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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

問題が進化していくプロセス(1)

第326号 2012/2/3(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 1月29日に、ひまわり会主催「合格カレンダー連続講座」の第2回目を行いました。今回は、雙葉小学校合格に向けた家庭学習の対策セミナーです。今年の入試問題と合否判定に絡む情報をお伝えした後、最近の入試問題が易しくなっている現状を、実際に出された問題を素材に詳しく分析しました。易しくなったとはいえ、まだまだ小学校入試の中心的存在であることには変わりません。特にこの学校で出題された問題が他校に波及している現状を見ると、問題作りにかけては他校を一歩リードしているといっても過言ではありません。使用するペーパーの問題がだんだん少なくなっていく時代の中で「考える力」を問う問題が多いのは、この学校の特徴でもあるのです。そうした問題がどのように発展し現在に至っているのかを、この学校で出された入試問題を提示して解説しました。

ところで、ここ数年雙葉小学校のセミナーの際に必ず保護者の皆さんに解いてもらう問題がありますが、今回もこの問題を参加者の皆さんと一緒に考えました。

 動物村のパン屋さんは次のようにパンを取り替えてくれる。
  • メロンパン1個はドーナツ2個と交換できる
  • 食パン1斤はメロンパン2個と交換できる
  • ハンバーガー1個はメロンパン1個とドーナツ1個と交換できる
 問 : ハンバーガー4個は、食パン何斤と交換できるか

解答 : 3斤

この問題は、かけ算の基礎となる「一対多対応」の応用問題として、入試問題の中でも難問の一つとしてとらえている問題です。設問は3問ありますが、最後の1問が難しいのです。ハンバーガー4個が食パンいくつと取り換えられるかどうかという問題ですが、入試を控えた9月頃にやっても、20~30パーセントぐらいの子しか正確に解けません。
どのような答えが出てくるかというと、「2個」や「6個」という答えが多く見られます。2個と答える子は、メロンパン4個を食パンに変えただけで、ドーナツを変えていない結果から起こる間違いです。また、6個と答えた子は、ハンバーガーをメロンパンにのみ置き換えて、そこで終わりにしてしまっている間違いです。どちらも考える方向性は合っているし、途中まではしっかりできているのですが、正解に至っていません。そもそもこの問題の難しさは、1種類(この場合ハンバーガー)のものを2種類(この場合はメロンパンとドーナツ)のものに交換できるという条件にあるのです。
こうした工夫された問題が出てくる背景には、それまでに類似したいろいろな問題を出題し、「子どもたちがどのように考え、答えたか」という学校側の分析があるはずです。その分析の上に、この問題が出てきているはずです。実際に雙葉小学校の過去問を調べてみると、確かに問題が進化・発展していく過程がはっきりとわかります。次の図は、一対多対応に関する最近の問題の発展過程をまとめたものです。

- 特徴的な問題の難易度比較 「一対多対応」 -


難しいとされる問題が出されていく背景には、これだけの経験があって初めて可能になるのです。子どもの理解度を無視して、大人が「これでもか・・・」というように難問を作っているわけではありません。だからこそ、この問題の後「難しすぎた」という反省があったのか、今回の入試ではまた基本問題に戻ってきています。では、この問題に至る過程を少し解説してみましょう。

2004年度に出された問題の中に次のような質問があります。「新しく女の子がもう1人やって来ました。カゴのミカンを女の子全員に3個ずつ配るには、ミカンはいくつ足りませんか。その数だけ月のお部屋にを描いてください。」というものです。この問題の難しさは、
  1. お話によって女の子の数が変化している。
  2. 1人あたり3個(一対三対応)配る問題であるが、カゴの中は「ひとカゴあたり4個」になっている。これをどのように処理するか。
という点にありますが、入試問題としては基本的な問題と考えてよいと思います。子どもが何人かいて、1人に配る数が決まっていて、全体でいくつ必要か、あるいはいくつ足りないか(余るか)といった問題の一つです。

これが2005年度になると、「大きい葉っぱ1枚は、木の実3個と換えることができる。小さい葉っぱ1枚は、木の実1個と換えることができる」という約束になり、その約束に沿って、交換する木の実の数を求めています。最後はやや応用的になり、「ポン吉くんは、大きい葉っぱ2枚と小さい葉っぱ3枚を木の実に取り換えたのですが、食いしん坊のリスさんに何個か食べられてしまい、5個しか残っていません。リスさんは何個食べましたか。その数だけリスさんのお部屋にを描いてください」と、途中の数が抜けた逆思考のパターンになっています。

この問題が出された3年後の2008年度の入試に、最初に示した「一対多対応」の応用問題が出題され、先ほどの葉っぱと木の実のように、1種類同士のものの交換条件の中に「ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個に換えてもらえる」という、1種類のものと2種類のものが交換できるという条件が出されたのです。このことが問題を難問化し、最後の問題「ハンバーガー4個は、食パンいくつと換えてもらえますか」になるのです。昔から「一対多対応」の問題を好んで出す学校ですが、この2008年度の問題が、過去問の中では一番難しい問題であったことは間違いありません。

そして2012年度の問題は、また2004年度の時のように、約束どおりに配ったとき何がいくつ余るか、足りないかを問う基本問題になりました。ただ、同じ一対二対応の問題でも、
  1. 1つのドーナツを2匹で食べると何個余りますか
  2. 飴を1人に2個ずつ配ると何個足りませんか
というように、1人が2つなのか、1つのものを2人で分けるのかをしっかり聞き分けられないと、混乱を起こす問題です。

問題が難問化していく背景には、その学校の過去の入試問題が基本になり、その問題がだんだん進化して難しくなっていくことがわかります。こうした分析を積み重ねていくことによって、さらに難しくなっていく問題を予想することができ、入試全体としてどこまで難しい問題をやっておいたらよいのかを考える手掛かりになります。そして今はっきり言えることは、こうした問題の進化が、ある学校の問題だけでなく、入試全体の中で新傾向の問題として進化し始めているのです。ある学校で出された問題の類似問題が、次の年に他校で出題されるという現象が起き始めています。その背景には、学校側のある事情が絡んでいることも分かってきました。その結果、結論としていま言えることは、その学校の過去問だけをやっていれば、それがその学校の入試対策になるという時代は終わったということです。小学校入試全体で何が求められているのか・・・そこをしっかり見ていかないと、有効な入試対策にはなりえないということです。

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