行うという試みが始まっているようですが、韓国では、年少クラスからすべての活動・すべての授業を英語で行うという徹底ぶりです。この学院では、4つのキャンパスを持ち、幼児と小学生を合わせて3,000名の子どもたちを指導しているということです。この学院の創設者は、33歳の時3名の子どもたちの塾から始め、5年間で3,000名を集める学院に成長したようです。来年には5番目のキャンパスを作り、拡大の勢いは眼をみはるばかりです。この学院の塾長クラスの先生方が、4月と6月に10名ほど来日し、私の授業を見学したり、勉強会に参加し、意見交換をしたりしました。その結果、幼児部門で「思考力育成」の授業としてKUNOメソッドを取り入れたいという意向をもっているため、ソウルに赴いて現地の授業を見学し、講演会を行ってきました。

別の教室では、4年ほど前からKUNOメソッドのテキストを授業時間内に使用し、「思考力育成クラス」として実践してきましたが、より徹底するために本格的に具体物を使用した授業を導入し、東京と同じ授業を行う方針で検討を始めているようです。韓国では小学校受験はありませんが、将来の学力の基礎づくりとして幼児教育を重視しており、私たちが開発したプログラムが、そうした保護者の期待にこたえる内容だということで導入を検討し始めたようです。日本から多くのメソッドが導入されていますが、ほとんどが注入教育の流れであり、また、「読み書き計算」の域を出ず、本当に思考力を育成するプログラムでないということに韓国の保護者が気づき始めたようです。具体物を使い、試行錯誤させ、最後にテキストを使ったトレーニングをし、思考力を育成するように工夫されたプログラムは他にないということで、KUNOメソッドに期待しているようです。

韓国では現大統領の意向で、来年から年長児の保育料を国家が保障し、実質義務化になるため、民間の塾形式で行っている教室の経営者は生徒が集まらなくなるのではないかという危機感を持っているようです。そうした状況下で、保護者が保育内容を検討しながら教育機関を選別する時代になっていくのではないかという判断から、親の教育要求にこたえるべく、「英語教育」と「思考力育成クラス」をどうしても強化しなければという思いが強いようです。日本でいえば、無認可幼稚園のような存在の塾(学院)が生き残るための方策を真剣に考え始めており、その結果として、KUNOメソッドへの期待ということにつながっているのではないかと思います。

私たちはこれまで、香港の幼稚園での実践、上海で提携校による5か所の幼児教室の運営、韓国幼稚園への教材導入、バングラデシュでの幼児教室運営(2011年9月18日開校)と、ここ5年間に近隣の幼児教育に熱心な国においてKUNOメソッドを導入し、幼児教育関係者や保護者から高い評価を頂いています。日本の幼稚園や保育園にも考え方の導入を推進し、現在40近くの園でKUNOメソッドに基づく教育が行われています。幼児教育の大切さは誰もが認めていながら、さて何をどうするかという具体論になるとほとんど検討に値するプログラムがない、というのがどの国においても現状のようです。そうした中で、私たちが実践を通して積み上げてきた「思考力育成プログラム」が評価されているのだと思います。中国では、これから10年間は教育産業は右肩上がりだということで、日本の塾産業がこぞって中国に入り込もうとしているようですが、きちんとした教育理念と実践の積み上げがなければ、目の肥えた中国の保護者から弾き飛ばされてしまうということを知っておかなくてはなりません。こぐま会の提携校がここにきて拡大の方針を打ち出しているのは、この3年間の地道な活動が保護者に認められたからに他なりません。どこの学校に何人合格したかではなく、教育内容が将来の学習の基礎づくりになっていくようなプログラムでなければ、だれも見向きもしないでしょう。韓国においても同じことが言えると思います。日本において、意識的な幼児教育が全て小学校受験のためというように、短絡した発想で見られている限り、正しい意味での知育は育っていかないでしょう。こぐま会のメソッドは受験のためだけのメソッドではありません。幼児期の「教科前基礎教育」として発案し、受験にもきちんと対応できるプログラムになっています。こぐま会の教育プログラムが上海やソウルで多くの支持者を得ることができれば、きっと日本の幼児教育関係者も無視できなくなるでしょう。

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