TOP LEADER Interview
― 実践活動50年。KUNOメソッド40年。―
幼児期に考える力の土台を構築
こぐま会は、首都圏の小学校受験のための名門幼児教室として知られているが、実は受験のためではなく、「幼児期の正しい基礎教育を」という一途な想いで、創業から幼児教育に向き合ってきた。そうして生まれたKUNOメソッドに、今、国内外から熱い視線が注がれている。その生みの親、久野泰可代表にインタビュー。日本の幼児教育の問題点や、今の時代に必要な幼児教育についてうかがった。〝遊び保育〟中心の幼児教育に、もっと〝知的保育〟の意識を。
─ こぐま会はどのような経緯で創設されたのですか。
創業は1983年で、昨年40周年を迎えました。渋谷にあった日本幼児教育センターの子会社として幼児教育実践研究所を設立し、こぐま会の前身となる教室を現在の本社に程近い恵比寿に開いたのがはじまりです。それから3年後にそこから独立し、こぐま会という名前で新たにスタートしました。─ 日本幼児教育センターとは、どのような組織なのですか。
発起人は、私の大学時代のゼミの先生で、感覚教育論という本を出版した故・伊藤忠彦教授です。私は1972年に横浜国立大学教育学科を卒業したのですが、当時は学生運動が盛んで、私も参加していたものですから、教員を目指そうにも学生運動に参加するような生徒は採用されにくかったのですね。それでどうしようか悩んでいたときに、伊藤教授から「感覚教育論を実践する教育機関をつくるから一緒に手伝ってくれないか」と誘われ、立ち上げたのが日本幼児教育センターなのです。
経営者は別の方だったのですが、立ち上げから11年が経ったころ、新たに教室を作るということで、恵比寿に分校ができ、その責任者に私が着任しました。40年前の恵比寿はビルなどほとんどなくて、お店と住まいが一緒になった一軒家が連なっていたところでした。
─ 伊藤忠彦教授と一緒に立ち上げた組織なのですね。当時の幼児教育は、どのような状況でしたか。
ちょうど、ソニー創業者の井深大氏が『幼稚園では遅すぎる 人生は三歳までにつくられる!』という本を出版されて、幼児教育ブームが起こった時でした。さらに代官山に幼児開発協会という組織が設立され、スイミングやバイオリン、漢字教育など、いわゆる習い事も盛んに行っていたのですね。そんな時代の後押しもあって、ありがたいことに生徒が集まってくれました。─ 当時の取り組みとして、どんなことをされたのですか。伊藤忠彦先生の感覚教育論なのでしょうか。
そうです。ただし、本に書かれたことを実践するのは難しいものでした。実践したことが本に書かれているのならいいのですが、頭で考えたことですから、実際に何をすればいいのか悪戦苦闘の毎日でした。それで、最初のころは読み・書き・計算に象徴されるような基礎学力を中心に、さまざまな先達の過去の実践記録を学びながら、見よう見まねでやっていました。そのうち、8月に入ったころに、保護者から「小学校受験対策をやってくれませんか」というお話をいただくようになりました。実は、私は静岡出身ということもあり、それまで東京に幼稚園受験や小学校受験があることなど知らなくて、それをきっかけに受験に関わり始めたのですね。試験日は今と同じ11月なのですが、当時の入試問題はすべて知能テストでパターン化されていましたので、8月からでも訓練すれば間に合いました。
─ それが、幼稚園・小学校受験の名門塾として知られるはじまりだったのですね。そもそも、久野代表が幼児教育を志したのはなぜですか。
その当時、〝落ちこぼれ〟が深刻な社会問題になっていました。小学校に入ってから、授業についていけない落ちこぼれ児童が数多く出ていたのです。本来、これは学校側がきちんと解決すべき問題です。しかし、最後は家庭の責任になってしまったのです。それは今でもあまり変わっていません。結局、幼児教育というのは〝遊び保育〟が中心で、学びは小学校に入ってからでいいという考え方があるからなのですね。6歳で就学して、みんなスタートラインは同じだから幼稚園で学ぶ必要はないのだと。
でも、考えてみれば、6年間も違った環境で育っている子供たちですから、得意不得意はバラバラですよね。スタートラインに立ったときに初めて、文字が読める子もいれば書ける子もいるなど、内在化していた子供間の学力差があらわになります。その差をなくすためには最低限、スタートラインを同じにしなくてはいけません。それには、幼児期にある程度の意図的な知育が必要だと思ったのが、私がこの世界に飛び込んだ理由です。
