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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教科前基礎教育と対話教育

第155号 2008/06/27(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 私たちが「教科前基礎教育」として考えている内容を教室で指導する場合、「事物教育」が基本であると言うことは前回述べました。事物に働きかけることを通して試行錯誤を繰り返し、その結果、ものごとの原理や関係をつかんでいくという、大事な教育法です。そして、幼児期の基礎教育にはもう一つ大事な観点があります。それは、考え方の根拠を「言語化」すると言うことです。設問に対し、正しく答えられても、本当に理解できているのかどうか、どんなレベルで理解できているのかどうかを一度疑ってみる必要があると言うことです。なぜでしょう。子どもたちは、私たち大人が解くような方法で問題を解決していない場合が多いからです。しかも、「言語化」という視点から子どもの発言をみていくと、子どもの認識に相当大きな差があることがわかります。

例えば、色板カードを使って仲間集めをさせると、色で分けたり、形で分けたり、角の有無で分けたりします。その中で、同じ色同士で仲間集めした子に、「どのように分けたの?」とたずねると、ある子は「これは黄色でしょ、これは赤でしょ・・・」とひとグループごとに指差して、その仲間の色を答えます。またある子は、「色で分けたの」と説明します。同じ仲間集めの作業を説明するのに、一つずつ色を説明する子と、分類の観点を「色」という上位概念で説明できる子にはどんな認識の違いがあるのでしょうか。また、2枚の絵の違いを指摘する問題の場合、違うところを指差して「こことここが違う」という子もいれば、「左の子は右手を結んでいるのに、右の子は、右手を開いたままにしているから違う」と、違いをしっかり説明できる子もいます。

自分の考えていることを言葉で他人に説明することは難しいことです。特に今の子どもたちは、この点が一番苦手であるということはよく言われることです。また、説明できても、言語化の内容・方法は全く違うということも、授業の現場でいろいろ見てきました。こうした現状を踏まえ、私たちは、事物教育を実践する中で、常に、考え方の根拠を言葉で表現させることを重んじ、実行しています。本当に理解していなければ、言語化も十分できません。考え方が十分備わってこそ、説明できるわけですから、どんな課題においても、「なぜ、そうなるの?」と常に質問し、答えの根拠を言葉で説明させるようにしています。言葉にならない、身振り手振りも言語化への過程の重要な一段階として評価しています。私たちが「対話教育」を重視しているのは、黒板と教科書があれば教育可能な小学生以降の教育と違って、幼児の場合は事物に働きかけ、言語を介することによってより発展性のある認識として定着させるために、重要だと考えているからです。

家庭で、ペーパーを使って学習する場合でも、答えがあっているからといって○をつけ、次のページに進むのではなく、必ず答えの根拠を説明させることが大切です。正解している子どもでも、答えの根拠を求めると、意外と理解していない子どもが多いことが分かります。教えられたとおりに解いているだけで、本当に理解しているわけではないのです。ですから同じ趣旨の問題でも、はじめての問題には手がつけられないのです。こうしたことにならないように、1枚1枚のペーパーを大事にし、いろいろな角度から質問し、答えの根拠を説明できるようになるまで、繰り返し練習することが大切です。幼児期の基礎教育において「対話教育」が大事なのは、言語を媒介とすることの意味が、発達的観点から見て重要だからです。

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