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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教育状況の変化が受験に与える影響

第606号 2018年1月5日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 明けましておめでとうございます

今、幼児教育をめぐる状況が大きく変化しようとしています。ジェームズ・ヘックマン氏の「5歳までの教育が将来を左右する」という、期待と不安に満ちたメッセージの影響で、今年は教育行政のレベルでも個人のレベルでも大きな動きが予想されます。それは、日本のみならず一人っ子政策を解除した中国でも、また教育の力で国の発展を期待する開発途上国においても同様です。

国内においては、「無償化」に対する期待がありますが、それだけでは改革にならないと考える関係者が、昨年3月に改訂された幼稚園教育要領などにみられる「小学校とのつながりを意識した教育改革」の方針に基づき、教育内容の改革に着手するはずです。また、大事な幼児期にきちんとした教育を受けさせたいと願う保護者の期待を受けて、民間のおけいこ事がますます増えていくに違いありません。選別が激しい幼稚園では、他園との差別化を図るために、意図的な教育を前面に出して子どもたちの募集に力を入れるはずです。そして、英語教育・文字の読み書き・漢字教育・数(計算)の教育・パズル教育などが、タブレット・通信教育・スクーリングなど、さまざまな形で行われていくことでしょう。しかしそこで行われる教育が、果たして子どもの将来にとって本当に意味のある教育なのかどうか、一度立ち止まって考える必要があるように思います。隣の子がやっているからうちの子もやらないと遅れてしまう・・・という不安が、若いお母さまの間では一種のプレッシャーのように蔓延しているようです。子育ての考え方に確信が持てないまま、そうした環境の中で右往左往する方があまりにも多いと聞きます。自分の目で確かめて、確信を持って・・・というより、他者との比較の中であせりを感じながら流されていくことが無いようにしていただきたいと思います。

東アジアや東南アジアの国々で教室事業をしていると、どの国においても正反対の考え方があることを強く感じます。徹底的なつめ込み教育で形を教え込んでいく方法を支持するグループと、それとは正反対に、教え込みの教育を排除し、まったく意図的な教育をしないで自然の中でのびのび育てることのほうが大事だと考えるグループと・・・例えばシンガポールがその典型ですが、他の国でも多かれ少なかれ、幼児教育に対する考え方・想いはまったく違うようです。それは、別の視点から見れば、すぐに形になって目に見える成果を求める人たちと、長い人生の基礎づくりとして、幼児期の教育を考える人たちとの違いかもしれません。英語教育の是非に関しても「発音は早いうちからやったほうが良い」という考えと、「日本語がまだ十分完成していない時期に2つの言語を習得することが、母国語で考える日本人にとって良いのかどうか」という考えがあるように、読み・書き・計算に象徴される、「早いことがいいことだ」と考える人たちと、読み・書き・計算の前にすべき大事なことがたくさんあると考える人たちとの違いにも現れています。

こうした状況の中で、小学校受験も大きく変わろうとしています。その要因としてあげられるのは次のことです。

  1. 教育界全体の改革の中で、小学校における教育のあり方にも変化が求められている
  2. ヘックマンの主張している、非認知能力をどう育てるかが注目され、その結果、行動観察や三者面談が合否に与える比重が高まっている
  3. その中心のひとつが、アクティブ・ラーニング、つまり主体的な学びをどのようにするかが求められている
  4. リーマンショックや震災の影響で減少した私立小学校の志願者を増やすために、学校側もいろいろ工夫し始めている
  5. その中心が、働く母親に寄り添った学校改革であり、預かり保育や給食の実施である
  6. 大学入試改革に象徴される、知識の量を求める試験から、思考力を見ようとする試験に変わろうとしている今、小学校受験でもペーパー主義の入試対策のあり方に対し、学校側が異を唱え始めている

昨年秋に行われた受験の様子を、しっかりと分析しておかなければなりません。問題が易しくなり、行動観察や三者面接が重視されたことは間違いありません。その変化の背景をしっかり掴んでおかないと、時代遅れの入試対策になってしまいます。こぐま会では、昨年12月に行われた入試結果報告会に引き続き、この1月からは「学校別入試分析セミナー」を行います。どのように変化したのか、また何が求められるのかを、現場の教師たちが日ごろの指導を踏まえてお伝えしたいと思います。ぜひご参加ください。

ヘックマンの考え方は、「ペリー幼児教育計画(Perry Preschool Study)」における何十年にもわたる追跡調査の研究がその根拠になっています。ただ、幼児期の教育に最大投資すべきだという主張の中で、早い時期から意図的な教育を受けさせるべきであると同時に、認知能力だけでなく非認知能力も大事だということが言われていますが、そのことがかえって母親たちに一種のプレッシャーを与えていることも事実です。わが子にも何かをさせないといけない、とあせっている様子が手に取るようにわかります。しかし、ヘックマンの主張の中であまり強調されていませんが、家庭教育の力、もっといえば両親の温かい見守りの中で、充実した幼児期を送ることの大切さがどこかに置き忘れてきてしまっているように思います。他人に預け、習い事をする前に、毎日の生活や遊びの中にこそ眠る大事な幼児教育のチャンスを逃さないようにしていただきたいと思います。ヘックマンの主張の根拠にも、家庭教育のあり方・親の接し方の大切さが必ず入っているはずです。そのことを忘れて、お金で解決する「教育の外注化」をしてはなりません。他人と比べようとする親の考え方が変わらない限り、幼児教育は成功しません。

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