だから、最初は見よう見まねでやっていたけれど、やる以上は、理論的なバックボーンを持ってやろうと、国内外の文献を探し求めて理論構成をしていきました。
KUNOメソッドを支える基本理念は、「教科前基礎教育」「事物教育」「対話教育」。
─ KUNOメソッドをつくり上げるために、どのような取り組みをされたのですか。
まず取り組んだのは、一つはモンテッソーリ、それから、フレーベル、ピアジェ、ブルーナー、ヴィゴツキーといった先人が残した文献から学び、幼児期の教育の骨格をつくることでした。その中で一番影響を受けたのは、数学者の遠山啓(とうやまひらく)氏です。八王子にある養護学校で6年間、知的障害のある子供たちに難しいとされる算数を、いかに教えるかということに取り組んだ方で、〝水道方式〟を発案し、数という極めて抽象的なものをタイルを使って具体化しました。そのベースにあったのが、モンテッソーリの感覚教具と、ピアジェの認識論でした。
そして遠山氏は、算数科につながるこの概念を〝原数学〟と呼びました。遠山氏が書いた『歩きはじめの算数』という本の中で、一般の幼児教育にも役立つものではないかと述べています。
私もこの本を繰り返し読み、非常に感銘を受けました。ところが、遠山氏は算数のおもちゃ箱といった教具・教材を開発しこれから幼児教育にかかわっていこうとしていたと思いますが、実践半ばで他界されてしまいました。
それで、遠山氏の原数学とはどんなものだろうと考えながら、私自身が子供たちを指導する現場で実践し、修正を重ねて積み上げた理論がKUNOメソッドなのです。
─ KUNOメソッドの特徴とはどういうところですか。
こぐま会の教育理念である「教科前基礎教育」という考え方は、小学校の算数・国語・理科・社会の教科学習につながるものですが、それ自体を就学に先駆けてやるのではなく、その土台となる教科の前の基礎教育を幼児期のうちにしっかり身につけようというものです。そのために欠かせない6つの領域を定めています。将来の算数につながるのが「未測量・位置表象・数・図形」の4領域で、「数」の前提として「未測量」があり、「図形」の基礎として「位置表象」があります。そして、国語につながる「言語」、理科・社会につながる「生活」の合わせて6領域です。
また、これらの教科前基礎教育の指導方法として、「事物教育」「対話教育」を実践しています。「事物教育」とは、事物に触れ働きかける学習です。ピアジェが書いた本の中でも、知識を教え込んで理解させたグループと、事物を使って自分自身で試行錯誤して答えを見つけ出したグループとでは、定着度が違うと述べています。前者は時間が経てば忘れてしまいますが、後者はしっかり定着していく。やはり、事物を使って自分で獲得した経験というのは残り、それが応用問題に対応できる力となっていくのですね。
一方、「対話教育」というのは、子供との対話を大切にしながら「言語によって思考力を育てる」ということを重視して学習するということです。国語では聞く・話す・読む・書くという四つの力を養いますが、どうしても成果が目に見える読む・書くが中心になりがちです。でも、幼児期では読む・書くの前に、聞く・話すを大事にしなければなりません。
─対話教育として聞く・話すを大事にしているのはなぜですか。
教師からの一方的な教え込みにならないように、ということがまず一つ。それから、子供たちがどんなふうに考えたのか、答えにたどりつくプロセスを言語化させることを大事にしているからです。人間の思考力というのは言語を伴うものです。どんなふうに考えたのか、まだスラスラとは言えなくても、言葉をつなぎながら自分の考え方を言葉に置き換えていくことによって、思考力が高まっていくことがあるわけですね。
例えば、こんな例題があります。「メロンパン1個は、ドーナツ2個と換えてもらえます。食パン1斤は、メロンパン2個と換えてもらえます。ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえます。では、①メロンパン4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。②食パン2斤は、ドーナツいくつと換えてもらえますか。③ハンバーガー4個は、食パンいくつと換えてもらえますか。」
①はわり算の包含除という考え方で、メロンパン4個を2個ずつに分けて換えると2斤になります。②は、最初は「食パンとドーナツは換える約束をしていないからできない」という子もいるのですが、年長くらいになると「一度メロンパンに換えればいい」と気づく。それで、食パン2斤はメロンパン4個になって、ドーナツはメロンパン1個に対して2個だから合計8個になるとわかる。
