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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児が入試問題を再現する

第798号 2022年1月14日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 2022年度の小学校入試で話題になったことの一つは、公立校として全国初の小中高一貫校となった東京都立立川国際中等教育学校附属小学校(http://www.12ikkan-j.metro.tokyo.jp/) の初年度の試験です。ホームページ上で、入試前に出題予定の内容の練習問題 、そして入試終了後には実際に出題された問題 を公表しました。入試にかかわる情報を可能な限り公開したということは、50年間小学校入試の指導現場にいた私にとっても本当に驚きでした。

これまでの小学校入試において、入試対策の学習がゆがんだ教育になっていく一つの大きな原因は、学校側から入試に関する情報が何も開示されないことでした。教科書もない、学校側からの説明も何もない、しかし入試問題は存在する・・・では受験されるご家庭では何を頼りに準備したらよいのでしょうか。幼児教室に通わないと情報が得られない現実の中で、情報そのものが操作されて出されており、受験生の皆さまが右往左往してきたのがこれまでの入試の現実です。過去問を10回やれば合格できるといったまやかしがまかり通り、幼児期の教育の動機づけとして意味のある準備教育がゆがんでいく現状を黙って見ていることができませんでした。正確な情報を受験生の保護者に伝えることは幼児教室の使命だと考え、受験されたご家庭にご協力いただいて子どもたちからの聞き取りを徹底して行い、入試資料集なるものを発行し続けてきました。今年も多くの学校で行われた入試問題の聞き取り調査を行ってきましたが、その中に立川国際附属小の問題もありました。

30年近く入試資料集を発行してきましたが、学校側に確認して作成したものではなく、子どもたちから聞き取った情報であることを前提に出版を続けてきました。当初「実際の入試問題と違う」と学校側からクレームがあるのではないかと思いつつ発行を続けてきましたが、30年間一度たりともそのようなことはありませんでした。それどころか入学後、ある学校の校長がこぐま会を卒業されたお子さまに「よくあんなに覚えていられたね」と、「話の内容理解」のお話の内容がほとんど間違いなく再現できたことに驚かれたという話を、後日保護者の方から聞いています。1人だけの記憶ではあいまいさが残りますが、5人、10人と話を聞いていくうちに入試の全体像はわかってくるものです。

今年は幸いにも、立川国際附属小で実際に出題された問題 がホームページ上で公開されています。私たちが入試直後に子どもたちから聞き取って再現したものと比較することができますので、ここに紹介したいと思います。テストは、学力試験(筆記試験)だけでなく、インタビューごっこや運動も行われていますが、筆記試験についてどうであったのかを見てみたいと思います。

まず、試験当日に立川駅の近くで聞き取った問題は次のようなものでした。

1. 話の内容理解
※お話は CD で聞く。 ※設問に入ってペーパーが配られ、設問を聞くときはペーパーを裏返して聞く。
今日は秋の日曜日(お休みの日?)。動物たちが公園に行く話。
はじめに来たのはリスさん。リスさんはベンチで面白い木の実を見つけたので、持ってきた木の実図鑑で調べた。次に来たのはヒツジさん。ヒツジさんはおえかき帳とクレヨンを持ってきた。ベンチに行くとリスさんがいたので、「一緒に木の実の絵をかこう」と言って一緒にかいた。そのあとに来たのがサル君。サル君はお友達からよく飛ぶ紙飛行機の作り方を教えてもらったのでみんなの分も作って持ってきた。3人で並んでいっせいに紙飛行機を飛ばして遊んだ。最後に来たのがキツネ君。キツネ君は畑で育てていたリンゴが大きくなったのでとって持ってきた。みんなでベンチに座ってリンゴを食べた。食べ終わるとキツネ君が「砂場で遊ぼう」と言ったのでみんなで遊んだ。
  • 問1:はじめに来たのは誰かをつける・・・リス
  • 問2:ヒツジが持ってきたのは何かをつける・・・クレヨンとお絵かき帳
    (サルが持ってきたものと言う子もいた)

※回転図形の問題も話の内容理解だったと言う子もいた(詳細不明)
  • このお話の季節の絵(花?)にをつける(選択肢:桜の横にランドセルがある絵など)
  • 最後に遊んだものにをつける(選択肢:滑り台、砂場、ブランコ、鉄棒)

2. しりとり
  • 上の部屋はしりとりでつながる。空いているところの絵を下から選んでをつける。

3. 一対多対応(男女で問題が異なる)
  • (男子)
    全部のお盆に箸を揃えるのに必要な箸の数はいくつか、右の箸をで囲む・・・6本に
  • (女子)
    全員がスリッパをはくのに必要なスリッパの数だけ右のスリッパをで囲む・・・6個に

4. 回転図形
  • 左の形が回転するとどうなるか、右から選んでをつける。

5. 数の推理
  • 次の1番下が4つのつみ木は、いくつのつみ木を使うか、その数だけ下のつみ木にをつける。

6. 線対称
※はじめに絵が描かれたB4サイズの見本の紙が配られ、「ひっくり返して透かして見たらどう見えるか想像してください」と言われる。 ※TVモニターに問題が映り、実際に持ってる紙を裏返して透かして見て答え合わせをする。
  • 同じようにペーパーの左の絵をひっくり返して見たらどうなるか、右から選んでをつける。

7. 運筆迷路・色塗り・・・男女共通
  • TVモニターにが2つ出る。に色が全部につくまでが制限時間になっていて、白い矢印から黒い矢印まで迷路を鉛筆で辿っていく。そのとき、できるだけ道にぶつからないようにする。もしぶつかったら消しゴムを使って消してやり直しても良い。
  • 迷路が終わったら今度は TVモニターにが5つ出る。また色が全部つくまでに雷と雲と月を青鉛筆で丁寧に塗る。 ※濃さは濃くても薄くても良い

立川国際附属小が公開した問題につきましては、学校のホームページ をご覧ください。筆記試験Aと筆記試験Bがあり、おそらく男女で多少問題が異なっていたのだと思いますが、私たちが聞き取ってまとめた上の問題は男女が混ざっています。

さてどうでしょうか。子どもたちが入試後すぐに再現してくれた問題と、実際の問題がこれほどまでに似ていることに驚かれると思います。幼児の記憶力は大変優れているため、これだけ正確に再現できるのです。

これまで私たちが作成してきた入試資料集や過去問題集も、多少の違いはあれど、ほとんど正確に再現してきたということがいえると思います。本来、学校側が行わなければならない情報公開を、私たちが行うというのもおかしなものですが、この体質が変わらない限り、小学校受験は過去問練習だけを繰り返す間違った教育に陥り、子どもの能力を伸ばすのではなく、成長の芽を摘み取ってしまうことにもなりかねません。この現実を学校側に真摯に受けとめていただき、立川国際附属小が今回行ったように、正確な入試情報を開示していただけることを期待したいと思います。50年間指導の現場にいた人間の切なる思いとして受け止めていただけたら、大変ありがたく思います。立川国際附属小の入試に取り組む姿勢を受け継ぐ学校が増えていくことを期待しています。受験準備をされるご家庭が、入試の実態とかけ離れた難問・奇問を訓練することが入試対策だと思い込まされている現実が変わらない限り、心を病んでいく子どもたちが増えていくばかりです。それを改善し、まともな入試対策が行われていくためには、学校側からの正確な情報開示がどうしても必要です。

※「東京都立立川国際中等教育学校附属小学校」WEBサイトへのリンクは、許諾をいただいております。
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