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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏の学習課題(6) 夏季講習会で見られた子どもの弱点

第255号 2010/8/5(Thu)
こぐま会代表  久野 泰可

 7月19日から始まった夏季講習会もすでに3クールが終了し、後半のプログラムが始まりました。今年は夏季講習会の内容を全面的に改訂し、最近の入試傾向に合わせた内容で、従来よりやや難しい課題を多く取り入れて行っています。お弁当持ち4時間の5日間講習では、考え方の基礎をもう一度復習し、過去問を中心としたペーパートレーニングと暗算練習、そしてお弁当後の午後は行動観察の対策として、班別に劇の発表をするための準備を通して5日間さまざまな経験をさせ、そのすべてが「行動観察」の対策になるよう内容を考えました。「となりのトトロ」の曲に合わせて歌ったり踊ったりする時間も設け、難しい学習の合間に気分転換を図りながら、5日間の学習に前向きに取り組めるようプログラムを組みました。

集団授業の良さは、入試自体が集団で行われることへの対策以上に、子ども同士の学び合いがあるということです。みんなの前で発表したり、友だちの解き方の説明を聞きながら一緒に考えたり、友だちに対する先生の評価を聞きながら自分も頑張ってみようと思ったり、友だちのがんばりを見て励まされたり・・・教育がますます個別化に向かう現在、幼児期の教育こそ集団で行うことの意味を5日間の授業を通して強く感じました。

入試を3カ月後に控えた今の時点で、子どもたちはどんな問題を抱えているのか。私が担当した午前の学習部分について、気付いたいくつかの点をお伝えしましょう。もちろん個人差はありますが、共通して抱えている問題も数多くあります。それらをまとめてみると、入試を3カ月後に控えた子どもの学力の現状がはっきりしてきます。ぜひ家庭学習の参考にしてください。

(1)基本的な事項の理解はしていても、複合化された応用問題になるとでき具合に差が出てしまう。ただ、間違えた子どもの解答を一人一人見ていくと、限りなくに近い×をもらっている子も多い。特に2段階思考を伴う問題では、一度出た答えが何なのか、それをどう使って次の答えを導きだすか。その点で差が出ている。あと一歩でをもらえるようにするために、必ず答えの根拠を説明させるようにしたい。
(2)難しい問題の解き方を家庭で力を入れて練習するばかりに、その方法が印象深く身についてしまい、簡単な解き方をすればよいのに教え込まれた難しい方法で解いてしまう。特に観覧車における2つの解き方、つまり同じ方向に同じ数だけ進める方法と、逆回りに同じ数だけ戻る方法とが混乱している。なぜ逆回りにしなくてはならないのか、その点が説明できるまで練習する必要がある。2つの解き方を機械的に教え込んでも意味がないということがよくわかる。

(3)指示の中に記憶の要素が多いものはでき具合に差が出る。特に指示が2つまでは問題ないが、3つ・4つとなるとかなり大きな差が出てしまう。話の内容理解において何をしっかり聞きとらなくてはならないかは、たくさんの問題をこなしていく中で身につけるしか方法はない。

(4)最近よく出されている課題の一つに「移動」がある。「地図上の移動」「方眼上の移動」「すごろく移動」「飛び石移動」「回転位置移動」など、入試問題は多彩である。その中でも典型的な「地図上の移動」は交差点での曲がり方が問題になるが、話を聞きながら移動する場合と、話を聞き終わった後で移動する場合の2つを良く練習しておく必要がある。また、飛び石移動は「旅人算の考え方」が基本であるため、旅人算で求められる基本パターンを踏まえて、飛び石で練習する必要がある。この課題は、作業して答えを導く課題であること、また「一対多対応」の考え方を応用することなど、ポイントを押さえた練習が必要である。

(5)もうひとつ、最近の入試の特徴である「回転」の要素を含んだ問題については、まず実物を回転させてみること。そのイメージを生かし取り組むこと。特に回転位置移動については解き方のアドバイスをする必要がある。点から点への移動を線(辺)から線への移動に変換させることによって、解きやすくすることができる。

(6)数のやりとりは、じゃんけんゲームが一番良い。同じ数のおはじきを持ってじゃんけんをし、勝つと負けた人から1個(2個)もらえるという約束でじゃんけんをする。最初は1回の勝負の後、おはじきの差を聞く。次は3回連続、5回連続の勝負でどうなったのかを尋ねる。同数からスタートする場合、1個あげたら差は1個ではなく2個であることを事実に即して理解させる。

(7)三角パズルやつみ木をひとつ動かすことによって変化する形を連続して並べ、短時間のうちに完成させる問題は、子どもたちも大変興味を持って行った。ひとつ動かすことによって相当形が変化する場合もあるが、変化前の見本と変化後の見本をよく観察し、変わったところと変わらないところを素早く探し、どのように動かせば良いかを考えさせることが大事である。そのあたりの理解がスピード差になって表れているように見える。

(8)交換の問題は先週のコラムでも報告したとおり、2段階・3段階の変換が必要になる場合、交換したものが何に変わったかをしっかり把握しておかないといけない。1種類のものが2種類のものに変えられる条件の付いた問題をこの夏に必ず解決しておくことが大事である。この問題は、まだ全体の2割ぐらいしか理解できていない。

(9)ペーパー対策として今後必要なのは、1回の指示の聞き取りを正確に行い、何を答えたら良いのかを正確に把握し、作業方針をしっかり持ちながら、時間内に解くスピード性や丁寧な答え方などが必要となる。このようにやるべきことはたくさんある。答えは分かってもこの段階でつまずくケースが多い。こうしたことは9月から始まる授業の中で総仕上げとして徹底して行うことになるが、ご家庭でもこうした点も練習の課題にしてほしい。

(10)夏季講習会で毎日行った「暗算トレーニング」は、数当てゲームも含め相当力がついたはずだ。数の構成から始まって、数の増減、数の複合問題まで暗算できるようになった。9月までにはさらに難しい数の操作も暗算できるようになると思うので、毎日10分間の暗算トレーニングを欠かさず行ってほしい。私たちが暗算にこだわるのは、解き方の一つとしての暗算なのではなく、「数の内面化」という幼児期の最大の課題に取り組んでいるからである。思考力を鍛える一つの方法として、変化をイメージする力の育成につながっているものであり、将来の学力の基礎を、そうした経験を通して確立しようと考えているからである。指か具体物か暗算かという解き方の方法論ではなく、子どもの数的発達を促す大事な課題(数の内面化)であるということをしっかり認識し、ぜひ家庭学習でも実行してほしい。

以上、夏季講習会を担当して感じた子どもの学力の現状をいくつかの項目でお伝えしました。ぜひ、家庭学習の参考にしてください。

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