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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

応用段階を迎えた子どもの学力の現状(4) 暗算能力の重要性

第249号 2010/6/25(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 応用段階に入り、数の操作に関する学習もほとんど終了しました。特に第21週で学んだ「一対多対応」の学習はかけ算の考え方の基礎になりますが、裏返せばわり算の包含除の考え方になりますので、この学習を終えることによって四則演算全てを学習したことになります。そして、この「一対多対応」を学習することによって、

  1. たし算・ひき算・わり算・かけ算のすべてが絡む複合問題が可能になる
  2. 交換やシーソーにおけるつりあいのような、他領域の応用問題に適応できる

という具合に、学習範囲が一挙に拡大します。その意味で、それぞれの学校で出された過去問に挑戦できるだけの学力が身に付いたことになります。ところで、最近の数領域における問題を分析すると、2つの新しい傾向があることがわかります。

  1. 具体的な場面を見ながら問題を解いていく場合、3~4つある質問がみな違う趣旨の問題であるとともに、答えを導き出すために線引や囲み等の作業をしなくてはならないこと
  2. 話の内容理解の形をとって、数の操作に関する問題が出されることが多くなり、その問題を時間内に解いていく相当高い暗算能力が求められていること

以上のように数の問題が多様化してきました。また、問題がいわゆる文章題のような形式になり、お話を聞いて解いていく形が一般的になりました。小学校風にいえば、計算問題のような単純な問題ではなくなってきています。場面が描かれているかどうかにかかわらず、話をしっかり聞いて数の変化をとらえないとできない問題が増えています。特に場面のある問題の場合でも、1問解いた後、話によって最初に描いてある場面の数を変えてしまい、そのうえで新たな質問をしていくという手法を取り始めています。(たとえば、絵には男の子3人、女の子5人が描いてあるとします。『少したつと男の子が2人やってきましたが、女の子が1人帰りました』というように、実際の絵はもとのままでありながら、場面の数を変えてしまい、そのうえで新たな質問をするということ)こうした手法で問題を難しくしています。

このように、話の内容理解の形をとりながら、実際の中味は「数」の問題であったりする場合が少なくありません。従来のように、話のある一場面が絵になっているのではなく、答えを書く解答欄だけが記されているだけです。お話を聞いて数の変化をとらえ、その答えを解答欄に記すわけです。こうした問題を解くには、お話の展開によって変わる数の変化を頭で捉え、暗算によって答えを導き出さなくてはなりません。こうした最近の問題に対処するために、こぐま会ではばらクラスになると、数の学習場面では必ず「暗算」のトレーニングを行います。10の構成に代表される「数の構成」から始まって、「一対一対応」「数の増減」「数の等分」「一対多対応」「数のやりとり」など、新しい課題を具体物やおはじきを使って練習したあと、今度はおはじきを取り除き、同じ質問を具体物なしで考える「数の内面化」を繰り返すのです。こうして、具体物操作を経験させながら、その上で頭の中で数の変化をイメージし、暗算能力を高めていくのです。これは2~3回の学習で身につくほど単純ではあません。11月から始めて、ことあるたびに練習し、月齢の低い子どもたちも含めて、全員の暗算能力が完成するには8月いっぱいまでかかります。最近、ひまわり会の授業を通して、書店会員テスト会員など外部生と一緒に勉強する機会が増えましたが、こぐま会の会員と外部生の決定的な違いは、この「暗算能力」だと思います。指を使って答えを出すような方法では、制限時間内に答えを記すことはできません。話を聞くだけで答えを出すような最近の問題に対処するには、どうしても12までの数について、暗算で答えを出せるようにしなくてはなりません。このことは、入試対策だけでなく、入学後から始まる教科学習の土台となって「算数」好きな子どもを育成する結果につながります。どうか、「皆さんは、小学生ではないんだから、手の指・足の指も使って答えを出せばいいんだよ」とならないようにしてください。入試のための安易な方法は、暗算能力が身に付かないだけでなく、実際の試験問題にも適用できないことは誰が見ても明らかなことです。付け焼刃的なまともな指導でないものは、現在の工夫された試験問題には通用しない・・・・これはどんな課題に対しても言えることです。

ところで先日、ひまわり会のある講座で次のような問題をやってみました。

次のお話を聞いて後の問題に答えてください。

 日曜日に、クマさん、ウサギさん、キリンさんが魚釣りに行きました。3人そろって防波堤に腰をおろして、魚釣りをしました。クマさんは魚釣りが得意なので、お昼までに6匹も釣りました。ウサギさんはあまり魚釣りをしたことがなかったので、2匹しか釣れません。キリンさんは1匹もつれないので、お友だちのパンダさんの船に乗り、違う場所に行って釣りました。
お昼になると、クマさんは「僕は、用事があるから先に帰るね」と言って帰ってしまいました。帰る時にクマさんは自分が釣った魚から2匹をウサギさんにあげました。ウサギさんはクマさんが帰った後も1人で防波堤に座って釣り続けましたが、全然釣れません。そのうちパンダさんの船で釣りに行っていたキリンさんが戻ってきました。キリンさんは8匹も魚を釣っていました。2人は釣りをやめて帰ることにしました。キリンさんは自分の釣った魚と、ウサギさんのバケツに入っている魚の数を調べて、2人が同じ数になるように分けました。ウサギさんは自分ではあまり釣れなかったけど、クマさんやキリンさんが分けてくれたので、たくさんの魚を持って帰ることができました。
問1:動物たちがそれぞれ自分で釣った魚の数だけ、上のお部屋に青いをかいてください。
問2:動物たちはそれぞれ、何匹ずつの魚を持って帰りましたか。その数だけ下のお部屋に青いをかいてください。
- 解答 -
問1:クマ-青い6個 ウサギ-青い2個 キリン-青い8個
問2:クマ-青い4個 ウサギ-青い6個 キリン-青い6個

この問題は、最近の傾向を踏まえ、話の内容理解における数の変化をとらえられるかどうかをチェックするために私が作った問題です。この問題には2つの意図があります。

  1. 従来の話の内容理解の中で求められていた「数の記憶」がしっかりできているかどうか
  2. その記憶した数をもとに、話の展開によって数の操作ができるかどうか

難しいのは後者ですが、この難しさのポイントは、この話の場合「キリンが戻って来たとき、ウサギのバケツにはクマからもらった2匹が入っていて、4匹になっている」という点の理解です。この問題の正解率は、今の段階では受験生全体の3分の1以下ですが、こうした問題が解けるようになるために、お話による「数の変化に対する敏感さ」を育てなくてはなりません。時間がありましたら、どうか点検用に使ってみてください。

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