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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「こども保険」構想と幼児教育

第571号 2017年4月7日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 自民党の若手議員が中心になって、「こども保険」構想が打ち出され、連日報道されています。働く人や企業から社会保険料を上乗せして徴収し、それを財源にして、保育や幼児教育を実質的に無償化する構想のようで、近く党内に特命委員会を設置し、実現の可能性を検討するとしています。

ジェームズ・ヘックマン氏の「5歳までの教育が人間の一生を左右する」という考えに基づき、幼児期の教育に国家の教育予算を最大限投資すべきだという考え方がOECDの保育政策の根拠になり、いま世界的な規模で、幼児教育に対する投資が加速しています。日本も例外ではなく、安倍政権でも真剣に取り組む課題として掲げられています。地方自治体でも無償化に取り組むところが多く、大阪市では昨年4月から幼児教育の無償化に踏み切っています。問題は、その財源をどうするかということで、「こども保険」構想もその一つの考え方だと思います。

待機児童の問題が未解決の時代にあって、「こども保険」構想は、賛否両論これからもいろいろ議論されていくことと思います。ただ、待機児童問題にしても、子ども保険構想にしても、制度上の問題解決として注目を集めていますが、教育内容に関する議論はどこからも聞こえてきません。しかし、無償化することだけで問題が解決するはずはありません。教育内容が改善されなければ、無償化はかえって大きな問題を抱え込むことにもなりかねません。無償化に踏み切った大阪市の吉村市長はそのことを大変危惧され、無償化したからこそ教育の質を高めなければならないと考えているようです。この4月から開設された「大阪市保育・幼児教育センター」は、そうした考えのもとで「評価・情報提供機能」「カリキュラム開発支援機能」「教職員資質向上機能」の3つの機能を柱として事業を展開することになるということです。こうした動きに期待したいと思います。

私が幼児教育の現場に立ち始めてから、この4月で45周年を迎えます。1972年に大学を卒業以来、今日まで毎日子どものいる現場に立ち、幼児期の基礎教育のあるべき姿を、実践を通して考え続けてきました。その結果、年少から年長の3年間にわたる教育プログラムを、「教科前基礎教育」「事物教育」「対話教育」の3つの理念のもと「KUNOメソッド」として完成させました。このメソッドは日本国内のみならず、海外からも高く評価していただき、この10年の間に、東南アジアを中心に6つの国において実践が始まりました。また、教室で使用した手作り教材を、「こぐまオリジナル教材」として世に問い、日本全国で多くの子どもたちに使ってもらっています。こぐまオリジナル教材は、受験に特化した教具・教材ではありません。受験に関係なく、幼児期の基礎教育の教材として広く認められています。韓国の幼稚園では、現在8,000人近い子どもたちがこの教材で学んでいます。また、一人っ子政策が解除された中国でも、通信教育を開始する準備が進んでいます。2月から販売が始まった学習アプリ「ひとりでがんばりマスター!」は、幼児期の教育だけでなく、高齢者の「認知症対策」としても効果が期待され、その導入が検討されています。

遠山啓氏が、八王子の養護学校で、知的障がいを持つ子どもたちに難しい算数をどう教えるかを6年間の実践記録としてまとめた「歩きはじめの算数」(国土社)は、私が大学を卒業した45年前の1972年に刊行されました。そこで総括された「原教科」の思想を踏まえてつくりあげたKUNOメソッドが、これほどの広がりを持って活用されていくことに、喜びとともに大きな責任も感じています。実践の現場から生まれたメソッドであるからこそ、いろいろなところから声をかけていただいているのではないかと思います。現在、自治体や幼稚園からも、このメソッドを導入したいというお話をいただいております。もうすぐ70歳になろうとしている老体に鞭打って、いつまで現場に張り付くことができるのか。体力が許す限り、時代の要請に実践の現場で応えていきたいと考えています。

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