週刊こぐま通信
「学習相談Q&A」【質問8】
2007年2月9日 回答
受験生の皆さまの学習相談に、こぐま会室長がお応えします。 発達診断テストなどで課せられる「保存」の課題が、十分わかっていないようです。今後、どのような学習をしたら良いのでしょうか。

このテストを行ったピアジェ自身が言っていることですが、水量の移し替えに代表される保存概念のテスト問題を、そのまま教育の課題にしても意味はないということです。つまり、「移し変えても同じ」ということを教えこんでも、そのことには何の意味もないということです。「どうして同じであるか」に子ども自身が答えていける教育が必要だということです。
水面の高さは変わったけれど、容器の太さも変わっている・・・とか、思考の中で、もう一度もとのコップに戻したらどうなるだろうか・・・とか、水面の高さ以外の視点に気づけば、「同じ」と言えないことがわかってきます。「高くなったけど細くなった」「元に戻したらまた同じになる・・・・」 こうした考え方をピアジェは、「可逆的思考」と呼びました。つまり、思考の操作を逆にして、その出発点へさかのぼったり、ほかの立場に立って考えてみるという柔軟な知的操作こそ、あらゆる思考の基本だとみなしたのです。
ですから、移し変えても同じという答えが言えることが問題ではなく、なぜ同じなのかを説明できる能力が身につかなければ意味がないのです。直接この問題を教育の課題にするのではなく、「同じ」といえる能力をどのように育てるのか、つまり「可逆的思考」をどのように育てるのかを考えるべきなのです。
そのように考えてくると、「保存」概念が十分身についていない子には、さまざまな領域の学習を深め、その中で、違う立場にたって物事を考えたり、時間を元に戻して考えたり・・・そうしたことの積み重ねが大事だということです。左右関係の理解の中で、他人の右手を考えたり、四方からの観察の中で、自分以外の人の立場にたって、物の位置関係を考えたり、生活用品の分類で観点を変えて同じものを分類したり・・・そうした課題を一つ一つ解決していく中で、保存概念は成立していくのです。「同じ」と答えられたからいいのではなく、「なぜ同じか」にしっかりとした理由付けで答えられなければ、本当にわかったことにはなりません。
以前、テストで「同じ」と答えられた子に「どうして同じなの」と聞いたところ「だってお母さんがそういったから・・・」と答えていた子がいましたが、それでは本当にわかったことにはなりません。