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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試問題が難問化する背景

第160号 2008/08/01(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年ある学校で、次のような問題が出されました。

ペーパー上に、取り換えることのできる交換の約束が描いてある
メロンパン1個=ドーナツ2個
食パン1個(斤)=メロンパン2個
ハンバーガー1個=メロンパン1個とドーナツ1個

質問
 1. メロンパン4個は食パンいくつと取り換えられますか
 2. 食パン2個(斤)はドーナツ何個と取り換えられますか
 3. ハンバーガー4個は食パンいくつと取り換えてもらえますか

この学校は、昔から「一対多対応」の応用問題を出す学校で、前年度も同じような「交換」の問題を出しています。同じような趣旨の問題には、シーソーを使った「つりあい」もあります。こうした問題は入試問題の中では難問とされ、ご家庭でも相当力を入れて学習する内容です。「交換やつりあいができないので、どのように学習したらよいのか」といった相談も毎年たくさん受けています。どこが難しいのか、少し分析してみましょう。

「交換」や「つりあい」の問題は、かけ算の考え方の基礎である「一対多対応」の考え方を応用します。例えば、今回の問題の場合、基本は

A) メロンパン2個は、ドーナツいくつと換えてもらえますか
B) ドーナツ8個は、メロンパンいくつと換えてもらえますか

といった問題になります。メロンパンからドーナツを考える場合は、かけ算の考え方を使い、ドーナツからメロンパンを考える場合は、包含除の考え方を使います。どちらからたずねられても答えられなくてはならないのですが、逆から問われると、答えられなくなってしまうことがよくあります。幼児の場合ひとつの見方にこだわると、他の視点つまりこの場合は逆から見る見方ができなくなってしまうのです。ですから、まずこの練習が必要です。

交換やつりあいの場合、この「一対多対応」や、「包含除」の考え方で解ける問題が多いのですが、今回の問題のように、それだけでは解けない問題もあるので難しいのです。質問1のように、メロンパンと食パンの関係は、包含除の考え方で解けますが、質問2のように食パンとドーナツの関係を考えるには、メロンパンを仲立ちにしなくては答えが出ません。ですからこの場合は、まず食パン2個をメロンパン4個に置き換え、そのメロンパンをドーナツに交換しなくてはならないのです。つまり、食パンとドーナツの関係を考えるのに、メロンパンを仲立ちとして考えるということです。しかし、今回はそれ以上に難しい問題が出されたのです。それは、その次のハンバーガー4個を食パンと換える問題です。どのように解くのか考えてみましょう。

まず、ハンバーガー4個を、メロンパン4個とドーナツ4個に変えます。ここでドーナツが残りますから、そのドーナツ4個をメロンパン2個に変えます。そうすると、合計で、ハンバーガー4個はメロンパン6個になります。そのメロンパン6個を食パン3個(斤)と換えてもらえるということになります。2回置き換えをしたり、逆から考えたりと、難しい要素がたくさん入り込んだ問題ですが、ここで一番大事な考え方は、「置き換え」という発想です。あるものとあるものの関係を考える場合、一度何かに置き換えて関係を考える思考法です。この置き換えの発想が難しく、それが交換やつりあいが難問化する理由です。しかも、今回この問題で驚いたのは、これまでの交換の条件は、1種類のもの同士の交換でしたが、今回は「ハンバーガー1個はメロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえる」というように、1つのものが2種類のものと交換できる条件が入り込んでいる点です。その点が、これまでの交換の問題をさらに難しくしている理由です。

逆からたずねたり、あるものを仲立ちとして関係を考えたりというように、そこまで小学校入試の問題は洗練されてきました。ひとことで言えば「論理」が求められているのです。こうした問題に対して、機械的なペーパートレーニングでは対応できないことはよくおわかりいただけると思います。なぜなら同じ趣旨の問題は出されても、一度出された問題が繰り返し出されることはないからです。昔の知能検査的な反復トレーニングで解ける問題はほとんどなくなり、今は、ここでご紹介したような「考える力」を求める問題が増えているということです。論理を育てなければ、こうした問題には対応できなくなっているのが、入試の現状なのです。

ところで、従来から小学校側が入試問題を難問化する方法はいくつかあります。それは、

1. 時間制限を短くする
2. 余分な要素を入れる
3. 視点を変えて質問する
4. お話によって場面を変えてしまう
5. 問題を複合化する
6. 話の内容理解の中に、問題を入れ込んでしまう
7. 論理性が求められる問題をつくる

過去30年以上にわたり、入試問題を分析してきた経験から、上記のような方法で問題が難問化してきたことがわかります。しかし、これからは「論理性が求められる問題をいかに作るか」に学校の関心が集中していくはずです。そしてもうひとつ言えば、その独自な問題を作成する能力のある学校と、独自な問題を作成できない学校があり、後者の学校は、すでにどこかの学校で出された問題を参考に、視点を変えて作成しています。だからこそ、ある学校で出された新しいタイプの問題が他の学校に波及していくのです。この視点に立てば、難しい問題を出す学校の過去問をやることが、どれだけ意味があることかお分かりいただけると思います。私が以前雙葉小学校の問題を5年間分析し、「何が合否を分けたのか」と題した新書を出版したのは、そうした理由によるものです。ある学校の問題が、その学校の問題傾向としてだけでなく、入試全体の問題傾向に影響すると考えているからです。そして、実際私が予想した通り、小学校入試の問題は、確実に「考える力」を求める傾向に拍車がかかっています。

こうした現状を踏まえ、今年から「夏季難問講座」を開設し、難しい問題を解いていくのに必要な思考法のトレーニングをしています。既に2クラスの授業を終え、来週からまた2クラスの授業が始まります。そこで見られた子どもの学力の現状については、日を改めてまた報告させていただきますが、実際の指導の現場に立って思うことは、指導の仕方を間違わなければ、幼児にも相当の論理的思考力を育てることができるということです。順序を踏まえた指導の大切さや事物を用いた教育の必要性を、難しい問題であればあるほど実感しています。

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