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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

子どもの考える力はどこまで伸ばせるのか (1)

第161号 2008/08/07(Thu)
こぐま会代表  久野 泰可

子どもたちの「考える力」を育てようと、20年以上にわたりいろいろな試みをしてきました。実際、入試問題の中にも、筋道立てて考える問題が増えてきています。問題を出す学校側は、いったい何に基づいて問題を作っているのでしょうか。いろいろな側面から分析をし、予想される問題を考えてきていますが、最近の問題を見ると、どうも、小学校高学年で学習する算数の文章題などで求められる思考法が出題の根拠になっているのではないかと考えられる問題が増えています。植木算・旅人算・消去算・・・といったような課題の中で求められている思考法が、形を変え、遊びやクイズ形式で出題されているのです。

小学校における算数でも、3年生までに四則演算の方法を獲得し、4年生以降に「○○算」といった文章題で、思考力を試す問題が急に増えてきます。ですから、算数イコール計算力だと考え、「計算トレーニング」だけは得意であった子の多くが、4年生以降の文章題でつまづき「こんなはずではなかった」と、壁にぶつかるのです。そもそも算数の学力を計算力だと考えているところが間違いなのですが、小学校3年生までは、算数イコール計算力でほぼ解決してしまうから厄介なのです。しかし、計算ができることを前提にした「文章題」においては、数学的な論理を身につけていなければ立式すらできないのです。

入試問題を作成する学校の先生方は、出題の根拠を必ず持っています。20年以上も前は、それが「知能テスト」でした。ですから、繰り返しのトレーニングで対応できたのです。いまや、そんな問題はほとんど出ません。そのかわり、考える力を求める問題がたくさん出されています。その出題の根拠を明らかにすれば、入試対策は万全になるはずですし、予想問題も的中します。そのひとつが、小学校4年生以降の文章題ではないかと考え、今年の夏季講習会で新しい試みをしてみました。「夏季難問講座」と小グループ指導の「論理育成難問講座(ひまわり会)」です。

昨日、ひまわり会で次のような問題を出してみました。

黒板に次の関係を絵カードで示し、質問する
(1)動物村では、大根1本ときゅうり1本を、どんぐり5個と換えてもらえます。また、大根1本ときゅうり3本は、どんぐり9個と換えてもらえます。では、きゅうり1本はどんぐり何個と換えてもらえますか。

(2)動物村では、リンゴ2個とミカン2個をどんぐり10個と換えてもらえます。また、リンゴ1個とミカン1個とイチゴ2個は、どんぐり7個と換えてもらえます。では、いちご1個はどんぐり何個と換えてもらえますか。

消去算的発想に基づいた問題ですが、ほとんどできないだろうと考えて問題を出したところ、予想に反して (1)は4人中3人が、また(2)は4人中2人が答えられました。どのように考えたのか聞いてみました。すると、(1)では、大根の方が高いはずだから、大根は3個、キュウリは2個と見当をつけて答えていた子も1人いました。このへんが子どもらしいところなのですが、後の2人は、置き換えの方法を用いて考え、答えていました。つまり、大根1本ときゅうり3本のうち、大根1本ときゅうり1本は5個だとわかっているので、きゅうり2本分がどんぐり4個分になり、1本はその半分だから2個と考えたのです。消去算の解き方の一つである「代入法」的発想を幼児もちゃんと用い、考えているのです。また、(2)の問題はさすがに難しかったのか、間違えた子が多かったのですが、ひとりの子は、次のように答えていました。

「リンゴ2個とミカン2個を、1個ずつにするとリンゴ1個とミカン1個の組になるでしょ。それは、半分だから5個でいいの。下を見ると、リンゴ1個ミカン1個の組を作るとそこで5個いるの。7個のうちの残りの2個は、いちご2個分だから、1個はその半分だから、いちごはどんぐり1個でいいの・・・」

幼児でもこのように考え、答えを導き出しているのです。この説明を聞いて私もびっくりしました。ここまで、幼児でも理解しているという事実は、これからの学習課題を考えていく上で大変参考になります。数の範囲が10以内の小さな数ですから、見当をつけて答えてしまうという側面もありますが、それも含めて、子どもの考える力は、順序を踏まえて指導してあげれば、相当難しい課題にも挑戦できるし、小学校高学年で求められる発想法の基本は、幼児でも教育可能であると確信できるのです。今回は、私がとっさに思いついて出した問題ですし、これまでの入試では私の知る限り、この種の問題はまだ出されていませんが、必ずどこかの学校で出されると思います。

入試問題の対策として1年間必死で勉強する内容が、こうした将来につながる大事なものの見方・考え方の練習の場になるのなら、幼児期に学習する意味は大変大きいと思います。しかし多くの場合、入試対策としてなされる学習が、系統だったカリキュラムでの指導ではなく、何の脈絡もなく、ばらばらな過去問トレーニングであるため、基本となる「考える力」が定着しない学習を強いられることが多いのです。こうした無駄をなくすためには、子どもの認知の発達について専門性を身につけた指導者が、もっと大勢幼児教育の現場に立つことが必要だと思います。

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