しかし、最後の③の問題は、答えは3斤なのですが、2斤あるいは4斤と答える子が非常に多いのですね。「ハンバーガー4個だから、メロンパン4個とドーナツ4個に換えられる」と、そこまではいいのです。その後、メロンパン4個は食パン2斤に換えられるけど、ドーナツを換えられる相手はメロンパンだから、そこで止まってしまうのですね。
それで、例えば4個と間違えた子供に、どうしてその答えになったのか聞いてみると、プロセスを順に話していくうちに思考が働いて、「あ、違った」と自ら気づいて修正していくのです。実は、子供自身に発言させることによって、自分の間違いに気づく瞬間というのは、幼児期にはたくさんあります。
しかし、今の幼児教育の多くは「3斤なら○、それ以外の答えは×」あるいは「正解は3斤だから、こう解きなさい」と指導する。せっかく自分で考えて答えを出したのだから、「なぜ2斤なのか」「なぜ4斤なのか」、子供が思考したプロセスを対話することで、ほんとうの意味での考える力を育てることが大事なのです。
─ やはり頭の中で考えるだけでは答えにたどりつけない。時間はかかるけれども対話は大事なことなのですね。
そうです。言葉に置き換えないとね。だから、どんな単純なものでも、「どうしてそうなったの」と必ず根拠を聞いて答えてもらう。時間はかかるけれども、子供とやりとりしながら授業を進めていくというのが対話教育なのです。なおかつ、事物教育と対話教育の中で行っているのは、「3段階学習法」というものです。一つものごとを理解するときに、まず最初に、身体全体を使って取り組む。次に、手を動かして試行錯誤をする。そして最後に、ペーパーで理解を確認するという一連の流れで行います。
受験に向けた幼児教室のほとんどは、最後のペーパー教育しかやりません。確かに、実際の小学校受験ではペーパーを使いますから、最後のところが問題になるのですが、それはアウトプットであって、そこに行きつくまでの過程として身体を使って、手を使ってインプットしないことには成り立たないと思います。
幼児教育への考え方を伝えるとともに、現場の先生たちを育てる。
─「落ちこぼれをなくしたい」と始められた幼児教育が、結果的に小学校受験に求められる能力向上につながっています。大学入学共通テストでもようやく思考力を問う問題に変わりはじめました。KUNOメソッドの注目度も高まってきているのではありませんか。
私が始めたころは見向きもされなかった幼児教育が、時代が変わって、ようやく必要とされるようになりました。「5歳までの教育が人間の一生を左右するかもしれない」というジェームズ・ヘックマン氏の主張も、OECDの教育政策として取り入れられ、全世界でそれをベースに幼児教育改革が進んでいます。私自身も2017年から5年間、大阪市からの依頼を受けて、大阪市特別参与(大阪市保育・幼児教育センターアドバイザー)として活動しました。そのときに試みたのが、幼小一貫教育です。義務教育ではない幼稚園や保育園の教育を一元化し、その上で小学校とどうつなげていくか、学校の先生と幼稚園の先生が集まって議論をしました。
2021年に文科省に、幼児教育と小学校教育との円滑な接続について調査審議をする『幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会』が設置されましたが、大阪ではそれに先駆けて実施していたのですね。大阪は教育にすごく熱心なまちで、橋下徹市長のときには幼児教育の無償化を国よりも3年ほど早く実施しましたし、次に吉村洋文市長が就任してからは「いくら無償化しても、いい教育をしなければ意味がない」と、教師の研修と質の高いカリキュラムをつくる目的で、幼児教育センターという組織ができました。
─ 久野代表ご自身、日本の教育が求めている思考力の高い人材を育てるための活動を今も続けていらっしゃるのですか。
以前ほど多くはありませんが、今も現場に出て、子供たちに実践しながらカリキュラムを修正し続けています。一方で、KUNOメソッドを広めるために幼稚園や保育園に出向いてお話しすることもありますし、こぐま会に集まっていただいてセミナーや講演会を行うこともあります。
