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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教材作りで想うこと

第580号 2017年6月16日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 1972年以来今日まで、指導の現場でいつも考え続けてきたのは、子どもたちの考える力を育てるために、どんな教具・教材を用意したらよいかということでした。授業意図に即した有効なオリジナル教具・教材を精力的に開発してきました。指導の現場から生まれたものだからこそ、「使いやすい」と評価していただいているのではないかと思います。

基本教材である「ひとりでとっくん」シリーズは、完成までに20年かかりました。
100冊の問題集には全部で3,000枚のペーパー問題が収められています。1冊分は30枚ですが、易しいものから順番に問題が並べられているため、最初の5枚と最後の5枚とでは難易度がかなり変わります。そのため、どこまで理解し、どこから理解できなくなっているかが分かり、家庭学習の積み上げに効果があるように仕上がっています。ただ、ひとりでとっくんシリーズは、最初から100冊作ろうと計画したわけではなく、指導の現場で必要なものを集めていったら100冊になったということです。最初の3冊は「点図形」です。問題の意図を説明しなくても子ども自身でできるだろうということから、問題集を「ひとりでとっくん」と命名しました。しかし作り上げていくうちに、保護者の方からお子さまに説明していただかないと分からない問題にまで進みました。その段階で名称を変えようかと考えたこともありましたが、最初の想いを大事にして、すべてをひとりでとっくんシリーズとしてまとめました。しかし、作り方からお分かりいただけるように、学習する順番にはなっていません。全国でお使いいただいている皆さまからも、「どれからはじめればよいですか?」という問い合わせをたくさんいただいたため、学習の順序を示すために、「ひとりでとっくん365日」を発行しました。これは、1年間のこぐま会で行う学習の順序に合わせて作ったもので、こぐまオリジナル教材の中ではベストセラーになっています。教室に通う子どもたちは、授業で学習したテーマをひとりでとっくんシリーズから選んで取り組めばいいのですが、教室に通わない子どもたちが家庭で学習する際に手順がわかるよう、「ひとりでとっくん365日」を作ったというわけです。この「ひとりでとっくん365日」が、小学校受験の教科書的役割を果たしているようです。受験問題を作成する小学校の先生にも評価していただき、この問題集の中からもたくさんの類似問題が出されています。これは日本のみならず、海外でも高く評価され、たとえば上海では、最難関校のインターナショナルの先生が、「うちの学校に来るなら、ひとりでとっくん365日を使って勉強してきなさい」と受験生に伝えたことが口コミで広まり、5校ある提携教室は、常に満杯の状態のようです。また、中国全土でこの問題集の海賊版を販売している会社が10社にものぼるということを最近聞きました。警告を発するとすぐにネットから消えていくようですが、消えればまた登場するという、いたちごっこの状況です。しかし、このコピーを平気でビジネスにしようとしているのは中国だけの話ではありません。日本でも同じようなことが行われています。


  1. ひとりでとっくん100冊をばらし、組み替えて絵柄だけを変え、独自の問題集として販売する
  2. 教室事業で許可もなくこの問題集を使ったり、ひどいところでは、こぐま会の名前を変え、独自の教材ですと通塾する保護者に販売する
  3. ひとりでとっくん100冊の中にある問題に、小学校・中学校の内容を加味して加工し、新しい問題集として販売している

これまで何度か警告を発してきましたが、このひどい日本の状況を見ると、お隣の韓国や中国のことを平気でコピーする国だと批判はできません。

相当多くの教室で使われていることは、転塾してこられる入会者の皆さまがお話してくださいますから、間違いありません。販売しているものですから、個人で活用することに制限はありませんが、教室運営の要である一斉授業の教材に、許可もなくコピーして使うことは許されることではありません。

私たちの実践から生み出してきたオリジナル教材は、今また別な観点で注目されています。そのひとつは、高齢者の認知症対策に使えないかという研究が現場の医師の方々と共同して始まったということです。また、一方で「発達障がい」特に「知的障がい」を持つ子どもたちに有効に使えないかという検討も、専門家の方々と共同で始まる予定です。医学の進歩、特に認知の発達や脳科学の成果を取り入れた検証で、より良いものが提供できればと思っています。系統だった教材が一番必要な障がい児教育の現場に、有効な教材がほとんどないというお話を伺って、そうした現場で活用できる教材が作成できれば、こんなにうれしいことはありません。また、認知症対策に、幼児の発達に即して易しいものから難しいものへ、らせん型に作り上げた教材が意味を持つと伺って、人の認識能力を育てるプロセスは、幼児の教育だけでなく、いろいろなところで活用できるということを知り、また新しい仕事への挑戦が始まる予感がします。ものまねではない、独自の研究と実践で作り上げてきたからこそ、今また違った形で注目され始めているのだと思います。このことは、幼児であれ、高齢者であれ、知的障がいを持つ子であれ、人間の認識能力は同じ道筋を通って発達していくのだということを物語っています。

こぐま会のひとりでとっくんシリーズは、決して小学校受験のために作ったものではありません。その証拠に、3,000枚の中には、受験とはまったく関係のない内容もたくさん入っています。たとえば「一音一文字」という課題は、入試に出される前から、日本語教育の基礎として、最初からこのシリーズに入れています。こぐま会は受験を目指す子どもたちが大勢集まり学習する教室ですが、そこで行われている「KUNOメソッド」による教育は、幼児期の基礎教育を子どもの発達段階に即して指導する内容です。最近多くの専門家の方々が私の授業を見学にみえます。どうぞ、関心のある教育関係者の皆さま、「大切な幼児期に何をどう育てるのか」の具体的な授業として、ぜひ見学にいらしてください。そして、独自に作成した教具・教材が、どんな学習場面でどう使われているのかをご覧いただきたいと思います。



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