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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

大学入試改革と小学校受験

第512号 2015/12/25(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 12月23日の朝刊各紙は、2020年度導入予定の新共通テストの問題例を文部科学省が公表したことを伝えています。高校・予備校関係者から、変更は無理だと言われていた「センター試験の改革」をどのように行うかについて、新たに導入する記述式問題のイメージを有識者会議に示したようです。それによると、記述式問題は、国語と数学の必修科目から先行導入するようです。その中で大事な点は以下のようです。

1. 記述式問題は、受験生の思考力や判断力、表現力の評価を目的とする
2. 数学では、回答に至る式を答えさせ、思考過程を判定する
3. 新テストでもマークシート方式は継続するが、選択肢の組み合わせで複数の解答が成立する「連動型複数選択問題」の導入等、出題形式を見直す
(時事通信社記事より抜粋)

としています。特に私が注目しているのは、
記述式であること
解答に至る思考過程を判定するということ
複数の解答が成立する問題であること
の3点です。

大学入試が変われば、高校の授業内容や方法も変わるでしょうし、高校が変われば中学、中学が変われば小学校と、大学入試改革が教育界に及ぼす影響は測り知れません。その結果、小学校入試に与える影響も出てくるはずです。そこで、何が一体変わるのかをしっかり把握しておく必要があります。知識偏重・認知能力偏重のこれまでの入試とどう異なるのか、そして、そのことが普段の教育活動にどう影響してくるのかを、把握しておかなければなりません。

実は、平成26年11月に中央教育審議会から文部科学大臣に対し、「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」という諮問があり、指導要領の改訂に向けた審議の中でも、大学入試改革につながる重要な指摘をしています。この中で、日本の子どもたちに必要な資質や能力と、各教科の役割を次のように述べています。

  • これからの時代を,自立した人間として多様な他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な資質・能力をどのように捉えるか。その際,我が国の子供たちにとって今後特に重要と考えられる,何事にも主体的に取り組もうとする意欲や多様性を尊重する態度,他者と協働するためのリーダーシップやチームワーク,コミュニケーションの能力,さらには,豊かな感性や優しさ,思いやりなどの豊かな人間性の育成との関係をどのように考えるか。また,それらの育成すべき資質・能力と,各教科等の役割や相互の関係はどのように構造化されるべきか。
  • 育成すべき資質・能力を子供たちに確実に育む観点から,学習評価の在り方についてどのような改善が必要か。その際,特に,「アクティブ・ラーニング」等のプロセスを通じて表れる子供たちの学習成果をどのような方法で把握し,評価していくことができるか。

入試の内容・方法が変わるということは、これからの時代を背負う子どもたちに身につけてほしい「学力観」が変わりつつあるということです。

では、ここで語られている「アクティブ・ラーニング」とは一体どんなものなのでしょうか。これは、次期学習指導要領のキーワードになるはずですが、現在の「知識を教えるのが教育だ」と考えている人たちにとって、教育方法の変換は大変なものになるはずです。課題解決型学習といえばよいのでしょうか。その一つの例が、みんなが教室に集まって知識を学ぶのではなく、前もって身につけておいた知識を使って、出席者全員でひとつの課題を解決するために議論し、実際の行動に移すということだと思います。海外では当たり前になっている「反転授業」もその一つでしょう。アメリカの大学生は、授業に出るまでにたくさんの本を読み、資料を集め、考えをまとめ、授業準備をして講義に出席し、活発な意見交換をするそうで、日本の大学の講義のイメージとは全然違うようです。高校までの授業では、大学と同じようにはできませんが、少なくとも知識偏重のこれまでの教育の在り方を変えなければ・・・という想いがあるはずです。

実は、これからの学習の基本となるだろう「アクティブ・ラーニング」は、こぐま会30年の実践活動で大事にし、蓄積してきた教育方法そのものです。私たちは、

1. 教科前基礎教育
2. 事物教育
3. 対話教育

3つの理念を掲げ、幼児期の基礎教育を実践していきましたが、まさしくこれから目指す国家の教育方針を、すでに30年前から行ってきているということです。しかも、教え込みになりがちな幼児期の教育でそれを実践してきたのです。ですから、今回の方針を何も驚くことなく、当然なことだと受け止めています。しかし、「アクティブ・ラーニング」をどのように構造化し実践するかは、たやすくできることではありません。まず教える教師の考え方から変えていかなければならないからです。一番大事な教師の育成をないがしろにして、新しい考え方の教育を実践することなど、できるはずはありません。

冒頭で述べた、「解答に至る思考過程を判定するということ」や、「複数の解答が成立する問題であること」は、私たちはすでに日常授業の中で実践しています。特に、解答に至る思考過程を大事にし、それを言葉で表現させてきた、「事物教育」・「対話教育」の方法が間違っていなかったということです。また、「視点を変えてものを見る」ことを大事に育ててきた実践が、例えば「観点を変えた分類」のように、解答が複数あるということにつながる大事な指導であることも改めて実感しています。

最近の小学校入試の変化を分析していくと、こうした大学入試改革と考え方において連動しているように感じられます。非認知能力を重視する姿勢や、作業によって答えを導き出す問題・法則性を自ら発見して、それを使って問題を解いていくなど、知能検査的な問題から完全に脱却した今の小学校入試は、これからの入試改革のモデルになっても良いのではないかと思っています。ですから、入試のための準備教育の在り方も、変わらざるを得ないのは当然です。相変わらず、ペーパートレーニングに終始し、過去問特訓だけを繰り返す指導法は、入試対策にならないだけでなく、学校が打ち出すこれからの教育方針にも合致していかないことは明らかです。

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