まずは、私たちの考え方を知っていただくことが大事。ただ、考え方を理解していただいても、すでに保育園・幼稚園のカリキュラムがある程度固まっている中で、実際に導入するということはすごく大変なことです。さらに大変な問題は、各園の理事長や園長が「ぜひ、導入したい」と思っても、現場がなかなか動いてくれないことです。当の先生自身が意図的な知育指導を受けた経験がありませんし、子供たちに実践したこともないわけですから、労働の負担を考えるとできないという判断になってしまうのですね。
以前、韓国の先生方が見学に来られたときも、「とても素晴らしいメソッドだけれども、私たちは教員養成の時教育は教え込むものだと指導されてきたので、子どもの能力を引き出すこぐま会の教育はできません」とおっしゃいました。子供たちの力を引き出すというやり方を学んでいないので、先生は教えることが仕事だと思っているのです。結局、いいメソッドがあっても、現場の先生たちを育てないことには進まないのが現状なのです。
─ 保育園・幼稚園の現場が変わるのはなかなか難しいと思いますが、塾には学校ができないことを補完してきた歴史があります。最近では保育園・幼稚園を手掛ける塾も増えていますし、基礎教育の重要性もわかっていますので、塾との提携は非常に発展性が あるのではないでしょうか。
10年ほど前に広島の大木スクールさんと業務提携したのですが、今や広大附属小学校の合格者数はトップクラスです。実績が伸びてくると現場の先生も一生懸命動いてくれますので、メソッドを浸透していくには塾との提携が早いという想いはあります。同じくKUNOメソッドを提供しているSAPIXさんの運営する非受験の幼児教室SAPIX Kidsでは、年に数回セミナーを開催しています。そこに参加される保護者様の多くは、受験は考えていないけれども幼児期の教育の重要性を理解されていて、非常に熱心に聞いてくださる。そういう層は潜在的にいると思いますので、そこにどうアプローチしていくかも課題です。
また、保育園・幼稚園への導入も全国に少しずつ展開していますが、導入の際の大きな問題は、たくさんある教材・教具を保管する場所がないということです。中には、こぐま会から毎週運んだり、発送したりしているところもあるのですよ。
─ 特注の教材・教具が多いのですか。
基本的には、授業意図に則して一つひとつ手作りした教材・教具を使用しています。そのときに、なるべく生活用品を使うようにしていますので、100円ショップへ行って探したりします。というのは、子供たちが生活の中で知っている物を使った方が、家に帰っても自分が学習したことを覚えているからですね。もちろん、モンテッソーリ教具のようなものにもとても意味があるのですが、極めて特殊なもので手に入りにくいため、できるだけ生活用品を使うことをベースに考えています。
─ 公式ネットショップを拝見しますと、たくさんの教材を販売しています。例えば『ひとりでとっくん365日』という教材はどういうものですか。
教室には通わず、家庭での学習を何から始めればよいかわからないという方におすすめなのがこのテキストです。この教材が生まれた背景には、こぐま会初のオリジナル教材として制作した家庭学習用のテキスト『ひとりでとっくん』シリーズがあります。1987年に最初の5冊が出版され、20年間かけて全部で100冊、1冊が30ページありますから、3000枚のペーパー教材になりました。これは教室での実践活動をふまえ、子供たちがどこで躓くか、どうすればその壁を乗り越えられるのか、検証を繰り返しながら無理なく学習できる教材として単元別に編集し、作成したものです。本来ならば系統立てて作るのですが、まずは作りやすいところから作り始めてしまったので、保護者の方から「何から始めたらいいですか」と聞かれたことがあったのですね。それで、『ひとりでとっくん365日』を作りました。1カ月につき1冊ずつ取り組んでいただく前提で、1年分12冊あり、こぐま会の教室の授業進度に合わせて作ってあります。本来、幼児期の基礎教育のために作ったものなのですが、世の中に小学校受験の教科書というものがないため、その代わりとして売れ続けていて、その後に出版したシリーズも売れています。
─『ひとりでとっくん』シリーズは、書店でも購入できるのですか。
もともとは教室に通ってくださる会員のみなさんに家庭用教材としてお渡ししていたものなので、市販するつもりなどありませんでした。そのうち、会員のお友達の方々が「譲ってもらえますか」と事務所の窓口にまでやってくるようになって、そこで細々と販売していたのです。すると、当時渋谷駅前にあった大盛堂書店の方がそのことを聞きつけて、「うちに置いてくれませんか」とやってきたのですね。市販するつもりは全くなかったので断ったのですが、何度もアプローチされて根負けしました。すると、今度は紀伊國屋書店から問い合わせがあって置くことになったのですが、紀伊國屋は全国に店舗がありますから広まって、結局、現在は全国225店ほどの書店に置かせていただいています。
