週刊こぐま通信
「室長のコラム」日本発の教育メソッドが、どこまで世界に通用するか
第556号 2016年11月25日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

先日シンガポールから来客がありました。私の授業を見学された後、4時間にわたり幼児期の基礎教育をめぐって議論しました。今回見学に見えた方は、すでに0歳児から3歳児までの子どもたち1,500名ほどの教育を実践されているようでした。来日した際、書店でこぐま会の教材に触れて、その内容の系統性を高く評価されたようです。そして、これを生み出してきた実際の教育現場を見学したいということでの訪問でした。新年度のクラスがスタートしたばかりでしたが、14名で行う年長クラスを見学していただきました。ちょうど位置表象の大事な単元である「左右関係の理解」の授業でしたが、体を使った集団活動、物事に働きかける事物教育、話し合いを通して理解を深めていく対話教育の中で、子どもたちの集中力が途切れることなく90分間も持続することに大変驚いていました。
今回の授業見学の目的は、KUNOメソッドをシンガポールでも広めていきたいからとのことでした。具体的には、シンガポールにおいてKUNOメソッドを使った教室を運営するとのことです。実は私たちも、シンガポールでの教室運営の可能性を探るために、今年5月に現地調査に出かけていました。塾関係者や現地の人たちにお会いし、教室運営が可能かどうか、いろいろ意見を聞いてきました。その結果、日本人が現地に出向いて教室を開くには、就労ビザ取得の困難さや物価の高さなどを考えると、とてもハードルが高いことを知り、半ばあきらめていたところでした。そんな折にメソッド提供の依頼を受け、私たちとしても、KUNOメソッドを世界に広めるために、シンガポールでの実践は大きなステップになるだろうと期待しています。
「なぜKUNOメソッドが必要なのか」をお聞きすると、おそらくどの国でもそうではないかと思いますが、シンガポールでも日本の幼稚園や保育園のように、一方では自由な遊び保育があり、もう一方では徹底的な知識の教え込みの英才教育が行われているというのです。両極端で、その中間がないということです。すなわち、子どもの発達段階に応じた適切な教育プログラムがないというのです。そこで、KUNOメソッドの中身を検討したところ、その抜けた部分の大事な「考える力」教育には一番ふさわしい教育方法だというのです。特に、事物教育や対話教育を明確な理念としたプログラムや3段階教育法を実践しているところは、世界中どこを見てもないというのです。厳しいシンガポールのエリート教育の基礎づくりには一番ふさわしいメソッドであると評価していただきました。
ところで昨日、テレビでシンガポールの教育について解説している場面を観ました。その解説を聞いて、なぜシンガポール国立大学が東京大学を抜いてアジアナンバーワンの大学にランクされたのか、その背景が理解できました。
- 資源のない国であるために、人材育成のために相当な教育費を国家予算として計上している
- 小学校を卒業するときにPSLEという試験があり、この試験の結果で普通の中学校に通って大学進学への道を進むのか、それとも技術系の学校に行くのかが決定する。そのため、大学に行くために小学校卒業までの間、相当の勉強を行わざるを得ない
- 大学に行ける人数は、同年齢の30パーセントしかない。日本のように誰もが大学に行ける状況とは全く違う
私が30年の実践活動を通して開発した、幼児期の考える力教育「KUNOメソッド」は、現在、日本国内のみならず、中国・韓国・ベトナム・インド・タイですでに実践活動が行われ、来年は今お伝えした通りシンガポールでも始まる予定です。一番教育熱が高いアジア圏でこのメソッドが認められていけば、その意味は大きいと思います。日本発の教育メソッドが世界に通用するかどうか・・・これから、その真価が問われていくはずです。小学校受験のためだけの基礎教育ではなく、真のエリートを幼児期から育てるメソッドに仕上げるために、これからも現場での実践に磨きをかけていきます。来年4月から始まる予定の市ケ谷教室は、そうした理念のもと、これからの時代の教育要求にこたえるために、新しい目標を掲げた教室づくりを目指したいと考えています。