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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試問題が変化していく背景は何か

第604号 2017年12月15日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 2018年度の私立小学校の問題を分析していくと、これまでと違った大きな変化が見られます。一つの学校の変化ならともかく、多くの学校でこれまでとは違った傾向が見られるとなると、これには何らかの原因があるはずです。入試だけというより、小学校教育の在り方、ひいては学校教育全体を包み込む何らかの状況変化があると考えるべきです。そうした大きな流れの中で、小学校入試の在り方、入試問題の作成方法などについて、これまでと違った動きがあるのではないかと思わざるを得ません。その一つとして、知識の量を問うような試験は、大学入試まで含めて変えていこうという流れがあること、特に問題を解いていく思考のプロセスを見ていこうという流れがあることは容易に想像できるところです。それに付け加え、「非認知能力」の重要性がうたわれている現状を見ると、行動観察の重要性が今までにも増して高まっていることは事実です。特に行動観察を重視する学校の先生方の中には、詰め込み教育による年長秋の学力差などそれほどたいしたことはないと考えている方が多いのも事実です。それよりも、入学後の集団生活を問題なく送ることができるレディネスが備わっているかどうかを見るほうが、よほど大切なことだと考えているはずです。

学力問題の難易度が高く、ペーパー試験であまり差がついてしまうと、行動観察や面接の評価が反映されないと考えたのか、ここ2~3年、常識問題が増える傾向にありましたが、今年はそれがより進んで、出される問題の多くが基本的なものになりました。その結果、どの学校も平均点は相当高かったのではないかと思います。しかし、だからと言って、40年以上も前から行われていた「知能検査」のような、パターン練習でできてしまう問題は1問も出されていません。また、入試対策の激化に伴い、難しい問題を徹底して教え込まれて来るような子どもは、入学後あまり伸びないという認識を学校側は持っています。それだけではなく、相当のプレッシャーの中で受験勉強を強いられてきた子どもたちの中には、勉強嫌いになってしまう子どもも相当多くいると聞きます。そうした間違った受験対策の結果、正しい幼児教育が阻害され、受験対策は毎日数十枚のペーパーをこなさないと合格できないといった誤った情報が流され、「受験教育は特別な準備をしなければならない」として受験者人口を減らす結果になってしまっている現状を憂えているからにほかなりません。特殊な訓練が必要な受験では、かえって受験者そのものを減らしてしまう・・・そう考えた学校側は、受験で求める学力のハードルを下げ、できるだけ多くの子どもたちに私立小学校の教育に関心を持ってもらいたい、そして学校の教育方針に納得してもらえる多くの家庭に受験の機会を与えたい・・・そう考えているはずです。またよく言われる関係者有利の間違った情報を払拭するため、兄弟関係であっても保護者が卒業生であっても、基準に達しなければ合格を出さないというように、徹底して「公平さ」を打ち出しています。
一時期盛り上がった関西方面の私立小学校が、受験者人口の減少に相当危機感を持っていることを知っている関東圏の学校は、いかにして多くの受験者を集めるかを考え、合同説明会を開催しています。それは並大抵な努力ではありません。今年受験者が増えたとすれば、そうした学校側の努力がやっと実ったと受け止めるべきです。その中でも特に、働く母親に寄り添った入試改革が実を結んだことは間違いありません。

ところで、今年の入試の特徴の一つとして「回転」に関する問題が多くの学校で出されているということは、前回のコラムでも紹介しました。もともと昔からあるテーマではありますが、これまでよりも、多くの学校で出題しているところを見ると、今年のテーマのひとつは「回転」だったということが言えます。では、どのように問題が工夫されているか、具体的な問題を使って少し説明しましょう。

もともと回転に関する問題は、次の3つの問題が基本でした。

(1) 回転推理
(2) 回転図形
(3) 回転位置移動

今回もこれに関する問題が、従来の形でいくつか出されています。例えば(1)に関しては、次のような問題が出されています。

真ん中のルーレットを見てください。ルーレットは内側の果物の絵が右に回ります。
  • メロンがウサギのところに行くと、カキはどの動物のところに行きますか。右のお部屋から選んで青いをつけてください。
  • ミカンがイヌのところに行くと、クマの前にはどの果物が来ますか。左のお部屋から選んでオレンジのをつけてください。

観覧車の問題がルーレット(回転する食卓テーブル)になっただけで、問題の質は変わりません。ただ、2問あるうちの後者の問題が難しく、これも観覧車と同じタイプの出題です。
また、(2)の回転図形は、次のような問題が出ています。

  • 左のお部屋の絵と、同じものを右から探してをつけてください。形が回っているものはよいですが、ひっくり返してあるものには、印をつけてはいけません。

図形が絡む回転問題としては典型的なものです。

(3)の回転位置移動は次のような問題が出ています。

  • それぞれのお部屋の左の形が右のように回ると、中の形はどうなりますか。右にかいてください。

回転したときに、方眼上の中の形の位置関係がどうなるかを推理する課題です。

こうした基本となる問題をベースに、今年はいろいろな問題が工夫されて出てきています。
特に次に掲げる問題は、これまでのそうした出題意図を踏まえ、より身近な課題として、またより難しくした問題として工夫しています。

  • 左の車のタイヤが回って、右の車のようになりました。右の形の足りないところに、それぞれ形をエンピツでかき足してください。

これは、円の回転ですが、角のある三角や四角とは違った難しさがあります。一見すると一番易しいと思われる円の回転ですが、実はこの円の回転が一番難しく間違いやすいことは授業を通して分かっています。タイヤの回転をイメージしたこの問題は、よくできていると思います。

また、次も回転の要素がたくさん盛り込まれている問題です。

  • 左のお部屋の形をぐるりと回したものはどれですか。右から選んでをつけてください。形は裏返しにしません。

「左の形を回したものはどれですか、丸をつけてください。形を裏返すのはだめですよ」という問題です。黒い点の位置が問題を解く鍵になるのですが、回転したときの位置関係を把握できるかどうか。特に、裏返してはいけないという条件がしっかり分かるかどうか・・・形の特徴や位置関係を把握して、正確に答えが導き出せるかどうか。工夫された問題のひとつです。

そもそも「回転」に関する問題はこれまでもありましたが、あまり多くはありませんでした。それがここ2~3年の間に目立つようになり、今年は今までになく多くの学校で出題されています。それだけでなく、他の領域の問題にも「回転」の要素が入り込んできています。昔からある問題に工夫を凝らして「考える力」を求めていくような、こうした問題づくりが今後も続いていくはずです。

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