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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「交換」問題の理解は、どこまで進んだか

第548号 2016年9月30日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 数領域の入試問題の中で、最近よく出される課題に一つに「交換」の問題があります。このコラムでも何回か取り上げましたが、その典型的な問題は、2008年度の雙葉小学校の問題です。

動物村のパン屋さんは次のようにパンを取り替えてくれます。
  • メロンパン1個はドーナツ2個と換えてもらえます。
  • 食パン1斤はメロンパン2個と換えてもらえます。
  • ハンバーガー1個は、メロンパン1個とドーナツ1個と換えてもらえます。

【問題】
(1) ドーナツ4個は、メロンパン何個と換えてもらえますか。
(2) 食パン2斤は、ドーナツ何個と換えてもらえますか。
(3) ハンバーガー4個は、食パン何斤と換えてもらえますか。

この問題には大事な考え方が求められています。

(1) かけ算の考え方とわり算(包含除)の考え方
(2) AとB, BとCの関係から、Bを仲立ちとして置き換え、AとCの関係を考える

(2)の置き換えの考え方が難しく、4月ごろはクラスで半分ぐらいしか理解できていませんでしたが、今はほとんど間違いなく理解できるようになりました。特にCからAを問う問題が難しかったわけですが、それも間違いなく理解できるようになっています。しかし、この問題の最後の問い「ハンバーガー4個は、食パン何斤と換えてもらえますか」のように、1種類のものが2種類のものと交換できるという約束の問題になると、夏が終わった段階でも正解率はまだ30%ぐらいしかありませんでした。しかし、だからと言って、全く見当はずれな答えを出していたわけではなく、あと一歩で正解・・・というところまで来ていました。現在は、もう少し正解率は上がっていると思いますが、これから1カ月間で何とか解決できるように練習しなければなりません。学習のポイントは、交換した時いったい何に換わったか・・・というところをしっかり把握できているかということです。2回置き換えをしなければならないところを、1回置き換えをして安心してしまうことがないようにしなければなりません。

こうした状況を踏まえ、今週ある学校別クラスで行った、値段をテーマとした交換の応用問題での取り組みを見る限り、かなり理解が進んだように思います。

交換の条件で、例えばA=2B=4Cの場合、=には「重さが同じ」「交換できる」「値段が同じ」・・・などいろいろな意味づけができますが、なぜか子どもたちにとって難しいのは「値段が同じ」という条件です。お金を使う経験がほとんどなく、イメージするのが難しいからかも知れません。具体的な問題は次の3問です。

一対多対応の応用問題(交換・置き換え)
1. どちらが高いか
こぐま町の八百屋さんでは、ニンジン1本は、ジャガイモ2個と、そして、ミニトマト4個と、同じ値段です。
  • 上のお部屋に値段のお約束がかいてありますね。
    では、下の並んだ2つのお部屋の野菜は、どちらが高いでしょうか。高いと思う方に青いをつけてください。

2. 同じ値段のものはどれか
よう子さんが、こぐま町の八百屋さんにお買い物に来ました。
よう子さんはニンジンを2本買いました。
  • ニンジン2本と、同じ値段の野菜が入っているお部屋を探して、青いをつけてください。

3. 同じ値段にするにはどうするか
八百屋さんは、ニンジン2本と同じ値段の野菜かごを作ろうと思いました。
  • 下の3つの野菜かごをニンジン2本と同じ値段にするには、何をいくつ足せばよいでしょうか。下の野菜のお部屋に足す数だけをかいてください。

最初の問題は、ニンジン1本とジャガイモ2個とミニトマト4個が同じ値段であるという約束で考えた場合、どちらのほうが値段が高いかを判断する問題です。どのように置き換えていくかが問題ですが、左上の問題は、ニンジン1本をジャガイモ2個に置き換えるか、もしくはジャガイモ3個のうち2個をニンジン1本にするか・・・どちらでもよいわけです。何に置き換えて比較するかは子どもの判断で構いませんが、種類が複数になった場合の置き換えが問題になります。その際、ジャガイモ1個がミニトマト2個と同じ値段だという置き換えができるかどうかがポイントです。左下の問題が4問中一番間違いが目立った問題です。どのように解いたか子どもたちに聞いてみると、以下のように考えて答えを出したようです。

  1. ニンジン1本とジャガイモ2個を対応させ、片方のニンジン1本とミニトマト2個と対応させると、ジャガイモは2個で良いけど、ミニトマト2個では足りないと考え、ニンジン2本のほうが高いと判断する
  2. 全部をミニトマトに換え、左はミニトマト8個、右はミニトマト6個だから、左のほうが高い
  3. 全部をジャガイモに換える。左は、ニンジン1本はジャガイモ2個だから2本で4個。右のほうは、ミニトマト2個でジャガイモ1個と置き換えてジャガイモ3個。だから左のほうが高い

このように、判断する方法はいろいろありますが、いずれにしても自分の考えを説明させることが大事です。何となく分かった・・・のではなく、しっかりと自分の考えを言語化できてはじめて理解したことになります。ただ、全問(4問)正解者が、15名中6名であることを見ても、子どもたちにとっては難しい問題の一つであることは間違いありません。

2枚目の問題は、ニンジン2本と同じ値段のものを探す問題です。約束は1枚目と同じですし、比べ方が変わるわけではありませんが、こちらの出来具合のほうが悪かったようです。何が難しいか。それは、下段右と下段中央が同じ値段かどうかの判断です。
ジャガイモ1個とミニトマト6個(下段中央)については、ジャガイモをミニトマトに換えてミニトマト8個にしてしまえばニンジン2本と同じ値段だということは分かるのに、多分わかりやすい「ミニトマト4個を最初にニンジン1本」に換えてしまい、残ったジャガイモ1個とミニトマト2個をどうしようか考えたはずです。ここでもやはり、ジャガイモ1個とミニトマト2個が同じ値段だという置き換えができるかどうかがポイントです。

3枚目の問題は、2枚目とは逆に自分で値段をつくるというオリジナル問題です。前の問題と同じ約束で、ニンジン2本と同じ値段にするために、何をいくつ篭に入れたらよいかを考える問題です。この場合、最初の2問は答えが一つではありません。ジャガイモで考えても、ミニトマトで考えてもいいわけです。ただ最初の問題は、ミニトマトで考えるのが一般的ですし、2問目はジャガイモで考えるのが分かりやすいと思います。最後は、ミニトマトだけでしか答えられませんが、ここでもジャガイモ1個とミニトマト2個が同じ値段であるということを理解しなければなりません。3問ともできた子が15名中5名であることを見ても、かなり難しい問題であることがわかります。

私たちが交換の問題を重視しているのは、「入試でよく出されるから」という理由だけではありません。数に関する理解度だけでなく、子どもの考える力がどこまで身についているかを見る意味では、とても優れた問題であるからです。機械的なトレーニングでできてしまうような問題ではありません。論理的思考力がなければ解けませんし、ましてや解き方を説明することもできません。幼児期の子どもが言語を通して論理を深めていくには、とてもよい問題だと思います。難しい問題だからこそ子どもの考える道筋が分かるし、どこで分からなくなっていくのかも手に取るように分かります。今回の問題に即して考えれば、

  1. Bを仲立ちとして考える時、AからCは理解できても、逆にCからAを問いかけるとわからなくなってしまう・・・逆から考えることのむずかしさ
  2. 2B=4Cの時、B=2Cが理解できるかどうか

この2点がポイントです。将来のかけ算・わり算の考え方につながる思考法を、ここでしっかり身につけておくことが重要です。

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