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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教科前基礎教育と事物教育

第154号 2008/06/20(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会では、教科前基礎教育の内容を実際に指導する場合、「事物教育」を基本としてきました。しかし、だからといって、ペーパー教材を全く使わないというわけではありません。ペーパー教材については、既に5千枚以上のオリジナル原版を持っています。それでありながら、なぜ事物教育なのか。それは、事物教育が幼児期の教育方法として一番適しているからです。その理由は次の通りです。

(1) 子どもの興味関心をひきつけやすい
(2) 生活や遊びを想起しやすい
(3) 言葉で通じないことが、事物を使うことで伝えやすい
(4) 試行錯誤する時間を保証できる
(5) 同じ事物でも、発達に見合った使い方ができる

こうした理由が挙げられますが、最大の理由は、試行錯誤することを保証することによって、「物事に働きかける」チャンスが増え、それが幼児期の教育方法としては一番好ましいからです。知識を教え込まれても、時間が経てば忘れてしまいます。しかし、実際にものに働きかけ、試行錯誤して得た知識や思考法は、忘れることなくしっかり身についていきます。ペーパー教材は、そうした基礎ができ上がった段階で使うことに大きな意味があるのです。ペーパーを使うことによって、本当に分かっているのかが点検でき、いろいろな問題に挑戦することによって応用力が身につきます。ですから私たちの教室授業も、集団での「ごっこ遊び」、具体物を使った実験、カード教材や意図的に作られた教具による個別作業、そのうえで最後にペーパー教材を使った学習・・・というように、幼児が物事を理解する道筋にみあった方法で指導しています。逆に言えば、ペーパー教材を使った学習でどうしても分からないことがあった場合、戻って考えることのできる基礎体験を必ず持たせるということです。考え方の原点を持つことによって、進んでは戻り、戻っては進む「螺旋型教育指導」が可能となるのです。

事物を使った学習はやさしくて、ペーパー問題の方が難しいと感じている方も多いと思いますが、そんなことはありません。事物を使った試験問題を課す「青山学院」「学習院」「成城学園」などの問題を見てください。ペーパーよりも難しい課題がたくさん出されています。答えの根拠まで求められる問題が多いのも、難しさの理由のひとつですが、事物を使って質問できるからこそ、本質的であり、難しいのです。教科前基礎教育の内容をしっかり身につけるためには、事物教育しか方法はありません。それは、知識を教え込む教育ではなく、認識を育てる教育だからです。

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