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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今年の入試から何を学ぶか(4) 正確な問題分析を

第368号 2012/12/14(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 12月9日に、今年秋に行われた2013年度入試について、女子校を中心に「学校別入試分析セミナー」を行いました。学校ごとに45分の時間をとって、詳しくお伝えしました。昨年までの1校10分程度の報告と違って、かなり詳しく入試の内容・合否判定のあり方などを報告することができました。特に今年は、次の点をしっかり分析しておく必要があります。

(1) 大きく変わった入試日程の結果、どのように併願できたのか。
(2) 入試問題がどのように変化したのか、しなかったのか。
(3) 合否判定はどのようになされたのか。実力主義の傾向は強まったのかどうか。
(4) 行動観察・面接等、学力以外の観点が、合否判定にどのように影響したのか。
(5) 来年開校の「慶應義塾横浜初等部」の入試はどのように行われたのか。

2014年度入試を受ける受験生の方々は、以上のような点について正確な情報を持たなければなりません。この点があいまいのまま、根拠のない噂話に右往左往していたのでは、落ち着いて勉強できません。入試情報が学校側から公開されないことに便乗し、自分たちに都合のよいような「商業主義の情報」がこれから頻繁に流される危険性があります。何が真実で、何が嘘か・・・それを見抜くためにも正確な情報が必要です。特に家庭学習について考えた時、「最近の傾向を引き継ぎ、問題がどのように発展しているのか」をしっかり見極めておかなければなりません。その中で、学校側が一体どんな能力を求めているのかを明らかにし、それを受験対策の柱にしなければなりません。今手元にある今年の入試問題の中には、そうした点で検討に値する問題がたくさんあります。その中から3問紹介しましょう。

1. 図形構成
上にある3つのパズルを使って、左の形を作ろうと思います。それぞれどのパズルをいくつ使えばできるでしょうか。使うパズルのお部屋に使う数だけをかいてください。
2. 言葉つなぎ
1番上の(れい)を見てください。お部屋にあるものの名前の真ん中の音は、まくらは「く」、きりんは「り」です。これをつなげると「くり」になりますね。「くり」は秋のものなので、下のお部屋の秋を表すイチョウにがついています。
  • 同じように、下のお部屋にあるものの名前の真ん中の音を考えて、名前を作ってください。そのものと同じ季節を表すお部屋にをつけてください。
3. 一対多対応と交換
上のお部屋を見てください。2個に換えられます。◎は2個に換えられます。
  • それぞれのお部屋にある印を全部に換えると、はいくつになりますか。その数だけ右のお部屋に青いをかいてください。

「1」の図形構成の問題は、我々大人にとっても難しい問題です。3問ある問題は、やさしい問題から難しい問題へと並んでいますが、最後の問題を解く時に、最初の2問の解き方が応用されるかどうかがポイントです。そのためにも、分割作業を繰り返し、試行錯誤する能力が求められます。普段の学習がペーパートレーニングだけの学習では、到底身につかない能力でしょう。日頃から、図形構成 - 図形分割を、カードなど具体的なものを使って繰り返し試行錯誤する経験がどうしても必要です。11月23日のコラムでも紹介した問題も含め、図形問題にいろいろな工夫がなされ始めているのが、最近の傾向の一つです。もともと数の領域と図形の領域が入試問題の中心であることには変わりはないのですが、考える力を問うオリジナルな問題は、数の問題よりも図形の問題の方が作り易いのかもしれません。

「2」の言葉つなぎの問題は、2011年度に聖心女子学院初等科で出題された問題が基本になっています。従来からあった「しりとり」の問題を変化させ、下から2番目の音を次のことばの頭に持ってくるというルールで言葉をつないでいく問題でしたが、この新しい発想の問題が2012年度には他校に波及し、その流れが続いているということです。なおかつ今回のこの問題は、でき上がった「ことば」を探すのではなく、でき上がったことばと同じ季節のものを探すというように、季節の理解も絡んだ複合問題といえます。こうして変化していく問題の一番の基礎となる考え方は、あることばが「いくつの音でできているか」「どこに何の音がつくかという」という、「一音一文字」の考え方にあります。そうした基本をしっかり学んでおくことが大事です。

「3」の一対多対応を応用した「交換」の問題は、このコラムでも過去何度か紹介している雙葉小学校で出題されたパン屋さんの問題などから派生しているものです。、◎=という交換条件を示したうえで、すべての部屋の種類の違う丸をすべてに変えるという問題です。一対二対応の考え方と、を仲立ちに、◎との関係を考える問題です。この学校では、この4年間同じような趣旨の問題が出されており、またこの学校に限らず、こうした「交換」をテーマとした問題が多く出され、それが新傾向の入試問題として存在しています。

工夫された難しい図形課題、一音一文字に関する応用問題、一対多対応の応用としての「交換」問題・・・こうした新傾向の問題は今年も引き継がれています。それどころか、ますます進化していると言っても過言ではありません。

こうした問題を分析し、その対策を考えれば考えるほど、「ペーパートレーニングだけこなせば小学校受験は大丈夫」だという結論に至らないことは、お分かりいただけると思います。しかし、受験対策の現状はと言えば、相変わらず「合格を勝ち取るためには、毎日50枚のペーパーをやらなくては駄目だ」という雰囲気ができ上がってしまっているのです。なぜでしょう。教える側が受験の実態を知らないはずはありません。とすれば、手抜きの授業と言わざるをえません。多くの事物やカードを用意し、子どもたちの理解の道筋に沿って「考える力」を育てることは、大変な準備が必要です。ペーパーだけの学習は、市販の問題集をコピーするだけで準備は何も要りません。だから、カリキュラムも存在しないのです。こぐま会が出している問題をコピーし、さもオリジナルな問題だと言って嘘をつき、授業で隠れて使っている塾がどれだけ多いことか。以前はそれをコピーし販売していたところもあったくらいです。悪質極まりない行為です。どこかの国のコピー社会と同じことが、この日本でも堂々と行われているのです。幼児期の子どもの教育は、授業意図に沿って、教具教材を準備するのが大変なのです。授業意図をしっかり持ち、子どもの考える力を育てるために、どのような教具・教材を使うか。その準備の過程こそが大事なはずなのに、他塾の問題をコピーし、ペーパーだけ使った指導をし、できなければ「来週までにわかるように家庭でやってきなさい」・・・これが高い月謝をとって行う指導なのでしょうか。「合格させたい」という親の願いをうまく利用し、「考える力」を育てる教育とはほど遠い指導がまかり通っているのです。こうした現実を考えると、やはり受験生の保護者はもっと賢くならなくてはいけません。そのためにも、正確な情報を持たなくてはならないのです。思考力を問う問題がたくさん出されている現実を踏まえれば、ペーパーだけを使った教え込みの指導では対応できないことは、だれが見ても明らかです。

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