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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏の学習課題(1) 答えを導き出すプロセスを学ぶ

第250号 2010/7/2(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 秋の入試にとって最大の山場である夏休みの学習課題について、何をどう解決したら良いのかを、これまでの経験を踏まえて具体的にお伝えしましょう。

教室での授業を通して子どもたちの理解の現状を見ていくと、この時期になっても正確に答えられない、いくつかの問題点が見えてきます。一番多いのは「聞き取りミス」による間違いです。言葉の理解を含めて、「何を問われているのかわからない」「どのように答えたらよいのかがわからない」といった初歩的な課題です。特に初めて接する問題について良く見られる現象です。また、指示される色や形を間違えたりする単純なミスも良く見られます。こうした「聞き取りに関するトレーニング」も軽視できません。そのためにも、「指示は1回しか聞けない」ということを日ごろから徹底することです。わからなければ何回も言ってもらえるということがないよう、家庭学習でも徹底すべきです。

こうした「聞き取り」に関する問題以外にこの時期一番深刻なのは、どのような手続き、あるいは作業をしたら答えに到達できるのかの見通しを持てる子とそうでない子の差が、ますます広がりつつあると言う現実です。最近の入試では、問題を聞いて答えがすぐに出るのではなく、ある程度の作業をしなくては答えが導き出せない問題が増えています。つまり、学校側が期待しているのは「答えを導き出すプロセス」をしっかり理解しているかどうかです。それは、子どもの立場に立てば、どんな作業をしたら答えに到達できるのか・・・その解法の糸口をつかむということになります。雙葉小学校でよく出題される「飛び石移動」の場合、答えを導き出すためには、約束に基づいて移動する作業を行わなければ答えは出てきません。また「しりとり」でも、はじめも終わりもわからず枝分かれしていくような問題は、まず何よりも自分で線結びしてしりとりをしてみなければ答えは出てきません。こうした問題に接したとき、何も作業せず、じっとペーパーを見つめて考え、答えを出そうとしている子がいます。つまり、答えを導き出す手続きがわからず、ペーパーを見つめたまま考え込んでいるのでしょう。ある作業(手続き)をすれば答えが導き出せるという見通しを持てないと、こうした問題はお手上げです。大人から答えの出し方を教え込まれた子の多くは、自分で試行錯誤しながら答えを導き出す経験がないため、初めて接する問題になると答えの導き方がわからないのです。

飛び石の問題であれば、まずルールに沿ってコマを動かしてみる、しりとりの問題であれば、どこからでもいいからまず線結びしてみる、そして先に進めなくなったら「頭とり」で戻ってみる。迷路を使った数の構成であれば、まず見当をつけて1回歩いてみる。そして、数が足りなかったらあるところまで戻って、違う道を探してみる・・・作業しなくては答えが導き出せない問題でありながら、じっと見つめて考えようとしている子がいる多くの場面を見ていると、物事に働きかけ、試行錯誤しながら答えを出す経験がある子とない子の差はとても大きいし、だからこそ、試行錯誤や失敗を経験しないで頭ごなしにテクニックだけを教え込む方法では、実際の試験では何の役にも立たないことが予想できます。

先日こんな問題をやってみました。
駐車場に車が7台止まっていました。少したつと4台出て行きましたが、また2台入ってきました。今駐車場に止まっている車のタイヤの数はいくつでしょうか。その数だけタイヤの部屋に青い丸をかきなさい。

この問題は、数の増減と一対多対応の複合問題です。まず、自動車の出入りについて暗算で答えを出します。ここまでは、今の段階ではすぐに5台という答えは出てきます。そのあと5台分のタイヤの数を記すときです。ある子は、じっと空を見つめ、暗算で答えを導き出そうと考えています。またある子は、即座にペーパーに1台分・丸4つ、2台分・丸4つ・・・と5台分まで丸を描き続けます。またある子は、膝の上に両手を広げ、指で5台分のタイヤの数を出そうとしています。両手の指の数では足りないため、苦労している様子です。ひとつの問題を解くのにもいろいろな子どもの取り組みが見られます。それは、それまでの学習によって身につけた解き方によるものです。暗算で答えが出ればそれに越したことはありませんが、12を超える数の暗算は難しいし、間違いも生じやすくなります。指で答えを出そうと思っても、指は10本しかありませんから苦労します。この場合は、1台分のタイヤの数を4個書き、それを5回繰り返し、その結果20が出てくればそれで良いのです。この問題に象徴される「一対多対応」はかけ算の世界ですが、かけ算九九をさせるわけでありませんから、答えになる数を導き出してから、を描く必要はないのです。この場合20という答えは、作業の結果導き出せれば良いのです。それを暗算でやろうとすると、一対多対応の問題は小学校2年生の問題になってしまいます。数が小さい場合は暗算でもできますが、すべての問題を暗算しなくても良いのです。それよりも、答えを導きだすプロセスを考えさせ、その方法を身につけさせることが重要です。

受験対策において、多くの場合ペーパートレーニングが主流になるため、解き方を教え込む傾向にあります。しかし、答えの根拠を求められたり、同じ趣旨の違った問題が出されたとき、教え込まれた方法ではほとんどお手上げ状態です。「シーソーを使った関係推理の理解」にしても、「数のやりとり」にしても、「量の保存」の問題にしても、答え方を教え込めばその限りで正解できるでしょう。しかし最近の入試問題は、学校側も相当工夫して問題を作るため、子どもにとって初めて出会う問題がほとんどです。そのとき、自分で考え、解き方を工夫でき、見通しを持って問題を解決できる子は、普段の学習においても自ら考え、発見する経験を積んできた子どもたちだけです。解き方を教え込まれてきた子は、ここで差がつけられてしまうのです。

新傾向の問題に対処するためには、答えの出し方を学ぶことが大事であり、そのプロセスを経ないで答えの出し方をテクニックで教え込んでも、何の力にもなりません。「はじめ」といわれた瞬間に、どんな手続きをとれば答えが導き出せるのか・・・その作業の見通しを持てるようにするためには、やはり時間をかけ、自分で考えさせ、解き方を工夫させ、そして答えが導き出せたらどのように考えたのかを説明させること・・・そうした学習経験が大事です。ぜひ「答えを導き出すプロセスを大事にする学習」を、時間的なゆとりのある「夏休み」にこそ実行してください。

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