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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教科前基礎教育と小学校受験

第153号 2008/06/13(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会は、遠山啓氏が提唱した教科前基礎教育の考え方をふまえ、20年以上かけて、具体的な教育内容を作り上げてきました。ですから、必ずしもすべての課題が「受験準備のため」の内容ではありません。小学校受験で課せられるテスト内容も、時代とともに変わってきました。35年ほど前は知能テストの問題でした。その後、小学校受験が大衆化してくると、知能テストでは差がつかないために、大量のペーパーを使いました。その結果、不適応を起こす子が大量に生み出され、学校側も反省したのか、今度は個別テスト中心の試験に切り替わりました。そして今は、学力だけが問題ではなく、総合された実力が求められ、ペーパーテストだけでなく行動観察や面接試験が重視されています。学力を問う試験問題も、最初は知能テスト的なパターン化された問題、次は、小学校で学ぶ内容を易しくした問題、そして今は、論理的思考力が求められる問題へと変わってきています。

 36年前に幼児教室の教師として現場指導に就いた頃は、夏休みに少しだけ知能テスト対策の練習をすればそれで合格できた時代でした。ですからその当時は、教科前基礎教育の内容と入試のための準備教育は別立てで行わなくてはなりませんでした。その次の大量にペーパーを使った時代も、私たちの考えている基礎教育とは別に、受験のためのペーパートレーニングをしなくてはならない時期が続きました。そして、個別テストが重んじられ、それに行動観察が加わり、ペーパーテストも最小限の枚数に抑えられるようになった今の時代は、まさしく私たちが主張してきた、「教科前基礎教育」の内容がそのまま入試問題になってきたのです。その結果パターン化された問題ではなく、じっくり考えさせる問題が増えてきました。しかし、小学校で学ぶ内容がそのまま出されるわけではありません。私たちが考えるように、教科学習を支える思考力がしっかり身についているかどうかを見ようとしているのです。「教科前基礎教育」の内容をしっかり学習すれば、それがそのまま受験対策にもなる時代になったということです。

 ひとつだけ実例をお話ししましょう。私たちは言語の領域で、文字指導の前段階としての「一音一文字」の学習を、25年以上前から行ってきています。その当時は、入試には一切出されることがありませんでした。しかし、私たちは、言語教育の基礎として最初から重視し、力を入れてきました。それがどうでしょう。今では、言語領域の出題のなかでは出題頻度の高い問題になってきています。10年ほど前から急に出題され始め、今では、行動観察の運動課題にまでその考え方が応用されて、出題されています。このように、私たちが教科前基礎教育として重視してきた内容が、実際の入試でもとりあげられているのです。つまり、小学校入試が私たちの考えている方向に向かい始めているということです。また、「ひとりでとっくん」100冊の中で提案した具体的な学習問題が、多くの学校で入試問題として取り上げられてきています。私たちの考えてきた教科前基礎教育の中身が、入試問題の中心になりつつあるということです。

 そうした中で、私たちが実践している「教科前基礎教育」「事物教育」「対話教育」は、やさしすぎて受験対策にはならないのではないかと批判している塾の関係者もいるようですが、とんでもないことです。今実際に試験で出されている入試問題の分析すらできず、ペーパーを使った指導しかできない者が「事物教育」をやり玉に挙げ、「やさしすぎて受験に対応できない」と言っているに過ぎません。ペーパーだけのトレーニングで受験対策ができるのなら、幼児教室には専門家は要りません。実際何の専門的な素養もなく、入試を経験しただけの理由で教室を開いてしまえる今の現状は、危機的状況といって良いでしょう。そうした、素人の指導者が、情報が閉ざされたこの業界で、母親を煽動し、子どもの発達を無視した受験指導を行っているのです。こうした動きにはぜひ注意してください。

 実力主義ではあるけれど、学力主義ではない今の小学校受験で合格を勝ち取るためには、まず何よりも家庭教育を充実させることです。家庭ですべきことを放棄して、高いお金を払って「教育を外注化」しても、良い結果は得られません。日常生活で身についた振る舞いは、どんなにメッキをしようとも、学校の先生方には見抜かれてしまいます。当たり前の家庭教育と、充実したまともな基礎教育を実践することが、今一番求められていることです。

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