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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児教育改革の問題点

第802号 2022年2月18日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年から始まった「中央教育審議会初等中等教育分科会」 「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」(文部科学省) は、昨年12月15日に第5回目が開催され、来週2月24日には第6回目が予定されています。幼保小の接続期の教育の質的向上についての意見交換が続いています。これまでに公開された議事録を見ると、さまざまな立場からいろいろな意見が出されています。
第5回委員会で配付された「資料1-1 幼保小の架け橋プログラムについて」 を見ると、日本の幼児教育改革の現状が読み取れます。その冒頭「現状の課題を踏まえた架け橋プログラムの必要性」の中の「幼保小連携の成果と課題」には、私たちがこれまで懸念してきたことがしっかりと表記されています。その部分を抜粋してみます。

【幼保小連携の成果と課題】

[成果]
  • 幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の3要領・指針の整合性確保
  • 幼保小接続期の連携の手がかりとして「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」策定
  • 小学校との連携の取組を行っている園が約9割に上るなど、取組が進展
[課題]
  • 幼稚園・保育所・認定こども園の7~9割が小学校との連携に課題意識
  • 半数以上の園が行事の交流等にとどまり、資質・能力をつなぐカリキュラムの編成・実施が行われていない
  • 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が到達目標と誤解され、連携の手がかりとして十分機能していない
  • スタートカリキュラムとアプローチカリキュラムがバラバラに策定され、理念が共通していない
  • 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」だけでは、具体的なカリキュラムの工夫や教育方法の改善方法がわからない
  • 小学校側の取組が、教育方法の改善に踏み込まず学校探検等にとどまるケースが多い
  • 施設類型の違いを越えた共通性が見えにくい
  • 教育の質に関するデータに基づき幼児期・接続期の教育の質の保障を図っていくための基盤が弱い
    → 接続期の学びや生活の基盤の育成に大きな影響

出典:文部科学省 中央教育審議会初等中等教育分科会
幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会 第5回(開催日時:令和3年12月15日)
配布資料「資料1-1 幼保小の架け橋プログラムについて」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/086/siryo/1422639_00002.htm

上の[課題]の中のいくつかを見てみましょう。
  • 半数以上の園が行事の交流等にとどまり、資質・能力をつなぐカリキュラムの編成・実施が行われていない
  • 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が到達目標と誤解され、連携の手がかりとして十分機能していない
  • スタートカリキュラムとアプローチカリキュラムがバラバラに策定され、理念が共通していない
  • 教育の質に関するデータに基づき幼児期・接続期の教育の質の保障を図っていくための基盤が弱い
同じことを別の言い回しで述べている面もありますが、要するに実践の裏付けのない議論に終始しているということです。それは、委員会の構成メンバーを見れば自明の理です。もともと「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」の答申が出た際にも、あまりにも具体性に欠けているため、こんなものでは現場の保育士や先生は混乱するばかりだと以前のコラムで述べたことがありますが、上の資料でも『十分機能していない』と明言しています。また、具体的な実践を踏まえた議論でないと意味がないと述べたこともありますが、『データに基づき幼児期・接続期の教育の質を保障を図っていくための基盤が弱い』とはっきり書かれています。

そもそもなぜ、幼児期と小学校をつなぐ架け橋が必要なのか、その必要性や改革の理念がないところで具体的な議論が始まるはずはありません。OECDの勧告を受けて動いているとは思いませんが、幼児期の基礎教育の重要性をどこまで認識しているのか疑問です。もし本当に理解していれば、小学校に上がってからどんな問題が生じているのか共通認識があってしかるべきです。遊び保育中心の幼児教育を100年以上続けてきた日本には、幼児期の基礎教育の実践例が少ないのです。「幼児の空間認識はどう育っていくのか」「幼児期の数概念はどう育ち、それが小学校に行ってからどういう問題として露呈しているのか」「日本語教育の在り方」「読解力を育てるためにどうすべきか」「主体性を育てるためにどのような経験をさせるべきか」・・・そうしたことを意図的にやってこなかった文科省の責任です。「6歳の4月に同じスタートラインに立つので幼児期の基礎教育は必要ない」としてきた結果どうなったのか、その反省に立ってスタートすべきです。そうした認識があれば、やるべきことはたくさんあります。小学校で学ぶ内容が、幼児期の子どもたちの遊びや生活とどうつながっているのか、小学校に入って壁にぶつかる問題は何なのか、その原因は幼児期にあるのではないのか・・・そうしたところから出発しなければ、今回の架け橋委員会の答申も、「幼児期に育ってほしい10の姿」と同じように、抽象的でわかりにくいものになってしまうだけです。

幼児教育界全体として、改革しなければならないという考え方は広まっているようです。しかし何をどうやったらいいのかわからないのが現状です。そうした現状があるためか、最近多くの保育園やこども園から、こぐま会のメソッドを導入したいというお話をたくさんいただいています。すでに複数の園で導入が始まっていますが、今後こうした要請が増えていくはずです。熱心な園であればあるほど、これまでのような遊び保育だけではいけないと考えているはずです。新しい考え方に立った幼児期の基礎教育が求められています。私が20年間かけてつくり上げた「KUNOメソッド」がそうした期待に応えられるよう、セブンステップスカリキュラムの見直しを始めています。そして子どもの生活や遊びと切り離されたところでの学習ではなく、生活の中における「問題解決型」学習を徹底し、自ら考え、判断し、行動できる子どもに育ってほしいと願っています。

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