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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

小学校入試で求められているもの

第256号 2010/8/21(Sat)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年の受験生は、厳しい夏の学習を乗りきり、残り2か月間の「総仕上げの学習」をスタートさせたことと思います。また、来年受験する年中児の皆さんも、受験対策を始める時期になりました。入試に関する情報開示がほとんどなく、教科書のない唯一の入試である小学校受験は、その取り組み方が千差万別であることは言うまでもありません。指導者の考えが直接反映し、これほどまでにまちまちな入試対策法はどの入試を取ってみても見当たりません。そこに間違った情報が流される最大の原因があります。そのためか、入試の実情や子どもの発達を無視した間違った指導がまかり通っています。入試を控えた今、多くの受験生が精神的に追い込まれ、自信をなくし、やる気をなくし・・・そうしたご家庭からの相談が絶えません。毎日100枚以上のペーパーが科せられるような、常識では考えられないような学習で多くの子どもたちが傷つき、意欲をなくしています。何がどう評価されたのか、またどんな考え方の指導が良かったかの検証もないまま「カリスマ教師」が生み出され、教育の原則を外れた指導でも合格さえすれば何でもありの受験対策が、今子どもたちの成長を大きく阻害しています。すべての情報が開示されていない現状で、受験生の保護者は何を信じ、どう対策を取ればよいのか右往左往しています。受験情報が生徒集めの道具として恣意的にゆがめられ、「そんなことでは、合格できません」を言われると、「おかしいな」と思いつつ、常識的な判断すらできなくなっていくのが、保護者の置かれた立場であるように思います。

私は、38年間「教育の原理・原則を踏み外さない、受験対策のあり方」を実践してきました。それが「教科前基礎教育」の理念であり、方法としての「事物教育」や「対話教育」であったわけです。この考え方は、今では当たり前のようになりましたが、当初は「そんな生ぬるいやり方で合格できるのか」と言われたものでした。小学校受験が子どもの成長にとってマイナスであるなら、そんな受験はしない方がましです。子育ての総決算として入試を捉え、教科学習の始まる前の基礎教育をきちんと行うために、「小学校入試」は最高の動機づけになるはずです。

では、一体学校側は入試で何を評価の対象としているのでしょうか。中学校以降の入試は、ほとんどが学力テストの結果で合否が決まります。しかし、小学校入試はペーパーテストの点数だけで合否が決まるわけではありません。行動観察の評価や三者面談の評価が加わって、総合的に合否が決まっていくのが今の入試の現状です。加熱した入試対策は、すべての試験を「できた - できない」で判断しがちです。そのため、お行儀も含め、徹底して形を身につける指導が横行しています。絵の描き方も、口頭試問での答え方も、挨拶の仕方も、すべてある形を教え込まれて入試に臨みます。しかし、学校側はそんな教え込まれた形式を求めているわけではありません。同じような絵を描いたり、同じような答え方をしたら、教え込まれてきたことをすぐに学校側は見抜きます。ペーパーも行動観察も、教え込まれた偽物を学校側は求めていません。だからこそ、ペーパー試験は少ない枚数で「考える力」を求める問題が増えており、行動観察も「自由遊び」が増えているのです。本当に身についた考える力、本当に身についた物事への対処の仕方をこそ求めているのです。それが小学校に入ってから学ぶ教科学習の基礎になり、物事に取り組む態度の育成につながっていくからです。

本物の学力とは何か、本当に身についた態度とは何か・・・それを求めて学校側は試験の内容を工夫しています。温かい人間的な環境の中で身につけた、その年齢にふさわしい振る舞いや、本当に身についた「考える力」こそが、評価の対象になっているのです。その意味で、小学校入試は特別な能力を求めているのではありません。年齢にふさわしい、望ましい「育ち」をしているかをみるテストであると言っても間違いではありません。

受験対策が過熱すればするほど、「形式を身につける教育」がはびこっていくと思いますが、今の学校はそんなものを求めているのではないということだけは、肝に銘じておいてください。最後は、家庭教育の有りようが試されているのです。全てにおいて、まずは経験させること・・・それを抜きに、どんな詰め込みも意味をなさないのが小学校入試なのです。学校が求めているのは、真に身についた考える力・社会性・取り組む態度・他人への思いやりなどです。訓練によって形さえ身につければ良いというものではありません。間違った指導の最たるものは、家庭での経験も考えるプロセスもすべて無視し、結果だけを教え込む、実に指導者に取って都合のよい、安上がりの教育です。そんな教育で子どもをだめにしてしまわぬよう、心がけてください。

こぐま会では来年以降受験される方を対象に、8月末から小学校入試を正しく理解するための連続講座を実施します。小学校受験に関するあらゆる問題について、これまでの経験と具体的なデータに基づいたお話をするつもりです。ぜひご参加ください。

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