週刊こぐま通信
「室長のコラム」正確な入試情報をどう共有するか
第570号 2017年3月24日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

3月11日と12日の両日、「聖心・雙葉合格のために、これからすべきこと」と題した第1回室長特別セミナーを行いました。受付開始1時間で満席になるほど関心が高く、キャンセル待ちの方が大勢いらしたために、急遽増設し3月26日にも行うことに決めました。これから入試まで、毎月1回程度のペースでこの室長特別セミナーを開催していく予定です。
教室での受験指導の合間を縫ってこうしたセミナーを行う理由は、学校側から入試情報が開示されていない現状の中で、正しい受験対策を行うためには、私たち指導者と保護者の皆さまが正確な情報を共有しなければならないと考えているからです。受験対策をゆがめている責任の一端は、生徒獲得のために意図的に操作された情報を流している幼児教室にあると考えているからです。
情報が学校側から開示されていない現状は、正常ではありません。教科書もない、受験情報も学校側から開示されていない・・・いったい受験生の保護者の皆さまは何を信じて受験対策を取ればよいのでしょう。噂話や操作された情報で右往左往している保護者の皆さまを見ていると、学校側の責任は大きいと感じます。私は、今年で受験指導の現場に立って45年を迎えました。これまで機会があるたびにさまざまなところで「受験情報を開示していただきたい」と学校側にお願いしてきました。その甲斐あってか、少しずつ入試情報が学校側から出され始めていますが、今はまだ塾向けの説明会にとどまっています。そうではなく、学校説明会あるいは入試説明会のような場で、きちんと学校側から話す機会をつくっていくべきだと思います。先日、京都での教室開校に伴うセミナーで、立命館小学校の教頭先生とお会いし、お話を伺いましたが、立命館小学校では、どんな問題を出したか学校側から開示する場を設けているようです。今首都圏の小学校の多くは、ワーキングマザーに寄り添った改革を・・・ということでアフタースクールや預かり保育・給食などを実施したり、検討したりしているところがあるようですが、一番にやるべきことは、まず正確な入試情報をきちんと伝えることではないでしょうか。小学校受験を「特別な教育が必要だ」として、毎日ペーパーを何十枚とやらなければ合格できないとしてしまっているゆがんだ現実を正さなければ、せっかくの教育のチャンスを生かすことはできません。それどころか、間違った受験対策は、子どもの正常な心の発達を阻害してしまう結果にもなりかねません。公平な入試を行うというならば、学校側が入試情報を非公開にする理由は見当たりません。私学への関心を高め、定員割れの呪縛から逃れるためには、入試の事実を公表し、特別なトレーニングが必要だという間違った認識を改めてもらう必要があると思います。
今回のセミナーでは、こぐま会で第1志望にする方が多い聖心女子学院初等科と雙葉小学校の入試傾向を、次のようなテーマに絞り込んでお話しをし、合格に向けた正しい受験対策の在り方を説明いたしました。
1. 昨年度の問題から何を読み取るか
2. 過去10年間の問題分析
3. 行動観察の内容と評価法
4. 典型的な問題にみられる、この学校の出題傾向
5. 残り半年間の学習法
2. 過去10年間の問題分析
3. 行動観察の内容と評価法
4. 典型的な問題にみられる、この学校の出題傾向
5. 残り半年間の学習法
こうした冷静な分析をしていけば、両校が一体試験で何を求めているのかが良くわかります。そして、毎日50枚もペーパーをこなす学習がいかに異常なことで、いかに無駄な学習かがお分かりいただけると思います。1枚のペーパーを大事に学習すること、その過程で考え方をきちんと言葉で説明できるようにすること、そして自分の力で解いていけるようにすること・・・つまり、訓練で身につける解き方ではなく、自分の力で判断できる「考える力」を身につけなければ、私学の入試問題づくりのリーダー的存在である両校の難問には到底対応できません。
学校側から情報が開示され、それを受け止めた塾側が幼児期の基礎教育をしっかりやることによって、小学校受験が幼児期の基礎教育の動機づけになっていけば、入試のために莫大な時間を費やすことが、将来必ず生きてくると思います。ジェームズ・ヘックマン氏が『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社,2015)の中で「5歳までの学習が人間の一生を左右する」と主張しているように、幼児期の学習は、「学びが学びを呼ぶ」という意味でとても大事です。大事な幼児期の学習が受験のためにゆがんでいくことがないよう、指導者は心がけなければなりません。