シンガポールとトルコを拠点に、アジアや中東地域での展開拡大へ。
─ 昨年は、トルコやベトナムでの展開もされていますが、海外での活動にも力を入れているのですか。
KUNOメソッドは海外からも高い評価をいただき、アジア地域を中心に教室指導や教材販売などが行われています。最初は韓国での展開からはじまり、続いて中国、バングラディシュ、ベトナム、インド、タイ、シンガポール、そしてトルコへと拡大しつつあります。昨年には、学研ホールディングスのグループ会社、学研トルコと業務提携し、トルコ南西部のリゾート地アラ二アで幼児教育セミナーを開催、トルコにおけるKUNOメソッドの普及を開始しました。トルコでは、幼児教育自体がまだ一般的ではありませんし、メソッドもモンテッソーリ教育が中心ですので、新しい日本のメソッドにすごく興味を持ってくれています。
─ 久野代表は伊藤忠彦先生に師事し、いわゆる研究畑のご出身ですが、今の研究者の方々と何か共同で取り組むこともお考えなのでしょうか。
トルコのアラ二アでセミナーをしたときに、アラ二ア区長や教育省の方、現地大学の研究者も多数出席してくださったので、日本発のメソッドがトルコの大学で研究の対象になるかもしれないと期待しています。そのセミナーと前後して、トルコの幼稚園に見学に行きました。今日本でも話題になっている「森のようちえん」で、自然の中でさまざまな経験を積んで主体的な学びを身につけるドイツ発祥の教育法を行っています。
私たちがちょうど園舎に到着するころ、年中児たちがリュックを背負ってすぐ裏にある山へ出発するところでした。そこで2時間ほどテーマを決めて、いろんな遊びを経験し園舎に戻ってくるそうです。
そして、ここでの生活上のルールはすべて「子供会議」で決められるとのことでした。会議場は園庭です。焚火ができる炉の周りに、切り株に板を渡した長椅子をいくつか作って、子供たちみんなで一つのテーマについて議論します。例えば、「授業中に先生や友達の話を静かに聞くためにはどうしたらいいか」というテーマで話し合い、そこで決まったことをみんなで守るというわけですね。海外の幼児教育の関心の高さにはほんとうに驚かされます。
─ では、今後の海外進出についての計画はありますか。
シンガポールでは現地向けの「KUNO Method Singapore」と、日本人向けの「KOMABAキッズ」の二つの教室事業を展開していますので、アジアでの展開はシンガポールを拠点として、その周辺の国に普及したいと考えています。それから、トルコを中心に中東地域への普及を目標として講演会活動などをやっていくつもりです。─ それは楽しみですね。これまで私の勝手な思い込みで、こぐま会さんは外部にあまり情報発信されないのだと考えていました。塾業界のみなさんにもメッセージがありましたらお願いします。
最近、高校受験や中学受験をメインにされている塾さんから、幼児期のカリキュラムを導入したいという相談が増えてきました。私たちは事物教育を大切にしているので、先ほどお話ししたような教具・教材の問題や、先生の指導という部分で導入は簡単ではありませんが、今後はセミナーや研修なども充実したいと思っています。それから、私自ら教師として登場するWEBレッスンなどオンラインコンテンツは、今はこぐま会の会員と提携教室・園の生徒さんにしか配信していませんが、今後一般生のみなさんにも提供することを考えています。
また、こぐま会では、小学校入学前の年長児・年中児を対象に、自宅学習をサポートするオンラインサービス「ふでまる道場」の運営もしています。ふでまる道場主催の「全国幼児発達診断テスト」を、年3回オンラインにて無料で実施していますので、塾のみなさんからも情報発信していただければと思います。2年前からスタートし、のべ1万名以上の子どもたちが参加しています。次回は9月に実施する予定です。
幼児教育の現場にたち、今年で50年。今後も、可能な限り実践活動を通した幼児期の基礎教育の重要性を発信し続けて参りたいと思いますので、ご注目いただければ幸いです。
「月刊私塾界」2024年7月号 TOP LEADER Interview より転載
https://www.shijyukukai.jp/