ひとりでとっくん100 制作への想い
第956号 2026年10月20日(火)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会の家庭用学習教材『ひとりでとっくん100』が、この度「2026年度グッドデザイン賞」を受賞しました。ひとりでとっくん100の制作が始まったのは、40年前にさかのぼりますが、100冊を完成させるまでには18年かかりました。「なぜこんなにも時間がかかったのか」「どんな想いで作ってきたのか」を、当時を思い出しながら振り返ってみたいと思います。
1 制作動機
私が大学を卒業した1972年頃、学校の授業についていけない子どもたちのことが社会問題になっていました。そこで私は、知育を軽視してきた日本の幼児教育では将来の学びに支障が出るという想いから、正しい知育が必要だと考えて小さな幼児教室で実践を始めました。教科書がない日本の幼児教育を変えるために、まず教育内容を考え、教具・教材を手作りで作成してきました。その過程で生まれたのが、『ひとりでとっくん100』です。
2 制作方法
幼児期の子どもたちの「考える力」をどう育てるか、まずカリキュラム作りから始まりました。過去にお手本になるようなものが日本にはないため、手探りで作り始めました。ピアジェ・モンテッソーリ・ブルーナー・ヴィゴツキーなど、過去の文献にあたりながら理論的なバックボーンを作った後、実践的には遠山啓氏の「教科前基礎教育」の考え方から多くを学び、教室に通う子どもたちの反応を見ながら作り上げました。幼児期の教育方法は、基本的には「事物教育」ですが、身についたかどうかを点検するためのペーパー教材が、学びの最後に必要です。そこで考えたのが、単元別のペーパー教材でした。授業内容と連動させるために、制作した一枚一枚を授業の場で点検し、子どもたちの反応を見ながら、修正を繰りかえし、3,000枚のペーパーを作り上げました。完成までに18年かかったのは、そうした作り方をしてきたからにほかなりません。
3 名前の由来
最初に手掛けたのが、「点図形」の3冊でした。繰り返しの練習が必要な幼児の学習教材ですから、同じテーマで難易度も変えて3冊作りました。その際、問題集の名前をどう付けるかスタッフ間で話し合った結果、保護者の方が設問を読み上げなくても子どもだけで取り組めることから、名称を「ひとりでとっくん」としました。しかし、その後に作られた問題集は、必ずしも幼児1人でできるというわけではありません。保護者の方の助けも必要になりますが、最初の問題集づくりにこめた想いを大事にして、「ひとりでとっくん」という名称をそのまま残して使うことになりました。
4 市販することへの想い
もともと『ひとりでとっくん100』は、教室に通う子どもたちの家庭用教材として開発したものですから、市販するつもりは全くありませんでした。しかし、この問題集の存在を知った通塾生以外の保護者の方から、譲ってほしいとの要望をいただいたため、教室の受付で希望者に販売することにしました。その結果、書店にも問い合わせが多く寄せられたようで、渋谷の大盛堂の学参担当の方からぜひ扱いたいと頼まれました。お断りはしたのですが、何度も要請をいただいたため、直接取引の形で置かせていただくことにしました。そのことを知った大手の書店がぜひうちにも・・・となって、都内の大きな書店に広がり、今では全国約230の書店に棚をいただいています。
5 完成後の評価と新たな教材の要望
その結果、多くの皆さまにお使いいただき、いろいろな質問も寄せられました。一番多いのは「どれから始めたらよいか」という内容でした。100冊を製作するのに、学びの順序に沿って作ったかというとそうではなく、ペーパー教材化しやすいテーマから作り始めたので、学びの順序に沿っているわけではありません。そのため、そうした質問をいただくのは当然といえます。それに応えるためには、教室で学んでいる順序に揃えるのがいいと考え、『ひとりでとっくん100』の派生教材として『ひとりでとっくん365日』の制作に取り掛かりました。教室での1年間の学びに合わせて12冊作りました。
6 受験のために作ったものではありません
現在、教科書のない小学校受験において、『ひとりでとっくん100』は、受験のための教科書のような存在になっていますが、決して受験のために作った教材ではありません。小学校入学後に始まる「教科学習」の土台を作るために、何が必要かを考えて作ったのがこの教材です。ですから、実際に受験をされない多くのご家庭でお使いいただいています。この100冊が、今後も幼児期のお子さまの考える力を育てるために活用していただけることを願っています。
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こぐま会の学びをご家庭でも実践できるよう、学習単元ごとにシリーズ化したワークブック『ひとりでとっくん100』が、2026年度グッドデザイン賞を受賞しました。また、審査委員が個人的にお気に入りの受賞デザインを選ぶ「私の選んだ一品」にも選出されました。幼児期の「考える力」を育む独自の教育メソッド、100冊に体系化された学習内容、長年の試行錯誤を通じて磨かれてきた教材設計、そしてそれらを家庭で取り組みやすい形にして提供している点が高く評価されました。
『ひとりでとっくん100』特集ページ